第29話 アリシア、地獄の打ち上げに参加する?

「本日はご来場いただきありがとうございました!」


「ありがとうございました!」


『レイン=グレンダン♡スペシャルパーティーナイトvol.1』は大盛況のうちに幕を閉じたのだった。

 みなさん両手に持ちきれないくらいのグッズをお買い上げいただいて、誠にありがとうございます!


 レインお姉様を先頭に、スタッフ全員でお城の外までお見送り。

 お城の城門前から、見渡す限りお迎えの馬車が長蛇の列をなしている! 夜も遅いのに家令の方たちは大変だねー。あ、もしかして、夜会の後にお城に宿泊プランとか作ったら、需要あるのかな。



 最後の1人のお客様を送り出し、ぞろぞろと夜会の会場――大広間へと戻る。


 お客様がお帰りになっても、それまでと変わらぬ姿でシャンと背筋を伸ばして先頭を行かれるレインお姉様はやっぱりステキ。思わず背中越しに声をかける。


「レインお姉様、お疲れ様でした!」


「んふふ♡」


 立ち止まり、レインお姉様が振り返る。

 あれ、雰囲気が……?


「すっごく楽しかった~♡」


 これでもかというくらいの緩み切った笑顔を見せると、突然わたしの腰に手を回してくる。


「キャッ! ちょっとお姉様⁉」


「アリシア、ありがと~♡」


 そのまますくい上げるように抱きかかえられ、ブンブン振り回される。

 あー、これ……テンション上がり切ってぶっ壊れちゃった人だ!


「あああああああレインさん!」


 ナタヌが両手をアワアワさせながら、わたしたちの周囲をグルグル回り出す。

 ナタヌー。アワアワしてないでレインお姉様を止めてよー。


「みんなうれしそうだったわ~♡ ペンライトの光がまぶたの裏に残っているの~♡」


 そうですね。お姉様と100人のお客様との一体感がとても心地良かったですね。ペンライトの光を通じてのコール&レスポンス。傍から見ているわたしだって興奮しましたし。



「お嬢様、アリシアが困っていますから、そろそろ下ろしてあげていただけませんか」


「ごめんなさ~い。アリシアの顔を見たらつい♡」


 ストンと地面に下ろされる。

 ラダリィさん、いつもフォロー助かります。


「大丈夫ですよー。今日は大成功でしたもんね! 夜通し打ち上げしたって良いくらいですよ!」


「アリシア! それは禁句でやんす!」


「アリシア! ダメだっ! 姉上、今のはアリシアなりの冗談なので、どうか打ち上げだけはご容赦を!」


 ヤンスとスレッドリーが青い顔をして飛び込んでくる。

 何? わたしなんかおかしなこと言った?


「打ち上げ~! 今日は朝まで飲んで歌って盛り上がりましょうね~♡ 打ち上げ~!」


「「ああああああああああ! 遅かった(でやんす)」」


 頭を抱える2人の男たち。

 えっと……? わたし、何かやっちゃいました?


「アリシア。私は先に寝ます。自分の言葉の責任は自分でお願いします」


 ラダリィが「ヤレヤレ」といった具合に、わたしの肩を叩く。


「何? ラダリィ⁉ ちょっと説明してよ⁉」


≪どうやら皆様の話から推測すると……レインさんは打ち上げと称したお酒の席がお好きなようです。そして絡み酒がひどい方のようですね。ご愁傷様です≫


 えっ。


「ラダリィ⁉」


「……キスまではギリギリ許します」


「キス⁉ ラダリィチェックは⁉」


 ラダリィさん、わたしを守って⁉


「私は寝ます」


 ちょっと! いつもと違うじゃない!

 ラダリィだってお酒好きでしょ! おいしいお酒いっぱい出すよ! わたしを守って⁉


「わ、私はお付き合いします! アリシアさんをお守りします!」


 ナタヌがまっすぐに手を上げて、地獄の(?)打ち上げに参加表明をする。


≪私も酔いませんし、見守ることにしましょう≫


 ナタヌもエヴァちゃんもありがとう……。ラダリィさんは?


「私は寝ます」


 きっぱり。

 こんなラダリィ初めて見た……。レインお姉様ってそんなに強敵なの……?


「俺は……」


「もしもしスレッドリーくん?」


「俺は寝――」


「スレッドリーくん? まさか寝るなんて言わないよね? わたしの王子様?」


 小首傾げ。コテリ。上目遣いでウィンク。


「寝ない! 一生寝ない! 俺は朝まで飲み明かすぞ!」


 ふっ、チョロい。


≪悪い女です≫


「アリシアさん、悪女です!」


 なんとでも言いなさい!

 こんなの転がしたほうが勝ちなのよ!


「アーちゃん、今日はここで飲み会があるのかの? 日乃本酒も出るなら我も参加したいぞよ」


 えっ、この声は⁉


「まままマーちゃんだ! なんでこんなところにいるの⁉」


 目の錯覚……じゃない、よね⁉


 いつものマント姿ではない。光り輝くエメラルドグリーンのドレスに身を包んだマーちゃんこと水の女神・マーナヒリン様がそこにいらっしゃった!

 めずらしくドレスなんて着ちゃってー。美少女女神っぷりが上がってますね♡


「たまたま通りかかったらアリシアの声が聞こえたのじゃ」


 そんなことある⁉

 ここ、グレンダン城の中だけど⁉


「もちろん冗談なのじゃ。我の出番がなさすぎてつまらないので遊びにきたのじゃ~」


 笑顔でブイサイン。

 マーちゃんかわいい好き好き♡


『ずっと件の「龍神の館」で「アリシアがいない、アリシアがいない」と愚痴を言いながら酒を飲み続けているので、そちらに強制転送しておきました』


 ミィちゃん! こんばんはー。

 って、何それ……女神様って暇なの……?


「あ、みなさん! こちら、水の女神・マーナヒリン様です! なんて説明したら良いんだろ……。今日の打ち上げのスペシャルゲスト的な?」


 その場にいた全員がハッとした顔を見せる。

 次の瞬間、片膝をついて首を垂れた。


「良い良い。我はそういうのは好かん。アリシアのただの客じゃ。普通に接してほしいの」


 いつもながらにフランクな女神様だよ。

 社交辞令的なあれじゃなくて、ホントにめんどくさがってるからおもしろいよねー。


「そうでやん……ございますか……。マーナヒリン様。グレンダン領へようこそおいでくださいました。この街にはマーナヒリン様の神殿がなく、大変申し訳な――」


 ヤンス……ちゃんと敬語でしゃべれるんだ。

 初めて公爵様っぽいところを見た気がする!


「良い良い。我はあまり分身体も設けぬのじゃ。各地に神殿を造らせていないのは我の指示だから問題ないのじゃ」


 マーちゃんは、再び頭を下げようとしたヤンスを止めて立ち上がらせる。

 でも主要な街には神殿があったほうがみんなのために良いと思うけどなー。気軽に礼拝できないのは困るもん。


「アリシアの『簡易祭壇』を販売すると良いの。我はあのピカピカの祭壇が好きじゃ」


 マーちゃん!

 あれは内緒だってば!

 純金製だから量産できないの!


「そうか。すまんの」


 みんなが「なんのこと?」という表情を浮かべているけれど、ここは華麗にスルー!


「さあさあ、打ち上げ参加者は会場に移動しましょう! マーちゃんも参加されたことだし、とっておきのお酒を振る舞いますよー!」


 ゴーゴー♪

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