第32話 アリシア、ナタヌに仕切りを任せる

「チビエヴァちゃんたち、カードオープン!」


 運命の数字選択、その結果は――。


 マーちゃん:15。

 レインお姉様:7。


「おーっと、マーちゃん! かなり大きな数字を引いてしまったぞー! これは大丈夫かー⁉」


「マーナヒリン様! 大変です! このスペシャルドリンクは、1杯であの巨大なファイヤードラゴンを眠りにつかせるという噂もあるほどです! それをこれから15杯もお飲みになるのですか⁉」


 えっと……ナタヌさん、何言ってるの? 『龍神の館』のスペシャルドリンクは、ちょっと見た目にインパクトがあって、アルコール度数が高いお酒なだけだけど……そんな噂あったっけ?


「ファイヤードラゴンを眠らせるなんてすごいの! でも我はファイヤードラゴンよりもずっと強いので大丈夫じゃ」


 マーちゃんは余裕の表情で梅酒のグラスを傾ける。

 

 た、たしかに?

 女神様だし、たぶんファイヤードラゴンよりは強いよね。マーちゃんはお酒も大好きだし大丈夫かなー?

 そ、それよりもレインお姉様が危ないかも……。人間の身で、スペシャルドリンクを7杯も飲むなんて……。


「あらあらまあまあ♡」


 余裕そう!

 なんで⁉

 ファイヤードラゴンを1杯で倒すほどの強さのお酒なのに⁉


「アリシアさん! スペシャルドリンクの調合は、ぜひ私のほうで担当させてください!」


 鼻息荒くナタヌが提案してくる。


「えっ、良いけど……できるの?」


「任せてください! この5年の間にお店のほうでいろいろ試行錯誤していまして、実はほんの少し配合を変えているんですよ。新レシピの内容は私の頭の中に入っています!」


「おお、やっぱり配合変えてるんだ? じゃあお任せしようかな!」


 おかしいと思ったんだー。

 わたしが配合したスペシャルドリンクだとファイヤードラゴンは倒せないと思うし。まあ5年もあればいろいろ変わるよね……。


 ここはナタヌに任せた!

 あれ……でも、ホントに大丈夫なのかな。命に係わるなんてことは……急に不安になってきた……。


「ちなみにお店ではそのスペシャルドリンクは好評で?」


「もちろんです! 接待相手を倒したい時にハンドサインで注文をいただくようになっていますから! いつも一撃必殺です!」


 ドヤ顔していらっしゃいますけど……必殺したらまずくない?


「大丈夫です! 今のところ死亡事故は出していません!」


 それは飲食店として当たり前なんじゃ……。

 ホントに大丈夫かな……。


「アリシアさん! 集中して配合しますので、しばらくお静かに願います!」


 あ、はい……。

 えーと、何を混ぜてるんだろ。一応危ないものがないか確認を……。

 まぁ、今のところただ高いアルコール度数のお酒をちゃんぽんしているだけかな。別に問題は……あっ! 睡眠ポーションだ! ズルじゃん! それは反則では⁉


「はい、完成しました! マーナヒリン様には15杯分。レインさんには7杯分です!」


 怪しい蛍光ピンク色をしたカクテル入りのグラスが、2人の前にずらりと並んでいく。

 

 睡眠ポーション入りか……。これを口にするのは勇気がいりますね……。とりあえずちょっとスレッドリーとヤンスに毒見させてみる?


 と、2人のほうを振り返る。すると、意図を理解したのか、2人は我先にダッシュで部屋から逃げていった。

 

 この薄情者ー!

 愛しの奥様とお姉様、あと麗しの女神様が大変な目に合うかもしれないのに!

 まぁ、最悪わたしが治癒ポーションで蘇生を試せばいいか……。マーちゃんはさすがに大丈夫だろうし。


「それではお2人とも、1杯目をどうぞ!」


 若干緊張した声で、ナタヌが2人に指示する。

 一撃必殺か……。お手並み拝見!


「きれいな見た目ね~♡ いただきま~す♡」「いただきますなのじゃ!」


 大酒飲み2人組は、とくに躊躇することなくグラスに口をつけていく。

 大丈夫かな……。


「「おいし~!」」


 2人が同時に叫ぶ。

 まさに恍惚の表情。

 えっ、ウッソ! それ、おいしいの⁉


「とてもおいしいのじゃ! どう表現して良いのかわからぬが、とてもおいしいのじゃのじゃのじゃ……」


 なんでセルフエコーを?

 いや、やっぱりヤバい調合なのでは? 2人ともすでに目の焦点が合っていない……。


「もっといただくのじゃ……のじゃのじゃ」


「たくさん飲みたいわ♡」


 2人がどんどんグラスを開けていく。

 1杯でファイヤードラゴンを……なんでもないです。


「楽しいわ~。おいしいわ~。チビエヴァちゃんこっちにいらっしゃい♡」


 グラス7杯目を開け、レインお姉様がチビエヴァちゃんを抱きしめる。

 すごい……。あっという間に達成しちゃった……。


「我も続くぞよ! 一気に飲み干すのじゃ!」


 ああっ、マーちゃん無理をしないほうが!

 

「おいしいの! チビエヴァちゃん、こっちにくるのじゃ♡」


 マーちゃんの体がゆらゆらと揺れて……。あれ? ピタリと止まった?

 あっ! ちょっと! 今しゃがんだ時に自分の涙を掬って舐めましたね⁉ それで浄化を! 反則だー!


「さぁ、夜はまだまだ長いのじゃ♡」


 もうしゃっきりした顔をしていらっしゃる!

 マーちゃんズルーい!


 レインお姉様は……あーあ、やっぱり寝ちゃった。

 そりゃ、人間だものね……。

 睡眠ポーションに勝てるわけないよ。


 

 こうして主役寝落ちのため、『レイン=グレンダン♡スペシャルパーティーナイトvol.1』打ち上げは強制終了!

 その後、マーちゃんとチビエヴァちゃんたちだけが楽しむ飲み会が朝まで続いたのじゃったとさ。

 めでたしめでたし?

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