第18話 アリシア、ローラーシューズを教える
レインお姉様、そして幸運な4人の女性がわたしの前に並ぶ。
「それでは僭越ながら、ここからはわたし、アリシア=グリーンが進行を務めさせていただきます」
4人の女性、そして周りにいらっしゃるたくさんの人たちに見つめられて……緊張する。
何あの子、レインお姉様よりかわいいわ。連絡先教えてー。って声が聞こえてくるみたいね。
≪それは幻聴です。ローラーシューズ講師の仕事に集中してください≫
エヴァちゃんうるさい。
わたしの思考を読み取って、いきなり脳内に話しかけてこないで!
≪アリシアの妄想癖には困ったものです。仕方ありませんね。オホン……何あの子、レインお姉様よりかわいいわ。連絡先教えて~≫
いや、声変わってないし。
気を遣ってくれるのはありがたいけど、今はそういうの大丈夫です……。
「じゃあ、まずは順番に自己紹介から始めましょっか?」
と、無難な滑り出し。
1番の年長者でも19歳かー。みんな若いし、すぐに上達しそうね。
「みなさんにローラーシューズをお配りしますので、この椅子に腰かけてもらって、わたしに足のサイズを見せてくださいね」
このサイズ合わせの時間が至高の時間なのだ!
なんせ合法的にドレスのスカートをまくって、うら若き女性の素足に触れるチャンス!
≪エロオヤジですか≫
外野、うっさいぞー。
≪右から22cm、23cm、22.5cm、24cmです。はい、至高の時間終わり≫
聞こえませんー。
わたしは実測値しか信用してませんー。
「はい、次の方、お席にどうぞ♡」
足の細さとか、ふくらはぎの感触とか、いろいろデータが必要なの!
まあ、まじめな話、アキレス腱の強さとかも見ておかないとケガの危険もあるし。
≪切れたらつなげれば良いだけです≫
そういう身も蓋もないこと言わないの。
痛い思いはしたくないのが人間なんだから。少しずつ人の感情を理解しないとダメよ?
≪人間は面倒な生き物ですね≫
そうだよ、面倒なの。それが人間、それが生きるってことなのよ。
≪小娘がぬかしおるわ≫
突然何キャラ?
≪魔王、ですかね?≫
わたしに質問し返さないでよ。自分でやったなら最後まで責任をもって!
≪責任ですか……。それでは魔王として、世界を滅亡させてきます≫
責任の取り方が重い!
もういいから普通のロボに戻って静かにしていて。ちっとも計測に集中できない……。
≪普通のロボ……? 最初から最高スペックのロボなので普通のロボの気持ちがわからないのですが、どうしたらわかるようになりますか?≫
めんどくせー!
最高のロボで良いからちょっと黙ってて!
≪へいへい。3ゲットロボだよ~。自動で3ゲットしてくれるすごいやつだよ~≫
エヴァちゃんってば、なんでこんなにダル絡みしてくるのよ……。お酒を飲んだ時のラダリィそっくりね。そういうところはマネしなくてもいいのに。
「はい、それぞれローラーシューズを履いてみてどうですか? きついとか緩いとか、違和感があったら教えてくださいね」
と、一応は建前上の注意事項を語ってみる。
でもね、参加者のお嬢様方は、口々に「この靴軽い!」「羽が生えたみたい」と感動の声を上げてくれている! ふふ、予想通りの反応ありがと♡
「サイズのほうは大丈夫そうなので、みなさん軽く準備運動をしてから、本格的なレッスンに入っていきますよー」
先ほどまで和気あいあいとした雰囲気だったのが一変し、4人に緊張感が走る。
「あ、本格的って言ってもローラーシューズの操作自体はすっごく簡単ですからね。緊張せずにリラックスで行きましょう」
「あらあらみなさん♡ 少しお顔がこわばっていますわよ? 楽しいレッスンですから笑顔で参りましょう♡ アリシア先生のローラーシューズは特別製です。ほら、私だってすぐに滑れるようになったんですよ~♡」
ずっと静かにニコニコ顔で見守っていたレインお姉様が口を挟む。微笑みを浮かべたままローラーシューズを起動し、ゆっくりとわたしたちの周りを回るように滑り始めた。
「まあ、レイン様素敵ですわ」「なんてお美しいの」「こんな間近で……」「一生の思い出にいたしますわ」と、4人のお嬢様方の表情が緩む。それが会場全体へと広がっていき、それが拍手になって返ってくる。
さすがアイドル……。
一挙手一投足が人に見せるための動きになっていらっしゃる。魅せるということを理解されて行動されているんだわ。『チームドラゴン』が技術習得よりも何よりも、1番苦労したポイントが人に魅せるための演技。それをすでにものにされているんだわ……。
「さあ、アリシア先生、続きをお願いします♡」
「は、はい! それではローラーシューズに魔力を貯めるところから開始していきましょう。これはイメージの世界ですからねー」
わたしのローラーシューズ講座は、大盛況のうちに幕を閉じるのだった。
時折レインお姉様のサポート受けつつだったけれどね。
でもわたしは誰からも連絡先を渡されませんでしたとさ。
チクショー!
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