第14話 アリシア、兄弟子の夢を聞く

「みなさん、はじめまして。『グレンダン』へようこそでやんす」


 グレンダン公爵閣下が謁見の間で待ち構えていた。

 謁見の間と言っても、王都のお城みたいな造りではなくて、大きな会食場みたいな感じ? 長いテーブルの一番奥に、余裕たっぷりな様子で座る若い男の人が1人。

 

 すごーく見知った顔でヤンス……。

 おいおい、誰か冗談だと言ってくれよ……。


「ねぇ……そこで何してるの……ステンソン……」


 頼む! 人違いだと言ってくれ……。「ステンソン? それは誰ですか?」って言ってくれー!


「アリシア。ひさしぶりっす。かれこれ5年ぶりくらいっすね」


 Oh……。

 誰か……誰か、人違いだと言っておくれよ……。


『構造把握』


 ステンソン=グレンダン。21歳。19歳の時、前グレンダン公爵(父モラク=グレンダン)から爵位を継承する。爵位を継いだ現在も、普段は『ガーランド』にあるアザーリンの工房で木細工職人になるための修行をしている。所持スキル『石積みLv1』。


 なんで公爵公子が親方のところで木細工職人なんか目指してるんだよぉぉぉぉぉぉぉ! それに爵位継承したんなら、おとなしく領地経営しろよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! そもそもお前のスキルは『石積み』だから木細工はぜんぜん向いてないんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


 マジ何なの? 

 誰かドッキリだと言ってよ!


≪ドッキリ≫


 ぶん殴るぞ!


≪DVですね。私、DVされちゃいます。やった♡≫


 DVで喜ぶな!

 ねぇ、ホントのホントにコイツってあのヤンスなの?


≪私は面識がございませんが、アリシアの記憶の中に存在しているうだつの上がらない二番弟子のステンソン氏と同一人物で間違いないようですよ≫


 マジかぁぁぁぁぁ。

 もう現実を受け入れるしかないか……。


「ヤンス……おひさ。あんまり驚いていない感じだけど、わたしがここに来ることは知ってたの?」


「ミィシェリア様から連絡をもらったでやんすよ。かわいい妹弟子が遊びに来るってことで、急いで戻って歓迎パーティーの準備をしたんすよ~」


「それは……ありがと……」


 笑い方がマジでヤンスだわ……。


「おい……」


 スレッドリーがコソコソ話で話しかけてくる。

 何よ、今ちょっと取り込み中だから……。


「公爵と面識があるのか?」


「ん、あー、なんていうか、『ガーランド』で一緒に修業した仲、みたいな?」


 実際はぜんぜん同じ修業をしたことはないけど、同じ親方に師事しているっていう意味では、まあ一緒に修業しているってことでいいのかな。ややこしい。


「仲が良いのか……?」


「いや、ぜんぜん」


「ずいぶん親しげだが……?」


「いや、ぜんぜん」


 ヤンスっていっつも外で木を削っているだけだし、あんまり話したことなかったかな。わたしは『龍神の館』で働いた後、工房で手芸をやっていたから、時間的にもあんまり顔を合わせることもなったし。


「正直そんなによく知らない……」


「そうか!」


 なんでそんなにうれしそうなのよ?

 別にわたしの修行事情なんて興味ないでしょ。


「ドリーちゃんとアリシアちゃんは内緒話? お姉ちゃんも混ぜてちょうだいよ~」


 魔法少女……レインお姉様が無理やりわたしとスレッドリーの間に割り込んでくる。めっちゃ良い匂いしますね! その香水を販売しているんでしたっけ⁉ 1億個買います!


「姉上。なんでもないです……。アリシアと公爵が面識ありということで少し話を聞いていただけです」


「そうなの? ソンちゃんはアリシアちゃんと知り合いなの?」


 レインお姉様がヤンスのほうを振り返る。


「兄妹弟子の間柄でやんすね。具体的には……毎日アリシアちゃんの手料理を食べていた仲でやんす」


 言い方ー!

 あと毎日は言い過ぎ。わたし、工房の賄い料理はたまにしか作ってなかったからね?


「アリシアの手料理、だと……」


 いや、そんなわかりやすく嫉妬の炎を燃やされても……。でもスレッドリーにもけっこう作ってあげている気がしますけど?


「アリシアさんの手料理、だと……」


 はいはい、ナタヌにはこれからいっぱい食べさせてあげるから。やめてやめて。魔力抑えて! ここでヤンスを亡き者にしようとしないで。


≪アリシアの手料理、だと……≫


 エヴァちゃんは乗らなくてよろしい。


≪ケチ……≫


「兄妹弟子? 例の工房のことかしら?」


「そうすでやんすよ~。おいらの生涯の夢、木細工職人になるための修行の場でやんすよ」


 生涯の夢なんだ……。公爵なのに。


「ヤンスはなんでそんなに木細工にこだわるの? 所持スキルだって『石積み』なのに。せめて石細工にすればいいじゃない?」


「アリシアはわかってないでやんすね。スキルなんて関係ないでやんすよ。おいらは木が好きなだけ。木とともに生きたい。ただそれだけなんでやんすよ……」


 そういう想いは初めて聞いたわ。

 木が好きだったんだ。なんかそれなら、まあ、良いんじゃないかな。でも公爵の仕事を放り出して職人の修行はどうかと思うけど!


「公爵。俺は感動した。好きなものを追求する。それこそが男の生き方だ!」


「スレッドリー殿下、わかってくれるでやんすか。男は夢。夢を持ってこそ男でやんすよね!」


「公爵!」


「殿下!」


 スレッドリーがヤンスのもとに駆け寄り、がっちりと握手を交わす。


 何これ……?

 急に意気投合したの? どこのポイントで?


 あ、ラダリィさんが虫を見るような目で2人のことを……。

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