第16話 アリシア、ラダリィに勝負を仕掛ける
「み、みなさんこんにちは? わたしはアリシア=グリーンと申します……」
夜会の参加者、男女合わせて100名ほどの貴族様たちの前で挨拶をさせられているんですけど……。
どうしてこうなった?
「みなさ~ん! 今日はレインの夜会#28にご参加いただきありがとうございま~す! 特別講師のアリシアをお招きして、みんなでローラーシューズを勉強しちゃいましょうね~」
レインお姉様の透き通るような声がホール内に響き渡る。
なんだかノリが軽い!
貴族様の催す夜会って、こういうのだっけ?
≪アリシア、ここで良さげな貴族を捕まえれば玉の輿に乗れますよ≫
いや、合コン会場じゃあるまいし……。そもそもそういう出逢い目的の集まりじゃないからね。みんなレインお姉様のファンの方々なのよ? そしてわたしは、そのアイドルをプロデュースするアリシアPだからね!
「あ、アリシアさん……。わわわ私、こんなに大胆なドレスを着たことがなくて……1人だけ浮いていないでしょうか?」
泣きそうな顔のナタヌが、わたしのドレスの裾をギュッと掴んでそばを離れようとしない。
「大丈夫大丈夫大丈夫! この中で誰よりもかわいいよ!」
「あらあら♡ それは主役の私よりもかしら♡」
レインお姉様が聞き耳を立てていたらしく、わたしの肩にあごを乗せてくる。
「レインお姉様! あー、いえ、その……それはどうかなー?」
主役の人はこっちに絡んでこなくて大丈夫なので、あっちでソワソワして待っている人たちにファンサでもしていてくださいな?
それに女の子のかわいさは、どっちが上とかそういうのはないので!
「ナタヌ様、自信を持ってください。身分的にこの中で浮いているのは私だけです」
「身分は私も同じなのですが……」
そうね、ラダリィもナタヌも平民。そしてわたしもね。
「んー、ラダリィさん……。身分云々言ってるけど、その堂々たる立ち振る舞いで貴族のお嬢様方よりも断然目立っていますけど? なんていうか……プロデューサーのわたしよりも貫禄を出すのやめてもらっていい?」
ほら、あの辺の若い男の人たちが、ラダリィのことを見てひそひそ話してるじゃないの。あれ、絶対「どうやって声かけようか」って話しているのよ? なんでいつもラダリィばっかり……。やっぱり胸か! 胸なのか⁉
このままじゃいけない!
「くぅ……。そうだ! ちょっとナタヌとエヴァちゃん、ちょっとこっちきて!」
「なんでしょうか?」
≪Yes, My Lady.≫
2人とも! ドレスのお色直しをするから! ラダリィに負けてなんていられない! わたしのプロデュースで生まれ変わったら、貴族の男たちをいっぱいひっかけてきて!
≪アリシア以外に触れられたくないのですが……≫
「普通に私も嫌ですけど……」
「このままだとおっぱいの大きさで女性の価値が決められてしまうのよ⁉ 大問題でしょ!」
大問題だよね⁉
え、2人とも何その顔……。別に胸のサイズで困ってませんけど的な顔するのやめて⁉
「ええい! 良いからこっち来なさいっ! ここをこうして、こうしたら、こうこうこう! どうだ⁉」
ナタヌのドレスは布を限界まで薄くして、腰回りのリボンを取り払って、くびれを強調したデザインに変更! あとはスカートに大胆なスリットを入れれば……何これ、エロかわいすぎるっ!
「アリシアさん……恥ずかしいです……」
モジモジするんじゃありません!
今からあなたはプリマドンナよ! ラダリィだけじゃなくて、レインお姉様も食って主役に躍り出るの!
「そんな……」
「さあ、行きなさい! わたしのナタヌが男たちにちやほやされる姿を見せてちょうだい!」
「……はい。すごく嫌ですけど……アリシアさんが望むなら……」
ぜんぜん乗り気じゃなさそうなナタヌが、フラフラとホールの中央に向かって歩いていく。
しばらく泳がせておけばあっという間に飢えた野獣たちが群がることでしょう♪ まあでも、わたしの許可なく勝手にナタヌに触れたら、強力な呪詛でたちまち肌が爛れ落ちて死ぬし、大丈夫大丈夫♪
よし、次はエヴァちゃんね。
エヴァちゃんは……なんかもう裸で良いかな。
≪良いわけないです。ロボにも人権はあります≫
冗談だってば。真面目に怒らないでよー。
エヴァちゃんはナタヌよりも大人っぽく仕上げようかな。
≪産まれたての赤ちゃんのような私を大人っぽくですか? ロリかわいい感じが良いのではないかと思いますが≫
ロボが実年齢とか気にするんじゃないの……。
エヴァちゃんは体のサイズも自由自在に変えられるからねー。だけど、胸のサイズで勝ったと思われたくないから、そこはいじらないでおきましょう。
≪アリシアは胸に対するこだわりが強すぎます。その劣等感の塊はなんとかなりませんか? そんなに悩んでいるなら、私がアリシアの胸を巨乳にしてあげましょうか?≫
いや……『創作』で胸を創るのは違うと思うのよ……。わたしだっていずれ年齢とともにラダリィみたいに……。
≪アリシアとナタヌさんは1歳違い、ラダリィさんとは2歳違いです。2年後にあのサイズに成長する確率は0.0000000000000%です≫
完全に0%! ええ、ええ、知ってましたけど⁉ 知ってましたけど何かっ⁉
だから……女の魅力は胸のサイズじゃないって証明をしてきてちょうだい!
≪え、だるっ……。私、別に男とか女とか性別ないですし。ロボですし≫
おいー! いきなり素に戻らないでよ! わたしのためにーお願いよー!
≪自分で証明してきたら良いのではないですか?≫
いや、ほら……あそこでスレッドリーがめっちゃ監視してるじゃない? わたしが男の人と話してたり、ちやほやされたりしたらどうなると思う?
≪修羅場ですね。とても楽しみです≫
コラー! 他人事だと思って楽しみにすんな!
ここはさ、レインお姉様のアイドル活動の場だから、スレッドリーが暴れたら困るのよ。だからね、お願い?
≪超絶だるいですが、仕方ないですね……。あとでとっておきの魔力をくださいよ?≫
はいはい、わかってまーす。
ちゃんと濃縮させた魔力を用意しているから安心して♪
≪アリシアの……熟成されて濃厚で秘められたあれをいただけるんですね。がんばります≫
いかがわしい言い方をするんじゃないの……。
とにかく、このドレスでラダリィよりもたくさんの男たちの連絡先をゲットしてきてちょうだい!
こうして、ラダリィとわたし(代理:ナタヌ&エヴァちゃん)の戦いの火蓋が切られたのだった。
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