第40話 アリシア、愛の言葉を囁く

「私が本気の本気なら、きっとミィシェリア様が何とかしてくださいます! 100億万回お祈りしたら私の願いを叶えてくれます!」


 まさかの女神様頼みー⁉

 ミィちゃん、あなたの遣わしてきたナタヌさんがこんなこと言ってますけどー?


『盛り上がっていますね♪』


 えー、ミィちゃんの声が弾んでる……。

 さては黙ってずっと見ていましたね? そしてこの状況を楽しんでるでしょ……。

 

『これこそがアリシアの望んだハーレムなのではないでしょうか』


 そうかなー。

 なんか違う気がするけどなー。

 わたしが望んでいるのはもっとみんな仲良く楽しい生活……。


『誰がアリシアの1番の想い人になれるのか、皆真剣に戦っているのですよ』


 そういうふうに言うと聞こえは良いんだけど……。なーんか違う気がしていてね。わたしが子どもを産むの? そんなのぜんぜん想像もつかないんですけど……。


『ではアリシアが男になって、ナタヌに子どもを産ませれば良いのではないですか?』


 そんなこと急に言われても……。

 そうしたらスレッドリーはどうするの……。


『スレッドリー殿下ご自身が望むなら、女性にして差し上げましょう』


 げげ……。

 それはちょっと……かなりキモい……。


『そうですか? 殿下の五つ子の姉妹を想像したらそうでもないのではないでしょうか』


 あー、そっか。スレッドリーが女の子になったらお姉様たちみたいになるのか……。んー、それならあり……っちゃーありかも? え、でもそのためにはわたしが男に? それはさすがに……。


『今すぐ結論を出さずとも良いのではないですか。子どもは祝福。子どもは祈り。子どもは希望です。真に欲する時がタイミングなのですよ。その時に儲ければ良いのです』


 タイミングね……。

 そんな時が来たとしたら、本気で考えますよ。


 って、サラッと流してたけど、やっぱりミィちゃんがナタヌに「男にしてやる」とか言ったのね⁉ ミィちゃんのせいでナタヌの気持ちが変に盛り上がっちゃってるし……。

 

『ナタヌが男性になるとアリシアは困るのですか?』


 そりゃ困るよ……。


『それはなぜですか?』


 ナタヌがナタヌじゃなくなっちゃうっていうか……今のナタヌが好きだから、かな?


『それを直接伝えてあげてください』


 伝えてると思うけどなー。


『愛の言葉は、常に伝え続けないと不安になってしまうものなのですよ。さあ、今、ここで伝えてあげるのです』


 そういうものですか。

 わっかりましたーよー。


「ちょっとナタヌー」


「アリシアさん、止めないでください! 私はまだまだ言い足りないです! そもそも殿下は何もできない振りをしてすぐにアリシアさんの手を借りて、母性をくすぐるって! ホントにずるいです!」


 いや、たぶんスレッドリーのはできない振りじゃなくてホントにできないんだと思うけど……。わたしも別に母性をくすぐられて助けているわけじゃなくて、そのまま放置するといろいろめんどくさそうだから助けているだけだからね?

 違う違う、今はそんなことじゃなくて!


「ナタヌ! ちょっと聞いて! 大事な話!」


 ナタヌの肩を掴んで強引に振り向かせる。


「はい!」


 ナタヌの口撃が止まり、くりくりとした大きな目がわたしのことだけを見つめてくる。


「ナタヌ。ちゃんと言葉にするから聞いて」


「はい! なんでしょうか⁉」


「えっとね……。ナタヌが男にならなくても、今のままのナタヌが好きだから。ずっとそのままの姿でわたしのそばにいて?」


「あ、アリシアさん……」


 ナタヌが目を伏せる。


 あれ? 悲しそう……。うまく伝わらなかったかな……?


「だからね、1番とか、スレッドリーがナタヌのことを嫌っているとか、そういうことは関係なくて、わたしは今のナタヌのことが好きで、大切だと思ってる!……って伝えたかったんだけど……」


「……はい♡ アリシアさん好きです♡」


 ナタヌがわたしの胸に飛び込んでくる。

 胸に顔を押しつけないで。

 ちょっとマジ泣き!

 うわー、わたしの服がナタヌの涙と鼻水まみれに!


『一件落着ですね。これからも想いはきちんと言葉にするように。良いですね?』


 えー、これで良いの?

 なんか逆に収拾がつかなくなってない?

 スレッドリーもちょっと泣きそうな顔しているし……。


≪私にも愛の言葉をください≫


 はいはい、愛してるから特別招待選手はもうちょっとだけおとなしくしていて!

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