第4話 アリシア、暗殺者と対峙する

「こ、こんにちは? お元気……ですか……?」


 エヴァちゃんの用意した特殊なロープでグルグル巻きにされてミノムシみたいに木の枝に吊るされている女性に声をかけてみる……。


「んんんん~~~~!」


 キリッとした目が特徴的などこか猫っぽい印象の美人さん(エイミーンさん)が怒っていらっしゃる……。

 そりゃそうだよね。

 エヴァちゃん、これはやりすぎ……。


≪そうですか? 服は着ています≫


 言いつけを守ったのはそこだけでしょ。

 魔力吸収するロープで縛って木に吊るすのはやり過ぎ……。もう完全に犯罪者扱いじゃないの。


≪賞金首です。完全に犯罪者ですよ≫


 いやまあ、犯罪者ではあるんだろうけど……。別にわたしたちが被害にあったわけではないっていうか……。


「アリシアさん! これはどういうことですか⁉」


「こちらの方はいったい……?」


 馬車の中から、ナタヌとラダリィが降りてきた。


 まあ説明なしにこの状況はびっくりするよね。

 それで、男どもは? なんで馬車から降りてこないの?

 肝心なラッシュさん早く来て! ラッシュさんがいないと話が進まない……。


≪お2人とも中で寝ていますね。どうやら満腹でお休みになったようです≫


 何やってんのー! 叩き起こしてきて!

 

≪Yes. My Lady.≫



「急にボコボコに殴られたんだが……」


「あ、アリシア様……これはいったい……」


 ヨレヨレになったスレッドリーとラッシュさんの2人が馬車を降りてきた。

 2人とも右足を引き摺って……。


「エヴァちゃんやり過ぎ……」


≪叩いて起こして来いとの言いつけを守っただけです≫


「叩き起こしてって言ったの……。急いで起こしてきてって意味だから、ホントには叩かないで……」


≪言葉は正確に伝えてください。私はロボ。命令を実行するだけの存在です≫


 ウソつくなー!

 わかっていてやってるでしょ!


 まったく、どうしてこんなひねくれた子に育っちゃったのかな。って、これがわたしの鏡写しなの……サイアク!


「エヴァちゃんがごめんね……」


 2人に治癒ポーションを手渡しながら謝る。

 1口飲めば、まあ治るケガではあるんだけど……。


「それで、この状況はなんだ?」


 スレッドリーが木に吊るされた女性――エイミーン=ランドシックさんを眺めている。

 エヴァちゃんに殴られたことを気にした素振りは見せない。器が大きいというか……。まあ、それはラッシュさんのほうも同じかー。


「えーと、ラッシュさん?」


 スレッドリーの隣に立つラッシュさんに声をかけてみる。


「はい、なんでしょうか?」


「この女性に見覚えはありますか?」


 ラッシュさんはしばし観察した後に、まったく心当たりがないといった様子で首を振る。


「……いいえ? どなたでしょうか」


「まあそうですよねー。うん、さすがに覚えているわけはない、と」


 11年前のことだし、エイミーンさんも当時10歳だったから、見た目もずいぶん変わっているだろうし。


「とりあえず下ろして話を聞きましょうか。エヴァちゃん、ロープの拘束はそのままで、その人を下ろして、口の拘束具だけははずしてあげて」


≪わかりました。おい、絶対に暴れるなよ! 暴れたらアリシアさんが死ぬまで殴るからな!≫


 恫喝するんじゃないの!

 しかもわたしの名前を使うなっ!



* * *


「えーっと、はじめまして。アリシア=グリーンと言います」


 一応挨拶から……。

 ちょっと仕切り直せる自信がないけど……。


「ふん」


 そっぽを向かれてしまった。

 まあ怒ってますよね……。


「急に縛り上げたりしてごめんなさい。エイミーン=ランドシックさんよね?」


「なんだ、私のことが誰だかわかってやったのか! だったら早くギルドに突き出すなり、殺して首を切り落とすなりすればいいっ!」


 うーん。怖い。

 さすが暗殺者って感じ……。


「怖い……。アリシアさん……この方は誰なんですか……?」


 ナタヌがわたしの背中に隠れつつ、エイミーンさんを恐る恐る観察する。

 密着しすぎ……胸当たってるから。……いや、これは……わざと当てている⁉


「ナタヌさん、アリシアから離れてください……。このままだと警告ですよ」


 さりげなくラダリィチェックによる警告……の前の予告が入る。


「ちぇ~っ」


 ナタヌは舌打ち風に抗議の声を上げると、わたしの背中に胸を押しつけるのをやめる。

 この子! やっぱりわかっていてやっている! なんて小悪魔なのかしらっ!


「アリシア、みんなにもわかるように説明をお願いします」


「うん。えーと、この人はエイミーン=ランドシックさん。暗殺者で≪シガーソケット≫っていう集団に属している……簡単に言うと賞金首かな」


「賞金首か。ではこのまま最寄りのギルドに突き出そう」


 スレッドリーがとくに感情も見せない平板な声で言う。

 意外とドライ! こういう場面には慣れているのかな?


「なぜ暗殺者がこのような場所で……。まさか殿下のお命を狙って⁉」


 ラッシュさんが刀の柄に手をかける。


「あ、たぶん違っていて――」


 と、わたしが言いかけたその時。


「ラッシュ! お前を殺す!」


 エイミーンさんが、ラッシュさんに鋭い眼光を向けて叫んだ。


 ですよねー。

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