第38話 アリシア、密約の内容に驚愕する
「このリボンがほしかったら、どんな密約を交わしたのか、今ここで内容を明かして」
目の前で髪からほどいたリボン。
それをスレッドリーの目の前に突き出してみせる。
さあ、早いところしゃべってすっきりしよ?
スレッドリーはしばらく黙ったまま、わたしの手にしたリボンを眺めていた。
すると突然、床に膝をつき、手で顔を覆ってしまう。
「ああ……俺は……ひどい人間だ……」
えっ、急にどうしたのさ?
「俺は取り返しのつかないことをしてしまった……」
えっと、ホントどうしたの? これから懺悔でも始まるの?
密約とか大層なこと言って、実は大したことない……ってオチだと思っていたのに、ガチのマジでなんかホントの密約だったりするの?
≪ガチのマジで密約です≫
ちょっとやめてよー。
シリアスなのは似合わないって。
怒らないから内容をさっさと教えて。大きな問題になる前にさ。
≪それは殿下の口からお願いしたく≫
もう! 融通が利かないんだから!
えー、この状態のスレッドリーから聞きださないといけないわけ?
気が重いんだけど……。
「えーと、スレッドリー? お取込みのところ申し訳ないんだけど、懺悔する前にわたしたちにもわかるようにちゃんと説明してくれない?」
ホントに取り返しのつかないことかどうかもわからないしさ。
みんなで考えれば解決できる問題かもしれないよ?
「俺は我が身かわいさに、とんでもないことを……」
「だから何をしたのよ?」
じれったいな……。
≪ヒント。ナタヌさん≫
「ん、ナタヌ? その密約はナタヌに関することなの?」
2人で共謀してナタヌを陥れるとか?
え、何それ怖い。
「そうだ……。ナタヌ……俺はナタヌがうらやましかったんだ……」
「うらやましい? 魔法が使えるから?」
回復魔法だけじゃなくて、攻撃魔法や強化魔法、防御魔法も使えるもんね。
さすがエルフの血を引くだけあって、英雄級を通り越して神話級のプリーストになる素養がありそう。
もしかしたら、歴史に名を遺するのはスレッドリーよりもナタヌなのかもとか?
「俺は剣が使えるし、ナタヌが魔法を使えて良かったなと思っている。パーティー内で同じ役割の人間がいるより、それぞれ別のことができたほうが良いと思うからな」
うわ、普通にちゃんとした分析だ!
ライバルのはずなのに、ナタヌのことをちゃんと評価して認めている!
「ナタヌの魔法に嫉妬したんじゃないとしたら何よ?」
ほかにスレッドリーにはなくてナタヌにあるもの……隠れ巨乳?
「アリシアとの関係だ」
「わたしとの関係? どういうこと?」
「ナタヌはアリシアにかわいがられている……」
へっ?
≪ずるいです。ナタヌさんだけ特別扱いをしています≫
ちょっと2人とも……何を言っているの?
この旅の間は3人平等に、良いところを見つける機会にするって約束したよね?
特別扱いなんてしていないよ?
「その点は私からも釘をさすべきだと思っていました」
裁判長のラダリィが口を開く。
「おそらく無意識だとは思いますが、殿下とエヴァ様のおっしゃる通りです」
「裁判長……わたし、ナタヌのことを特別扱いしていた……?」
そんな……ぜんぜん気づかなかったよ。
「2人はいつも距離が近い。よく手を繋いでいる」
≪そうです。私が間に割って入ると不機嫌そうにします≫
それは……。
女の子同士だし、手を繋ぐのは普通じゃない?
「俺とももっと手を繋いでくれ」
≪私ともお願いします≫
うーん。
ちゃんと2人とも繋いでいると思うけどなー。
「あ、この間エヴァちゃんが用意していたわたしの手のフィギュアは? あれはよくできているから、あれにしときなよ」
「本物が良い」
≪偽物の手なんて何の価値もないです≫
それをエヴァちゃんが言うの? 自分で創ったんじゃ……。
「わかったわかった。ちゃんと2人とも手を繋ぎますから。もうこれでいい?」
2人の前に両手を差し出す。
「好きだ」
≪愛しています≫
そういうのは恥ずかしいよ……。みんなが見てるし……。
いや、ホントみんな見ないで!
とくにラッシュさんとヤンス!
遠巻きにニヤニヤしながら2人でコソコソ内緒話するのやめて!
「あー、えーと……満足したならもう離して?」
「嫌だ」
≪嫌です≫
そうですかー。
まあいいけどさ……。
「あ、ところで結局のところ密約って何なの?」
「それは……ナタヌがアリシアとイチャイチャしようとした時に、協力して邪魔しようと……」
スレッドリーはばつが悪そうに、わたしから顔を背けた。
「……いじめ?」
「違う! 1人だけ特別扱いされているナタヌに追いつくには、協力やむなしだと思って……」
≪私がそのように提案しました。このままではナタヌさんにアリシアを取られてしまうので≫
「やっぱりエヴァちゃんの仕掛けかー。そういうのでスレッドリーを悪の道に誘導するのはやめてあげてよね」
単純でやさしい人なんだからさ。
「俺は騙されていたのか?」
≪いいえ、私は騙してなどいません。事実、このまま放っておいたらナタヌさんがトップを独走したままゴールしてしまいます。ラダリィさん、そうですよね?≫
突然話を振られて、ラダリィは一瞬考え込むようなそぶりを見せたが、すぐに口を開いた。
「その状況分析は、私も間違っていないと思います。アリシアの中で、ナタヌ様の好感度が高いのは事実でしょう」
そう、かな……。
まあかわいいし、それは仕方なくない?
「俺はずっとアリシアのそばにいたいんだ」
≪私は一心同体ですが、アリシアのことをもっと独占したいです≫
2人の気持ちはとってもうれしいよ。
でも、わたしは別にナタヌだけを選んだわけじゃないし、まだこの旅の間は、ね?
「ナタヌだけ仲間外れにしないでさ、みんなで楽しく旅をしようよ」
「私からもお2人に。少なくともこの旅の間はこのラダリィにお任せください。決して悪いようにはいたしません」
ラダリィが腰を折って深く頭を下げる。
ありがとうね。
ラダリィがいてくれてホントに助かる。
わたし1人じゃどうにもできそうにないし……。
「ちょっと待った~! 私のいない場で良い感じに話を進めないでください! ナタヌ、話し合いに参加します!」
えっ、ナタヌ⁉
いつからいたの⁉
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