第5話 アリシア、弱点部位を突く?
暗殺集団≪シガーソケット≫のメンバー。
エイミーン=ランドシック。
エヴァちゃんの奇襲(?)によって、がっつり拘束されて、魔力吸収効果のあるロープで縛られている状態だ。
そんなエイミーンさんが、ラッシュさんに鋭い眼光を向けて叫ぶ。
「ラッシュ! お前を殺す!」
「わ、私ですか⁉」
まったく見覚えがない、といった具合に、ラッシュさんが驚きの声を上げる。けれど、そこに緊張感はない。剣を構えたりとかそういった仕草は見られなかった。
だけどまあ案の定というか……やっぱりその目的で待ち伏せしていたんですよねー。
でもなんでこんな中途半端な場所で……。いや、そもそもどうやってわたしたちがこの街道を通るってわかったんだろ?
いろいろ疑問に思うことはあるけれど、エイミーンさんから少しずつ聞き出すしかないよね。
「まあまあ、エイミーンさん。とりあえずいきなり物騒な話はやめてくださいよ。こちらも手荒なことはしなくないので、一旦落ち着いて話し合いましょう?」
そうじゃないと、このままギルドに突き出すしかなくなっちゃうわけだから。
11年前にラッシュさんとの間に何があったのか。
恋が憎しみに変わったのはなぜか。
いろいろ気になることがあるのでお願いしますよー。
「あのー……エイミーンさん? 聞こえてますか?」
「話すことはない! 殺せ!」
うへぇ、暗殺者ってこういう感じが普通なの?
取り付く島もないんですが……。
まさかと思うけど、服毒で命を絶とうとしたりなんてことはないよね?
≪歯の裏に仕込み毒がありましたが、拘束時に無効化済みです。ご安心ください≫
やっぱりそういうのあるんだ……。
組織の秘密を隠すために、みたいな? 暗殺者ってストイックというかなんというか。
「そんな怖い顔していないで、お話しましょうよー。かわいい顔が台無しですよ?」
「ななななななななななな」
突然、エイミーンさんが大声で何かを叫び出す。あれ、なんか壊れちゃった?
「ななな?」
「何言ってるんだ⁉ おまっ……かわいいだなんて!」
目が飛び出るかと思うくらい見開いたと思ったら、そのまま後ろにひっくり返って動かなくなってしまった。
どうやらわたしが何気なく放った一言が、エイミーンさんに大きな衝撃を与えちゃったらしい?
「大丈夫ですかー? いや、普通にエイミーンさんかわいいし。別にお世辞とかではなくてただの感想ですよ?」
「やややややめてくれ! 私はブスで暗殺しか取り柄のない人間だ! 私の顔を見るなっ!」
エイミーンさんは、エヴァちゃんが口に拘束具を噛ませる時にずり下げたであろうマスクをグイと持ち上げて顔を隠してしまった。
≪アリシア≫
ん、何、エヴァちゃん? 内緒話?
≪エイミーンさんの弱点部位を確認しましたか?≫
いや、してなかった。何かあるの?
≪「容姿や体形を褒められること」です≫
ほぇ? 褒められるのに弱いってこと?
≪ただ褒められることではなくて、容姿や体形について褒められること、ですね≫
そんな人いるんだ……。
まあ、顔はそこそこかわいいよね。そこそこだけど。
≪アリシアは理想の基準が高すぎます。この世界の美的感覚によると、平均を大きく上回る容姿をされていると出ていますが≫
そうなんだ?
もしかして……わたしってすっごくかわいい?
≪はい、すごくかわいいです≫
真顔で言われる恥ずかしいんですけど⁉
今はちょっとボケた場面なんですけど⁉
≪私はロボ。事実しか申し上げられません≫
またロボに逃げるー。
まあいいや。エイミーンさんはまあまあかわいい人。それはわかりました。
で、体形って? 見た目ガリガリだし、そんなに魅力的ではない気がするけど?
≪アリシアの好みの話をしているのではないです。一般的に言えば、「スレンダーで美人だね」と褒められる体形をされています。暗殺者としても理想的です。小柄で細身のほうが潜伏するのに有利ですから≫
へぇー。
≪もう少しだけ興味を持ってあげてください≫
スレンダーとか……自分ので見飽きてるし。
あ、もしかして、そこにコンプレックスが?
≪エイミーンさんはコンプレックスどころか、自分が醜悪な容姿で、人には見せられない体形をしていると本気で信じているようですね≫
だから褒められると卒倒しちゃうの?
≪そうなのではないでしょうか。とにかく攻めどころはそこです。褒め殺しして、懐柔してしまいましょう≫
りょうかーい。
じゃあその作戦で行きましょう!
「エイミーンさん! 髪の毛さらさらできれいですね!」
「ぐはっ!」
「小っちゃい鼻とそばかすがかわいい!」
「ごふっ!」
「なで肩が女の子っぽくていいですね!」
「げふっ!」
「腰ほそーい!」
「ぐふっ!」
「お尻小っちゃくてプリプリー!」
「げふぇんっ!」
「ふくらはぎが引き締まってるー!」
「ぐるふぁっ!」
「おへそ見ちゃお♪ 小っちゃくってかわいい♡」
「も、もう許してぇ~」
はいギブアップ♡
褒め殺し作戦でエイミーンさんは息も絶え絶えに。
これで話を聞けるぞー!
「アリシアさん……アリシアさん……」
ん、ナタヌ、何?
と振り返ると――。
「まさか新しい女に乗り換えようと……」
目にいっぱいの涙を溜めたナタヌがスカートの裾をギュッと握りしめていた。
「違う違う違う! これはそういうのじゃなくて!」
ちょっとエヴァちゃん、ちゃんと説明して!
≪アリシアは古い女には興味ないそうです≫
「ちょっとウソ教えないの! 違うからね? ナタヌのこと大事だから! ね? ね?」
「アリシアさん……今までお世話になりました……」
ああっ! ナタヌ行かないでー!
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