第15話 アリシア、ローラーシューズの先生になる?

「俺は剣を極めてアリシアを守っていこうと思っているんだ」


「良いでやんすね~。木細工の修行をすると、細かい剣技の勉強になるでやんすよ」


「そうなのか! 公爵は物知りだな!」


「他人行儀でやんすね。ソンと呼んでほしいでやんす」


「ソン! 俺のこともドリーと呼んでくれ」


「ドリー!」


 ヤンスとスレッドリーが急激に仲を深めている。

 男同士の意気投合ってやつですかね……。知らんけど。


 2人が楽しそうに話せば話すほど、ラダリィの周りの空気の温度が下がって……。


「男ってこれだから……」


 とうとうため息を吐いちゃいましたよ。


「なぁに? ラダリィちゃんは男の子のこと嫌い?」


 レインお姉様がラダリィに話しかける。


「いいえ、そのようなことは……」


「男の子はかわいいわよね♡ いっつもくだらないこととエッチなことば~っかり考えているのよね~。子どもみたいでかわいい♡」


「そうなのですが……殿下にはもっと現実を見ていただきたいです……」


「ラダリィちゃん、いつもドリーちゃんのお世話をありがとうね。でもそんなにがんばり過ぎてると疲れちゃうわよ~」


 レインお姉様がラダリィの頭の上に手を置いた。


「お嬢様……」


「男の子はずっと子どもみたいに見えてもね、ちゃんと成長しているのよ」


 たしかにねー。スレッドリーにもたまにハッとさせられる時があるし、そういうものなのかな……。普段子どもみたいに見えるのはホントその通りなんだけどね。


≪アリシアもずっと子どもみたいでかわいいですよ≫


 うっせ!

 今はそういう話じゃないの!


「ソンちゃんだって、木細工職人の修行ば~っかりしていて、領地にはあんまり帰ってこないけれど、大事な場面では必ず私のそばにいてくれるのよ。たとえば今日。あとはショーの日かしらね」


「あー、それ! ショーの話が聞きたいです!」


 レインお姉様のアイドル活動について詳しく聞きたいです!



「それでね、ソンちゃんが婚姻の儀の時、『アイドルにならないか』って言ってくれて~♡」


 ステンソンを話の輪に加えて、レインお姉様のお惚気と言いますか、2人の馴れ初め的な話を聞くターン。


「レインのお披露目をしたかったのと、領民に受け入れられる施策と、レインの『たくさんの人に見られたい欲求』の三方を叶えられる案だったでやんすからね~」


「いやん♡」


 最後の1つはいったい……。


「それでアイドルですか……。姉上は昔からそうでしたね……。目立ちたがり屋と言いますか、主役気質と言いますか……」


 スレッドリーは納得がいったようないっていないような、微妙な表情を見せていた。


「良いでしょ~。姉妹の中では私が1番かわいいんだから、1番目立つのが必然なのよ~」


 五つ子だから同じ顔なのでは?


≪アリシア、一卵性の五つ子は遺伝子配列こそ同じですが、別個の存在です。考え方や性格はそれぞれ違います。私は断然ニノ推しです≫


 エヴァちゃんはちょっと黙ってて。

 話がややこしくなるから。


「たしかにアイドルになれば1番目立てるかもしれませんよね……。それにしては街の中でとくに何もプロモーション活動をしている様子が見られないんですけど? レインお姉様の特大ポスターが飾ってあったり、グッズが売っていない……。どういう計画になっているんですか?」


「定期的に夜会は開いているのよ~。『会いに行けるアイドル』を目指して、夜会に参加すると、抽選で私とお話したりダンスができたりする権利が手に入るの~」


 握手会ならぬダンス会!

 貴族の男性からしたらうれしいのかな? アイドルと触れ合えるなら、きっとうれしいよね!


「『会いに行けるアイドル』というコンセプトは良いですねー。ほかにはどんな活動を?」


「ほか……?」


 レインお姉様が首を傾げる。

 あれ? ほかの活動は何もなし?


「画家を集めて、レインの肖像画をたくさん描かせているでやんすよ」


「それを販売しているってこと?」


「夜会の参加者たちに配っているでやんす」


「お金は取っていないってことね。プロモーション活動なのかな?」


「ま、そうでやんすね。レインのことをもっと知ってもらいたいでやんす」


 グッズ配布は悪くないけど、肖像画はコストがかかり過ぎな気はするかなー。

 もっと気軽に配れるものが良いような気もするね。


「ほかにはほかには?」


「ほか……でやんすか?」


 ステンソンが首を傾げる。

 おいおい、夫婦そろってどうした?


「夜会でダンスして肖像画を配っているだけ? それで領民に認知されてます?」


 露出が足りてなさすぎじゃない?


「そうそう、そうだったわ!」


 レインお姉様が何かを思い出したように手を叩く。


「アリシアちゃんのローラーシューズを見て、『これだ』と思ったのよ~。先日の夜会で試しにショーをしてみたの! この間教えてもらった通りにね♪」


「おー、それそれ! そういう話を聞きたかったんですよー!」


「みんなすっごく驚いて、すっごく褒めてくれて気持ち良かったわ~♡」


 ふむふむ。

 ローラーシューズはインパクトがありますからね。掴みは良さそう?


「それで~、今度アリシアちゃんが遊びに来るって聞いたから、『次の夜会の時は、先生が来るからみんなでローラーシューズを滑りましょう』って言っちゃったの♡」


「はい?」


「今夜が夜会の予定だからよろしくね。アリシア先生♡」


 わたし、いつの間にかローラーシューズの先生になっていたみたい?

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