第26話 アリシア、賭けを持ちかけられる

「夜会前に販売する用のグッズはほぼ完売しましたね。すごいです……」


 ナタヌが後ろの在庫を確認し、驚きの声を上げている。


「まぁねー。わたしの計算通り……と言いたいところだけど、まあここまでは誰でも計算できるかな」


「そういうものですか……?」


 ナタヌが不思議そうに首をひねる。


「うん。夜会前に販売したのは、うちわとペンライトだけだからね。夜会中に使う、応援用アイテムだし。しかもそれぞれ1人1個の個数制限をしているから、お客様の人数分だけってことで100個ずつがMAXの販売個数なわけ。100個ずつ……不良品対策も含めて110個も用意しておけば、仮に全員購入を希望しても問題ないでしょ?」


「なるほどです! さすがアリシアさんです! 天才美少女プロデューサー!」


 もう、そんなに持ち上げないでよー♡

 ナタヌは口がうまいんだからー♡


≪夜会後のグッズ販売はそうもいきませんからね。覚悟しておいてください≫


 あ、それわたしのセリフ!

 エヴァちゃんはすーぐおいしいところを持って行こうとするんだから!


「まあでもその通りだよ。個数の制限もないからね。とくにポスターは嵩張るし、丸めて筒に入れるのは気を遣うし。あとは目玉のレインお姉様デザインのドレスにどれくらい注文が入るかかなー」


 一応ね、レインお姉様デザインのドレスは試作品の展示をする予定。

 夜会の終わりにレインお姉様が衣装チェンジして、試作したドレスを着て宣伝。それと同じものをこのグッズ売り場に展示して、あとは完全受注生産って流れ。


「そうだ! ドレスの注文が何個入るかみんなで予想しない?」


 1番近い数だった人が優勝ってことで。


「おもしろそうですね! 優勝したら何かもらえたりするんですか?」


 んー、そうだねー。


「世界の半分をお前にやろう」


「世界は別にいらないです……。私はアリシアさんの全部がほしいです!」


 それはこの賭けの対象にするにはちょっと重たい景品だよ……。


「アリシアとの『1日デート権』をもらえる、というのはどうでしょうか?」


 と、ラダリィが話に割り込んでくる。


「それがいいです! 私、絶対優勝します!」


 ナタヌが食い気味に賛成する。

 んー、まあ、それで盛り上がるなら良いけどねー。


「ちなみにわたしが優勝したらどうなるの? 1人で散歩?」


 わたしとわたしがデート。

 つまり1人徘徊的な?

 

「誰でも1人、相手を選んでデートする権利というのでどうでしょうか」


「なるほど、それなら釣り合いが取れそう!」


 誰とデートしようかな♪


 じゃあ紙を用意して、それぞれドレスの販売予測個数を書いていきましょう。あとから不正ができないように、消えないペンで書いていきますよー。


「私は50着で!」


 ナタヌ50着、と。


「いきなりなかなか大きく出たねー。そんなに売れるかな?」


 ドレスの価格は金貨1枚。つまり銀貨100枚。

 一般的な平民の稼ぎは1年で金貨5~10枚と言われているから、かなーり強気お高めの値段設定ってわけ! わたしの稼ぎ? わたしは『龍神の館』で月に金貨5枚もらっていましたけど? プロデューサーもやっていたわりには少ないくらいよ♪


「私は月に金貨1枚のお給金をいただいています! 仕送りの分を別にして……食費を削ればなんとか買えます!」


 ナタヌ、よくがんばっているんだね。

 平民としてはかなりの高給取りだと思うよ!


「私は王宮から月に金貨1枚と銀貨30枚をいただいております」


 と、ラダリィ。


「へぇー! メイドさんってけっこうもらえるんだ!」


 正直ちょっと意外だったよ。

 その半分くらいかなーとか思ってたけど、さっすが王宮ってことなのかな。


「金貨1枚はデュークのために……ふふふ」


 ラダリィがちょっとだけいやらしい顔で笑う。

 それはさすがに貢ぎすぎでは?


「王宮に住んでいるので、衣食住に困りませんし、銀貨30枚もあれば十分に生活できますから」


 そっか。

 住まいはそうだろうけど、食事も提供されているのね。

 さすが王様だね。太っ腹!


「ちなみに銀貨30枚は夜伽係の追加報酬です」


「またまたー……冗談、だよね?」


「夜伽係の追加報酬です」


 ラダリィが真顔で言う。

 ……マジ?


「スレッドリーの夜伽はしてないって……えっ?」


「スレッドリー殿下のは、です」


「ほ、ほかの王子の……?」


 王族ってやっぱりそういうのが……?


「もちろん冗談です」


 もうっ!

 真顔でそれ系の冗談はやめてって言ってるでしょ!


「アリシアはこの手の冗談が好きですね」


「す、好きじゃないからっ!」


「顔が赤くなったり青くなったりして見ていて飽きません」


「すごくよくわかりますっ!」


 ナタヌもそこでめっちゃ頷くのやめて!


≪今度アリシアの目の前で、私がスレッドリー殿下の夜伽係を務めますね≫


 エヴァちゃん……冗談でもそういうのはやめて。

 ちょっとでもそんな素振りを見せた瞬間に、エヴァちゃんのこと解体するからね。


≪なぜです?≫


 なんでも!

 もうそっとしといて!


≪初めての時、うまく行かなくても知りませんよ。リードしてもらったほうが安心ですよ?≫


 そういうのは良いの!

 よ、良くないけど、大きなお世話だからっ!


≪かわいい≫


「かわいい」


「かわいいです」


 ぐぅー、3人とも!

 良いからさっさとドレスの販売予想個数を言え!

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