第25話 アリシア、エビバディパッション!

「みなさ~ん、こんばんは~!」


 レインお姉様の元気な挨拶から、夜会『レイン=グレンダン♡スペシャルパーティーナイトvol.1』が始まる!

 始まる……で良いのかな? 実はまだパーティーは始まらない! 前座的な……これからグッズの宣伝が始まるところだよ! まあ、前座もレインお姉様本人が登場するんだけどね。


「今日は特別な夜会『レイン=グレンダン♡スペシャルパーティーナイトvol.1』にお越しいただきありがとうございます~♡」


 うおー! すごい熱気だー!

 集まってくださった100人の男女が、レインお姉様に熱い視線を送っているっ!


 そう、今日はスペシャルパーティーナイトだからね!

 スペシャルだから招待客も特別!

 いつも来てくださる方たちの中から、とくに熱狂的な地元のファン100人を厳選してご招待させていただいたのでした!


 人数は前回の半分くらいだけど、熱さは2倍! 5倍! 10倍⁉

 選ばれたことへの喜びもあるのかな。序盤も序盤なのに盛り上がりが半端じゃない! もう成功の予感しかしないね!


≪アリシア。テンションが上がっているのですか? さっきからフラグを立てまくりですが≫


 いいのいいの!

 今日はスペシャルパーティーなんだから、フラグぐらいへし折っていかないとね!


「アリシア、俺は何をすればいいんだ? みんなのように仕事がほしいんだが」


 と、頭を掻きながらスレッドリーが近寄ってくる。

 どうやら手持ち無沙汰みたい。


「スレッドリーはレインお姉様の身内なんだから、警備係、兼サポート係よ。大事な仕事なんだからね?」


「それなら公爵閣下がいるじゃないか……」


 スレッドリーは小さくため息を吐きながらステージを見つめる。

 ステージ下、少し離れたところでレインお姉様の様子を伺うヤンスが見える。


「ヤンスはさー。たしかにサポート役としてはうってつけなんだけど、警備はできないでしょ? 誰かが暴れたりした時にはスレッドリーが警備隊長なのよ?」


「おう。警備隊長か。それなら任せろ!」


 やっと目に輝きが戻ったね。

 わたしがずっとステージを見張っておくことはできないんだし、ホント頼むよー。


「アリシア、ちょっと良いですか?」


 と、今度はラダリィが小声で話しかけてくる。

 めずらしくちょっと困り顔。


「お釣りの準備ができたので、もうグッズ販売ができます。……と言いたいところですが、ナタヌ様の緊張が……」


 ラダリィに促されて、ナタヌの様子を……えー、ナタヌー⁉

 ちょっと見ない間に過呼吸気味になってるし!

 何をそんなに緊張してるの⁉


「うちわとTシャツ1点ずつですね。TシャツのサイズはSS・S・M・L・LLとございますがいかがいたしましょうか。Sサイズですね。かしこまりました。代金は銀貨15枚でございます」


 うわごとのように注文のシミュレーションを……。

 これは……相当きていらっしゃる……このまま接客をやらせるのはヤバい、かな?


≪私が接客係を代わりましょうか≫


 んー、でもせっかくここまでがんばってきたんだし、ナタヌにやらせてあげたいなー。グッズ作りで相当消耗しているはずなのに、当日の接客係まで名乗りを上げてくれたんだよ? ラッシュさんが度重なる魔力切れで倒れた今、グッズ係の意地を見せるのはナタヌしかいない!


≪グッズ係の意地……? それは食べられますか?≫


 もう! そういうのじゃないの!

 学園祭の一体感みたいなもの! こういうお祭りで最後にがんばれるかどうかは、一生の思い出に残るか残らないかの大切な……前世のわたし、そもそもそんな思い出なかったわ……。学園祭の日とか、家で寝てたんだったわ。


≪急にメンヘラを出してくるのはやめてください≫


 だってぇ……。


≪それは前世の陰キャの記憶でしょう≫


 陰キャ……まあそうだけど……。


≪パリピ・暴君・アリシアの記憶ではないです。さあ、レッツパ~リィ~~ナ~~~~~イッ♪≫


 レッツパーリィ……って、いいのかな? わたし楽しんでもいいのかな?


≪これはあなたが始めた企画ですよ。周りのファンの方、そしてステージ上のレインさんを見てください。同じくらい楽しまないと一生の思い出に残らないと思いませんか≫


 そ……うだよね……。わたし、パリピになる!


 よーし、パリピアリシア、いっきまーす!

 ガツンと気合いを入れてあげましょう!


「ちょっとナタヌー! 何緊張してるのよー! 脳筋プリーストらしくないぞ! それっ!」


 ナタヌの座っているイスをローキックで粉砕☆

 座っていたイスが粉々に破壊されたナタヌは、一瞬空気イスのようにポーズを取った後、そのまま後ろにひっくり返って地面にお尻を強打する。


「あひゃん! あ、アリシアさん、何するんですかぁ。お尻が痛いです~」


「緊張でガチガチになってるから、喝を入れにきたのよ! ほら、ステージを見て!」


「ひゃい」


 地面にへたり込むナタヌの頭を掴んで、無理やりレインお姉様のほうを向かせる。


「ね、レインお姉様の前説がもう少しで終わるよ。すごいねー、観客の方たちがめちゃくちゃ盛り上がってる。この後レインお姉様がグッズの紹介をしたら、ここに人だかりができるの。そしたら何をしなければいけないかわかる?」


「注文を受けて、間違わないように商品を梱包して、代金を確実にいただいて……」


 ナタヌがまた下を向いて、ぶつぶつと頭の中に叩きこんだマニュアルを読み上げ出す。


「ちがーう!」


「へ?」


「違うでしょ! 笑顔で『ありがとうございます!』でしょ!」


「ありがとう……ございます……?」


 ナタヌがキョトンとした表情でわたしを見つめてくる。


「ここまできたら、マニュアルなんてどうでもいいの! 代金だって適当で! 商品を渡し間違えちゃっても、あとから謝って正しいのに取り換えればいい!」


「でもそれだと……」


「とにかく楽しんでいただくの! 全員に! 全員の中にはわたしたちスタッフも入ってる!」


「私たちも……」


「まずはナタヌが楽しんで! そして、来てくれた人たちに『来てくれてありがとう。今日は楽しんで帰ってください』って大切な気持ちを伝えて! それ以外はどうだっていいから!」


 気合いよ気合い!

 とにかくエビバディパッション!


「私……やります! 感謝の気持ち、伝えます!『私が作ったグッズを買ってくださってありがとうございます!』って伝えます!」


「よーし、良い笑顔! それでこそわたしのナタヌだね♪ ご褒美にチューしちゃう♡」


 チュー♡


 むぐぅ。

 なんですか……ラダリィさん。良いところだから邪魔しないで?


「ラダリィチェックでアウトです」


 えー。

 今はOKな流れだったでしょ……。


「アウトです」


 ケチッッッ!

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