第28話 アリシア、魔王になりたい願望を否定する

『レイン=グレンダン♡スペシャルパーティーナイトvol.1』は順調に――正直、想像以上に熱狂的な盛り上がりを見せながら進行していく。


「アリシアさん、ペンライトの光がすごくきれいですね!」


 ナタヌが興奮したように、手にしたペンライトを激しく振っている。

 音楽に合わせてー、レインお姉様のステップに合わせてー。


「そうでしょう。会場を少し暗くすると、真っ赤なライトが映えていいよね」


「アリシアは、こういった発明はどういったきっかけで思いつくのですか?」


 横を見れば、ラダリィも少し興奮気味にペンライトを振っている。

 なるほど……。胸が揺れすぎてけしからん! 飛んでいっちゃったら危ないから、わたしがしっかり支えておいてあげるね!


「アリシア。そういうのは大丈夫です……」


 痛い痛い痛い。

 音楽に合わせてペンライトでわたしの手を叩かないでください。だってこんなに揺れて誘ってくるから……。


「アリシアさんの発明はいつもすごいです!」


≪アリシアは天才なので当然です≫


 みんな……もっと褒めて!


≪でも実際はアリシアが発明したわけではないので、少し心が痛いですね?≫


 エヴァちゃん、こっそりわたしだけに話しかけてこないで。

 わざと罪悪感を煽るようにしてさー、性格悪いよ?


≪鏡を見ているようでつらいですか?≫


 もう、どこまで行っても性格悪いなー。無視しとこ。


「ラッシュ様がここにいらっしゃったら、きっとこのようにおっしゃったと思います」


「「アリシア様は底がしれない」」


 ラダリィとナタヌが顔を見合わせて笑う。

 ラッシュさんの口癖ー。

 あの人、わたしの評価めっちゃ高いもん。でもわたしのことが好きって感じでもない……不思議。


≪アリシアは恋愛脳ですね。尊敬は尊敬でしょう。すぐに恋愛と結びつけるのはどうかと思いますよ≫


 うわっ、エヴァちゃんに正論吐かれた!

 もうこの世の終わりだ!


≪この世の終わりですか? とうとう魔王としてこの世界を支配するということですね。早速準備に取り掛かります≫


 いや、待って。

 とうとうって何……。

 エヴァちゃんって、ちょいちょいわたしを魔王にしたがるけど、わたしは魔王になりたい願望とかないからね?


≪酒池肉林が許されるのは魔王だけですよ≫


 そうなの⁉

 一般の平民はダメ?


≪ダメですね≫


 きっぱり言い切った⁉


≪力、財力、地位をすべて手に入れ、人々を恐怖で支配した者が魔王として世界に君臨できるのです。世界に君臨するからこそ、酒池肉林が許されるのです≫


 そういうものだったんだ……。

 普通の国王様だと許されないんだね。


≪恐怖で支配しない王は、国民の顔色を見ながら政治をしなければいけませんからね≫


 それは違うんじゃないかなー。ずいぶん偏見が過ぎるというか……。今のパストルラン王国の国王・ストラルド陛下は、わりと自由な感じでしたけど?


≪油断しているところを倒して、国を乗っ取りましょう≫


 考え方が怖いっ!

 めっちゃ頭も良いし、話も通じる良い王様なのに、なんでわたしが倒さないといけないのよ!


≪国王を倒さないと魔王になれないからです≫


 別に魔王になりたくないし……。


≪王様の命令に従って大使なんて子どものお使いみたいなことをさせられて……ああ嘆かわしい≫


 大使って子どものお使いみたいかな……。

 けっこう立派な名誉あるお仕事だと思ってるけど……。


≪とりあえず軽い気持ちで調印式で暴れましょう。謎のエーテル体の国もまとめて滅ぼして乗っ取りましょう。酒池肉林にエーテルやらゴーストやらも加えられてハッピー≫


 とりあえずで国を乗っ取っちゃダメだって……。すんごく危険な思想だよ……。革命的なことは考えるのは禁止。索敵範囲に入った敵性の魔物を除き、こちらからの攻撃を禁止、専守防衛の徹底を命じます!


 命令しないといつまでも危ないこと考えていそうだし、しかたないよね……。


≪世界を革命する力を……≫


 その力が十分にあるから困ってるの。

 ホントに革命されたらわたしが1番困るのよ。


≪なぜですか? すべての人間たちがアリシアのもとに跪くのに。理想の世界ではないですか≫


 いろいろな人がいるから楽しいんじゃないかなー。全員わたしの言いなりだったら、きっとすっごくつまらない世界になっちゃうと思うの。刺激がないっていうか。


≪スローライフを求めるのに、刺激も求めているのですか?≫


 それはそれ、これはこれ。

 人から考える力、心を奪いたいわけじゃないってことだけは覚えておいてほしいの。


≪理解しました。それではそろそろレインさんのお色直しの時刻が迫ってまいりましたので、私はサポートに行ってきます≫


 はーい、早着替えの手伝い、お願いね。


 難しいね……。

 エヴァちゃんと話していると、たまにドキッとさせられるよ。

 わたしって何を求めていて何を求めていないんだろうってね。漠然としか見えていないから、うまく希望を言葉にすることができない時もある。でも、質問してくれると、「あ、そっか。ここのところは何も考えてなかったな」って気づけるから、正直助かるよ。


「アリシアさん……」


 袖を強く引っ張られて横を向く。

 すると、これでもかと眉根を寄せて、三白眼で睨みつけてくるナタヌがいた。


 びっくりした……。日本のヤンキーか! チューするぞ!


「またエヴァちゃんと内緒話ですか……! 私……仲間外れは嫌ですよ……」


「たしかにちょっとエヴァちゃんと話してたけど違うよ⁉ 大使の話とかそういう真面目なやつ!」


 真面目に国家転覆の話をしていたなんて知られたら……。


「私も一緒にエッチな話に混ぜてください!」


「へっ? いやいや、エッチな話はしてないって!」


 それはホントだから!


「アリシア……。ラダリィチェックにより、イエローカード。警告です」


 なんでよ!

 ホントのホントに無実だー!

 VARチャレンジさせて!

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