第37話 アリシア、被告人質問を行う

「うん、それで? なんでエヴァちゃんがわたしのリボンの予備を持っていたのかってことと、それをどうしてスレッドリーに譲り渡したのかってことの合理的な説明をしてくれる?」


 一応弁明を聞きましょうか。

 その内容次第では、わたしも普通に怒るかもしれないですからね?


≪わかりました。順番にお答えします≫


 少しプレッシャーをかけてみたけれど、やっぱりエヴァちゃんが動揺する素振りは一切なかった。むしろ堂々としていて、「やましいことなどありませんよ」といった態度で私のことを見つめてくる。


≪なぜアリシアの予備のリボンを持っていたのか――それは≫


「それは?」


≪それはアリシアのリボンではないからです≫


 ん、どういうこと?

 スレッドリーが手にしているのは、どう見てもわたしのリボンだけど……?


≪アリシアは自分の持ち物の管理をどうしていますか?≫


「管理? 小物類は専用のバッグに入れてアイテム収納ボックスに……あっ」


 そういうこと?


≪そういうことです≫


 エヴァちゃんが小さく頷く。

 なるほどねー、そういうことかー。


「アリシア、エヴァ様、2人だけで納得せずに私たちにもわかるように説明をお願いします」


 さっきまで離れて座っていたラダリィが、いつの間にか近寄ってきていた。


「ごめんごめん。簡単に説明するとね、わたしは自分の荷物をこのアイテム収納ボックスに入れて管理しているのね」


 肩掛けの小さなハンドバックをポンと叩いてみせる。

 ミィちゃんからいただいた大事な大事なアイテム収納ボックス!


「常に身に着けているし、独自の魔力認証システムでロックをしているから、わたし以外、絶対にこのバッグから中身を取り出すことができない」


「それはエヴァ様でもですか?」


「エヴァちゃんでも。エヴァちゃんにはわたしの魔力を供給しているけれど、それはわたしの魔力を自由に使えるって意味じゃないからね。時限的にわたしが許可した時以外はエヴァちゃんでもこのバッグのロックは解除できないかな」


≪主従関係にありますから、アリシアの命令は絶対です≫


 どの口で……。

 わたしの命令なんてほとんど守ったことないくせに。


≪アリシア様~。従者たる私にご命令を~≫


 このウソツキロボめ……。舌をちょん切るぞ?


≪皆様にもご納得いただけたように、私はアリシアの私物を持ち出すことなどできません。つまり殿下にお渡ししたのはアリシアのリボンではなく、私が似せて作った贋作です≫


「偽物だったのか……。通りでアリシアの匂いがしないわけだ……。贋作か……」


 当たり前のようにリボンのニオイを嗅ぐのはやめてくれない?

 それにそんなに絶望されても……。洗濯したやつで良かったら予備のリボンくらいならあげるけどさ……。


≪それでは2つ目の質問に対してもお答えしましょう。どうして殿下にアリシアのリボン(偽)を譲り渡したのか……それは≫


 いちいち溜めなくていいから、スッと話してよ……。

 そんなに注目されたいの?


≪話の主役になれるチャンスですから≫


 そういうウザいのは良いから早く答えて。

 どうせ、譲り渡したんじゃなくて貸しただけですーとかそういうしょぼいオチなんでしょ?


≪いいえ、確かにお譲りしました。その際にわたしと殿下は、とある密約を交わしたのです≫


「密約?」


≪内容は明かせません。密約ですので≫


「ここまで話しておいてー? さすがに最後まで教えてよ」


 ムズムズするじゃないのさー。


≪殿下の名誉のためにも私の口からはとてもとても≫


 エヴァちゃんが口の前で指を交差させてバッテンを作る。

 どうせ大したことないんだから話しちゃえばいいのに。


「アリシア、エヴァ様が話せないというのであれば、もう1人のほうの口を割ればいいだけのことではないでしょうか」


 なるほど。

 さっすがラダリィ! 今日も冴えていますね!


「では尋問を開始します。被告人、前へ」


 検事はわたし! 裁判長はラダリィ! 弁護人はなし!

 

「お、俺か⁉ なぜ俺が……」

 

 ドレス姿のスレッドリーがのっそりとした動きでイスから立ち上がる。


 まあね、そもそもこの法廷では推定有罪だから。痛いことされる前にさっさとゲロっちゃいなさいよね!

 いや……そのドレス姿の時点で、すでに何らかの罪に問われても不思議はないよね?


「あなたはエヴァちゃんと密約を交わし、そのリボンを手に入れました。これに間違いはないですね?」


「あ、ああ。間違いない……」


 スレッドリー(ドレス着用)が直立不動で宣言する。


「あなたはわたしに断りもせずにわたしの私物を手に入れようとした。間違いないですね?」


「あ、ああ……。それに関しては申し訳ないと思っている」


「思っているだけですか?」


「申し訳ない……」


 そうそう、最初から謝ればいいのよ。わたしだって別に鬼じゃないんだから、そんなことくらいでは怒ったりはしないよ?


「でもそれはエヴァちゃんのウソで、エヴァちゃんが作った偽のリボンを渡されていたわけですが、それを知って率直にどう思いましたか?」


「まったく気づかなかった。今思えばアリシアの匂いがしなかった時にちゃんと確認すれば良かったな」


「ちゃんと確認してもどうせごまかされるのがオチですよ?」


≪もし殿下に問いただされていたのなら、本当のことを言うつもりでした≫


 エヴァちゃんは黙ってて。

 どうせなんだかんだ理由をつけて煙に巻くつもりだったくせに。


≪バレテーラ≫


 静粛に!

 被告人以外の発言を禁止します。


「本物のリボンを手に入れられなかったということは、エヴァちゃんと交わした密約自体が無効ですね。密約は無効になったので、その内容を開示してください」


 意味をなさない契約なら、内容を話しても問題ないでしょ。


「それは……できない……」


「なぜですか?」


「ミサトさんと約束をしたからだ」


「ウソをつかれたのに?」


「リボンは本当にくれた」


「でもそれはニセモノですよ?」


 スレッドリーが黙り込む。

 あと一押しってところかなー。


 それならば。


「じゃあここで、わたしが本物のリボンを上げましょう。今つけているこれ。絶対本物でしょう?」


 目の前で、髪を縛っていたリボンをほどいて見せる。


「なん……だと……」


 はい、釣れたー♡


「これがほしかったら、どんな密約を交わしたのか、今ここで内容を明かして」


 さあ、早いところしゃべってすっきりしよ?

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