第36話 アリシア、さるお方に弁明を求める
「しばらく保冷庫の中に隠れていたんだが、寒さの限界がきてな……。外に出て体を温めようと……」
「もしや……裸で抱き合ったんですか⁉」
ラダリィさん、ハウス!
どう考えても違うでしょ。
「調理場にあった酒を片っ端から飲んだんだ」
「とにかく飲んだでやんす」
「だんだん体も温まってきて、なんだか楽しくなってきてな。2人でお互いの好きなところを言い合おうということになったんだ」
「なったでやんすね~。楽しかったでやんすな~」
2人が見つめ合って笑いだす。
「お互いの好きなところ? まさかホントに唐突なBL展開に?」
「殿下、閣下! そのお話詳しくお聞かせ願えますかっ!」
ラダリィさん、ストップストップ!
落ち着いてくださいよ。
ガチトーンはやめてください。メモを取ろうとしないでください。わたしのはBL発言は軽い冗談ですからね?
≪ラダリィさん、この場合、主語が異なっております。ご期待されているようなステンソン×スレッドリーのことではないのです。お互いの好きなところ、ではなく、それぞれの配偶者への想いを言い合うというものです。つまり生産性皆無、犬も食わないような激甘なのろけトークのことですね≫
「わ、わかっています! つい……」
自分の間違いに気づいたのか、ラダリィはイスに腰かけて、そっぽを向いてしまった。顔は赤いままですけどね。
あ、わたし、配偶者じゃないからね?
エヴァちゃん、そこのところ気をつけて。
「公爵と姉上のことを語り合っていたらだんだん楽しくなってきてな。公爵の書斎にある姉上のアイドルコレクションを見せていただくことになったんだ」
「アイドルコレクション?」
「レインの肖像画、夜会で着用した衣装、夜会でいただいたファンの方からの手紙などなど、いろいろな思い出がいっぱいあるでやんす。なかなか人に見せる機会がなくてただ書斎に飾っていたのでやんすが……」
「ちょうど良い見せびらかし相手がいた、と」
実弟だし、今回のアイドルプロデュースにもかかわっているし、スレッドリーはそういうのを見せる相手としてはうってつけね。さすがに実姉の活躍に対して嫉妬したりしないだろうし、良ければ素直に褒めてくれるし。
「それで公爵の部屋に行き、アイドルコレクションの説明を聞きながらたくさん飲んだんだ」
「まだ飲んでたの? 酒飲みってなんでそんなにずっと飲むのかな」
「ああ、楽しくなってきて、ついな。姉上もがんばっているんだなと」
しみじみ。
実姉を肴にお酒を飲む弟……。これもシスコンの形なのかな? なんだかんだ言って、スレッドリーのほうもお姉様たちのことが好きよね。
「それでその後は? ヤンスの部屋でずっと朝まで飲んでいた、と?」
「そうでやんすね~。一度移動して殿下の秘蔵コレクションを見せていただいたりもしたでやんすが、結局どこに行ってもずっと2人で飲んでいたでやんす」
「秘蔵コレクション?」
「公爵! それは!」
おや? スレッドリーくん、どうしましたか? 冷や汗がすごいですよ?
「へぇー、わたしにもその秘蔵コレクションとやらを見せてくださいな?」
「ええと……どこにやったかな……」
スレッドリーくん? 滝のような汗が流れていますよ?
急病ですか?
「わたしにも見せて?」
ごまかしても無駄だよ?
流れ的に、わたしに関する何かだよね?
わたしはただ、スレッドリーのことを見つめ続ける。
すぐに視線を外してくるので、移動して顔を覗き込んでやる。ちょっと微笑みを浮かべながら、首を傾げー。
逃・げ・ら・れ・な・い・よ?
「わかった……。これ、だ……」
ようやく観念したのか、スレッドリーが懐から取り出したのは――。
「リボン?」
「ああ、そうだ……」
「わたしが髪をまとめるのに使っているリボン……の予備?」
なんでそんなものをスレッドリーが持っているの?
「さるお方から……譲り受けたものだ。だ、断じて盗んだりなどしていないぞ!」
「さるお方?」
わたしが尋ねてみても、スレッドリーはだんまりを決め込んでいた。
だけど、その視線が犯人が誰かを雄弁に語っていたね。ホントウソをつけない人なんだから。
「オホン。さるお方さん。どういうことか説明してくれる?」
≪バレてしまったのなら仕方ありませんね。そうです、私がさるお方です≫
眉1つ動かさず、うろたえることもなく、犯人はあっさりと自白した。
ちょっとは悪いなーみたいな態度はないのかね?
「うん、それで? なんでエヴァちゃんがわたしのリボンの予備を持っていたのかってことと、それをどうしてスレッドリーに譲り渡したのかってことの合理的な説明をしてくれる?」
処分する前に、一応弁明を聞きましょうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます