第35話 アリシア、シスコンの形に納得する?

「それでー? 2人とも今朝のことは何にも覚えていないの? そんなにしっかりドレスを着こんでいるのに? ホントに何も?」


 ドレス姿のヤンスとスレッドリーを問い詰める。

 2人は顔を見合わせてアイコンタクトを取り合う。だけど、ホントに何も覚えていないみたい。お互い何も思い出せないようでキョトンとしていた。


「2人同時にまさかの記憶喪失? そんなに深酒したってこと?」


 それは困りますよー。

 公爵様と第2王子様が揃って記憶をなくすほどお酒をたくさん飲んじゃさー。もしここに賊でもやってきて襲われたりしたらどうするつもりなの? 衛兵に指示出せる? 危機感がないと死ぬよ?


≪それは私がいますからご安心を。今とても良いことを思いつきました。ここは1つ、賊のフリをしたエキストラ集団を雇って一芝居打ちましょう。私たちエヴァシリーズが見事に賊を撃退し、その有能さをアピールするのです。そしてこのグレンダン城にも高額でエヴァシリーズを売りつけましょう≫


 いや、身内にそういうギリギリのなんとか商法はちょっと……。

 まさかと思うけれど、ラミスフィア城でそういう売り込み方してないよね?


≪メルティさんは最初から私のことを気に入ってくださっていましたので、向こうからのお声がけでした≫


 それなら良いんだけど……。

 ホントに大丈夫かなー。


≪ご安心ください。私は警備用ロボとしても優秀です。料理も掃除もアイドルも夜伽も完璧です≫


 ねぇ、まさか……そういう売り込み方していないよね?

 

≪初めての相手はアリシアと決めているので、まだ夜伽オプションは開放していません≫


 ツッコミどころがあり過ぎて……。

 まずわたしはロボの相手はしないよ。それに「夜伽オプション」なんていう、超絶えぐいサービスは永久に封印して。わたしのイメージまで悪くなるでしょ!


≪ですが……ラミスフィア城によく出入りされている侯爵閣下の親類の方で、どうやら私(ロボ)に対して性的に興奮されている方がいらっしゃるようなのです。私の子端末たちが執拗にアプローチを受けていますがどうしますか?≫


 まあ、たくさんの方が出入りされていれば、中にはそういう方もいる、か……。

 だけどきっぱりとお断りの方向で……。


 それこそメルティお姉様に相談したらどうなの?

 って、また話が脱線しちゃったじゃない!



「このまま2人が見つめ合っていても仕方ないし、順を追って思い出してほしいかなー。昨日ホールからいなくなった後辺りから、2人が何をしていたのか話してよ」


 記憶がないなら、そこから追いかけるしかなさそう。


「そうだな……。あの時、命の危険を感じた俺たちは……とにかく身を隠そうと死に物狂いで逃げたんだ」


「そうでやんす……。死にたくなかったでやんす……。執念深いアリシアから逃げ果すのは並大抵のことではないでやんす」


 ほう。今それをわたしの前でよく言えたね?

 その度胸に免じてしばらくは生かしておいてやろう。

 そのまま話を続けて?


「あ、アリシア様……どうかお手柔らかに……」


 ラッシュさんの小さな呟きは聞こえなかった振りをすることにします。


「しばらくの間、俺たちは保冷庫の中に隠れていたんだ」


「保冷庫? 調理場の? なんでわざわざそんなところに」


「調理場の保冷庫に隠れたでやんす……。体温を下げれば見つかりにくいと殿下が提案してくださったでやんすよ」


「へぇー、なるほどね?」


 ただ遠くに逃げるだけじゃなくて、体温を調整してまでわたしの探知から逃れようと……ずいぶん必死だね? スレッドリーもいろいろ考えているんだ。

 いや、ぜんぜん褒めてないよ? 何を「俺やるだろ」みたいな顔しているのかな? わたしが本気で探したら、体温を下げたくらいで、魔力探知や赤外線チェックや建物全体の『構造把握』から逃れられるわけないよね? わたしが苦手なのはたくさんの魔力反応から個人を特定することだからね。隠れている2人組を見つけることくらい造作もないことだって覚えておきなさいよね。


≪アリシアはいつも心の中でだけは強気ですね≫


 うっさいなー。

 口に出したら2人とも震えあがって話しどころじゃなくなっちゃうでしょ。あえて黙っていてあげてるの! わたしのやさしさなの!


≪そうですか。アリシアはやさしいですね。やさしいアリシア大好き~。好き好き~≫


 せめてもっと感情を込めて抑揚をつけなさいよ。

 もういいわ……。エヴァちゃんのダル絡みには付き合っていられないから!

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