第41話 アリシア、再び辱められる
「スレッドリーのせいで、めっちゃ話が脱線しちゃったじゃないのさ!」
ニセモノのリボンなんかもらって密約を交わしたりしてさー。わたしはそんなことを聞きたいわけじゃないの!
「俺のせいか……? それはナタヌが乱入して暴れたせい……」
「あ~! また私のことを悪者にしようとしましたね! 殿下はひどい人です! こんなひどい人の臣下になりたくないので、絶対王様にならないでくださいね!」
「いや……事実で……悪者にはしていないが……。それに王になるのは兄上だから……」
「と、このように謙遜した振りをして、スミナルド殿下を油断させる作戦なのですよ。ね? ナタヌ様も騙されないように気をつけてくださいね」
ラダリィがにこやかに微笑みながらスレッドリーのもとに歩み寄る。
「ぐうたらして、無能振りをこれでもかというほどアピールをし、油断させ切ったところで寝首を掻く。そういう作戦でしたね? ね?」
こわっ。
これが王族同士の争い!
「俺は王にはならないぞ。そもそも兄上が王にならないとみんなが困るんじゃないか?」
困り顔でため息を吐くスレッドリー。
作戦なんてものはなくて、心の底からそう思ってそう。それにスレッドリーは無能の振りなんてしてないもんね……。
「はいはい、本人も自覚があると思うけど、スレッドリーが王様になったりしたら、あっという間にこのパストルラン王国も滅びてしまうから、余計なことは考えないで行きましょう!」
「王子であることが、殿下唯一のアピールポイントなのに……おかわいそう」
「おかわいそう!」
ラダリィもナタヌもぜんぜんかわいそうって思ってない顔ですね? ニヤつきすぎて頬がピクピクしていますよ?
「俺にだって良いところはあるぞ!」
こぶしを突き上げて宣言する。
≪待ってください、殿下。その話はやめておいたほうが……≫
ん、エヴァちゃんどうしたの?
良いじゃないの。せめても自己アピールくらいさせてあげればさ。
≪アリシア……正気ですか? 死にたいんですか?≫
えっ?
「俺はたくさん金を持っているぞ!」
こぶしを突き上げ、堂々の宣言。
そうだった……。この人、困るとお金アピールしかしないんだったわ。
「お金! ずるいです! 私にもお金があれば孤児院を救えたのに……。でもお金がなかったからアリシアさんと出逢えたわけで……やっぱりお金なんてないほうが良いですね! 殿下もお金なんて捨てたほうが良いですよ!」
「そうなのか?」
「お金がないとアリシアさんがやさしくしてくれます!」
「そうなのか! よし、俺はすべての金を捨てるぞ!」
相変わらず極端だなー。
わたし、別にお金がない人に無条件で施しをするわけじゃないよ? 自分からお金を捨てる人となんて絶対友だちになれないと思うし、近寄りたくはないかなー。
「その意気です! 仕方ありませんね~、敵に塩は送りたくないのですが、殿下のためにもそのお金は私がもらっておいてあげます!」
「おう、ナタヌも実は良いヤツだったんだな!」
「いえいえ、そんなことはないですよ! 惚れないでくださいよ? めちゃくちゃキモいです!」
「大丈夫だ。惚れる要素がないから安心しろ」
「それはそれで傷つきます! 殿下ってやっぱりひどい人ですね!」
「なぜだ⁉」
いけない……。
このままでは2人ともお互いにお互いを傷つけて不幸な未来しか訪れない気がする……。
「殿下にはお金以外にも良いところがありますからね。さあ、もっとアピールいたしましょう」
「おう、そうだな! 俺はすごいぞ!」
ラダリィに焚きつけられて、スレッドリーの表情が一気に明るくなる。
自分ですごいっていう時はたいてい……。
≪殿下、その話はやめておかないとあとでアリシアに叱られると……≫
なんだかさっきからエヴァちゃんの様子がおかしいね。珍しくスレッドリーのことを止めようとしているし?
「俺は! 顔が良い!」
あっ、この流れ! ホントにまずいやつだ! 待って待って待って!
「正直……客観的に見て、殿下の顔面偏差値はそこそこ悪くはないと思いますけど……好みは人それぞれですからね! ちなみに私はぜんぜん好みじゃないです!」
と、ナタヌがなぜだか得意げな様子でわたしのほうに視線を送ってくる。
ナタヌ、その流れは良くない!
そっちの方向に持って行っちゃうと――。
「聞いて驚け! アリシアは、俺の顔が世界で1番好みだと言ってくれたんだ~~~~~!」
スレッドリー、今日1番の咆哮。
ドレス姿のスレッドリーが城中に響き渡るかと思うほどの大声を発する。
やっぱりそれかー!
「わたし、そんなこと言ってないっ!」
あれはラダリィの顔を立てて、どうしてもっていうから「好みの顔かもしれない」って言っただけ! 世界一なんてぜんぜんそんなこと言ってないし!
≪だから止めたほうがいいとあれほど……≫
エヴァちゃんが曖昧な感じで言うからぜんぜんわからなかったし! もっとちゃんと具体的に教えてよ! わたしの心を防衛できてない!
「アリシアさん、ウソだと言ってください! そんな……まさか殿下のことが⁉」
「違う違う違う! あれはホントに違くて、ラダリィのためにそういう流れで!」
「アリシア」
ラダリィがにこやかに頷く。
「……なによ?」
「殿下がお喜びです。ありがとうございます」
知ってるよっ!
あの時もうるさかったもんね!
あー、いくらお願いされてもあんなこと言うんじゃなかった!
もうっ! ラッシュさんもヤンスも「あらあら」みたいな顔してないで早くこっちに来て助けてくださいよ!
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