第13話 アリシア、グレンダン公爵閣下と対面する

「やっとお城に到着だー」


 みんなで手を繋ぎ、道幅いっぱいに広がるという迷惑行為をしながらゆっくり歩くこと1時間。

 わたしたちはようやくグレンダン城の前に到着した。


「スレッドリー殿下ご一行、無事ご到着されました~」


 門兵の1人が大声で叫ぶと、他の門兵たちが盛大にラッパを吹き鳴らし始めた。

 なんか歓迎のセレモニーが始まった⁉ えー、なんか物々しい雰囲気なんですけど。これが普通? ラミスフィア城だと、メルティお姉様がお1人でラフにお出迎えしてくれただけで普通にお城に入れたのに?


 ラッパの演奏が終わる。ギギギと金属がこすれる音を立てて、ゆっくりと城門が開く。

 街の中なのにこんなごつい城門があるんだ……。


「皆様、こちらへどうぞ」


 門兵の人がグレンダンの家紋が入った旗を持って先頭に立ち、わたしたちを城内へと誘導してくれる。街の人たちにじろじろ見られて恥ずかしいなあ。ナタヌ、挙動不審が過ぎるよ。ラダリィほどじゃなくても良いから、もっと堂々としていて? エヴァちゃんは手を振ったりしないで良いから、静かについてきて。


「ヤバッ……。めっちゃ豪華……」


 お城の大きさは言うまでもなく、一瞬でわかる外観の豪華さ。柱1本見ても材質からしてお金がかかっているのがわかる。ラミスフィア城とは比べ物にならないのは言うまでもなく、なんなら王宮にも匹敵するか、もしかしたらそれ以上に豪華かもしれない装飾が施されていた。


「グレンダン公爵家の歴史は古く、パストルラン王国建国以前から存在していたと言われています。ずっと王家に対抗するように貴族たちをまとめてきた公爵家の1つなのですよ」


 ラダリィ先生の豆知識だ。

 グレンダン公爵ってすごいのねー。


「あれ? それだと今回レインお姉様が嫁がれたのって……」


「はい、歴史的な出来事になります」


 だよね。

 そっか。政治のあれこれって大変なんだ。


「アノ大臣の暗躍もございましたが、何よりグレンダン公爵閣下がレインお嬢様にベタ惚れなさったとのことで」


 はー、そういうこと。

 恋は政治を超えるんだ。すごいなー。時代が時代なら、もしかしたら許されざる恋だったかもしれないのに、結ばれて良かったね。顔も見たことないけど、グレンダン公爵閣下の恋を応援します!


「アリシアさん、どうしましょう……。このかっこうで大丈夫でしょうか。ドレスを着ていないと死刑になったりしませんか⁉」


 ナタヌが震えながらわたしの裾を引っ張ってくる。


「プリーストなんだから、ローブ姿が正装でしょ。さすがに死刑にはならないんじゃないかなー。まあ大丈夫よ。もしナタヌに危害を加える輩がいたら、わたしが私刑にするからね!」


 ボッコボコにしてやんよ!


「アリシア様……くれぐれもお手柔らかにお願いします。私の故郷ですので何卒……」


 青い顔をしたラッシュさんがこっそり耳打ちしてくる。


「いやいや、わたしだって常識ぐらいわきまえていますよ。もしも、の話ですからね。わたしのナタヌに狼藉を働こうとする者は、たとえ公爵閣下でも国王陛下でも、ね♡」


 わたしは国よりも自分の家族を守るぞー!


「アリシアさん♡」


≪私のことも守ってください≫


 いや、エヴァちゃんはわたしのことを守る側だから。


≪守るとは、強い者が弱い者を庇護することを言うのですよ。つまり私が守られる側のはずです≫


 そういう絶対的な力関係のことを言っているのではなくてね?

 エヴァちゃんの役割的な話よ?


≪私の役割……アリシアのお嫁さんでしょうか?≫


 自分が何のために生まれたのか思い出そうか……。

 進化しすぎて忘れちゃったかな?


「グレンダン城は立派だな。領地をいただいた暁には、俺もこれくらいの城をアリシアにプレゼントしないといけないな」


 あえてその独り言にはつっこまないでおこう……。

 この城、代々公爵家の資産の中からけっこうな金額を突っ込んでようやくって感じだと思うよ。王子の小遣い程度じゃ、この柱1本だって作れるかどうか……。あと、わたし、立派なお城で暮らしたい願望がないから。たまにこうして旅行で泊まらせてもらえるくらいがちょうど良いっていうか、とっても楽しいかなー。


「閣下がお待ちでございます。このまま謁見の間にご案内させていただきます」


 門兵の人がわたしたちに一礼してからお城の中に入っていく。

 ついてこいって意味だよね。


 そういえばグレンダン公爵閣下って、レインお姉様をアイドルにして街の産業にしようとした方よね。先見の明あるというか……いや、自分の惚れた女性をみんなに見せびらかしたかっただけかも? まあどっちにしても大人気アイドルをプロデュースできているんだから理由はどうでもいいか。ぜひお会いしてお話してみたいなー。同じプロデューサーとして、貴重な意見交換の場をね!


「スレッドリー殿下、並びにお連れの方々が到着なさいました」


 ここが謁見の間かな。

 うわーこれ、玉座の間よりも豪華じゃない? 王様負けてるじゃーん。大丈夫なの? 下克上されちゃう?


「ドリーちゃん! よくいらっしゃいましたね! ひさしぶりにそのかわいい顔を見せてちょうだい♡」


 レインお姉様は待ちきれなかったのか、部屋の入り口付近まで走ってきて、スレッドリーの手を取る。ちょっと引き気味のスレッドリー。

 そうね、わたしも驚いてる。レインお姉様ったら、ドレス姿……じゃなくて、アイドル衣装……でもなくて、完全に魔法少女ルックだもんね。テカテカの光沢があるワンピースで超ミニスカートで……どこで誰がデザインしたの?


「お、おひさしぶりです、姉上。お変わりなく」


「ドリーちゃんこそちょっと痩せたんじゃないですか? 長旅で疲れてしまったのかしら」 


「レイン。そんなところで話していないで、部屋の中に入ってくつろいでもらったほうがいいでやんすよ」


 謁見の間の中からグレンダン公爵閣下のお声が?

 あれ? なんか……。


「はい、ごめんなさいね。みなさん、こちらへどうぞ。かしこまらずに自分の家だと思って、1週間楽しんでいってくださいね」


 と、魔法少女に連れられて謁見の間へ。


「みなさん、はじめまして。『グレンダン』へようこそでやんす」


 おいおい、誰か冗談だと言ってくれよ……。


「ねぇ……そこで何してるの……ステンソン……」

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