第68話 アリシア、魔力を吸って後悔する

「というわけで、モグラの脅威は去った感じかなー。あとは穴から飛び出してくるやつを全部捕まえて、まとめて処分したら終わりって感じ!」


「よくわからないが……モグラがどんどん無力化されていっているな?」


「アリシアさんすごいです……」


 今回はわたしっていうよりも、エヴァちゃんがすごかったよ。自立型の防衛システムっていうけど、まさかオリジナルスキルを獲得してくるとはね。


「あれ? モグラ型の魔物がたくさん……だとすると、ここに温泉は湧いていない、ですか?」


 ええそうです。

 相変わらずナタヌさんは賢いね……。


「モグラ退治が終わったら、次の場所を探して魔力探知を再開だよ……」


 温泉って簡単には見つからなそうだねー。

 まあ、人知れず街を救った英雄ってことで自己肯定感を上げていきますかねー。


 でも褒められたい!

 誰かに言いたい!


 わたしたちが街を救いました!


 このモグラたちをギルドに持って行けば何かになったりとか……?


「でもさすがにモグラはたいした素材にならないよね? オオモグラっていうわりにはなんかちっこいし、面倒だから全部蒸発させちゃおっか。ナタヌ、『セイクリッド・フォース』のぶちかましをお願いできる?」


 ど派手にやっちゃってくださいよ!


「アリシアさん、モグラの肉は食べられないと思いますけど、毛皮はギルドで買い取ってくれると思いますよ」


「え、マジぃ? こんな弱々しい皮が何かに使えるの?」


「滑らかな肌触りが貴族の方に人気だとか。以前ソフィーさんに教えてもらったことがあります」


「じゃあ皮だけ剥ぐ……のも面倒だし、このままアイテム収納ボックスに詰めてギルドに持って行こうか」


 討伐クエストが出ているわけじゃないだろうし、買い取りの時にはなんて説明しようかな。穴掘っていたら街の破壊工作を目論んでいたモグラの大群がいたので倒しておきました?


 いや、なんじゃそりゃ……。

 説明がムズイ……。


 まあいいや、なるようになるかな。


 ところでエヴァちゃん、モグラはいつまで湧いてくるの?


≪あと500匹ほどでしょうか。まだそこそこ時間がかかります≫


 うへー、しばらくここで足止めー?

 暇だなー。


 あ、そうだ! 良いこと思いついた♪


「ねぇ、スレッドリー。こっち向いてー」


 穴から噴き出すモグラを眺めていたスレッドリーに話しかける。


「なんだ?」


 と、こっちを向いた瞬間――。


「『キャッチ・ネット』!」


 新スキルをスレッドリーに向けて発動!

 せっかく獲得したんだし、お試しで使ってみないとね♪


「あ、アリシア⁉ 何を……動けない……力が……」


 首だけこっちを向いた変な体勢のまま、スレッドリーが地面に倒れ込む。


「で、殿下⁉ どうしました⁉」


「おー、『キャッチ・ネット』に成功した! 魔力がぐんぐん吸い取れるー。これ便利ー」


 こんなに魔力が吸収できるなら、MP回復ポーションいらないかも?

 その辺を歩いている人から魔力吸えばいいじゃーん♪


≪新スキル発動おめでとうございます。ちなみに、早めに開放しないと魔力が枯渇して殿下は死にますよ≫


「えっ⁉ 動けなくなるだけじゃなくて⁉」


「く、苦しい……」


≪急激な魔力消費で魔力切れを起こした生き物は、一時的に生命力を魔力に変換することが確認されています。生命力を魔力変換し続けた場合、最悪死に至ります≫


「ヤバい! どうやって解除するの?」


≪王子様のキス……でしょうか≫


「それは眠り姫の起こし方でしょ。バカ言ってないで早く教えて」


≪『汝のあるべき姿に戻れ、アリシアカード』にしておきましょうか≫


 しておきましょうかって何⁉

 そもそもカードじゃなくてネットだし?


≪呪文なんて適当ですよ。解除したいなと思えば解除できるでしょう≫


 そんな適当なの⁉


「えーと、解除!」


 あ、解けた。

 なんだ、呪文とかいらないじゃん……。


 スレッドリーの様子は⁉

 魔力切れで気絶しているけど、とりあえず生きているね……。

 MP回復ポーションを飲ませて……気絶していて飲まないので、適当に全身に振りかけて、ヨシ!


 あ、そうだエヴァちゃん。今スレッドリーから魔力を吸い取ってみてめっちゃ気になることが……。


「ねぇ、エヴァちゃん……。人の魔力って……」


≪ええ、そうですよ。その人の個性が出ます≫


「これが個性かー。わたしもこういう感じあるの?」


 吸い取った魔力から感じるスレッドリーの……想いというか、思想というか、人間性というか?「あ、この魔力ってスレッドリーだな」って感覚。魔力探知ってこの個性を探知しているのかも。


 もうね、スレッドリーそのものを吸収しちゃった感じがして……なんかこっちがめっちゃ恥ずかしくなる! いや……知ってたけどさ……頭の中がわたしのことばっかりだよ! こんなにこんななの? スレッドリーはさ、こんなにわたしのことばっかり考えてるの? 恋ってこういうことなの?


≪そうですよ。わたしはアリシアから魔力の供給を受けることで、アリシアのこと、人間のことを理解してきました。そうして自我が芽生えるに至ったのです。魔力からは隠すことのできない真実が、ウソ偽りない想いが伝わるのです≫


 それも恥ずかしいよ……。

 わたしの魔力ってどんな感じなの?


≪むっつり≫


 グサッ。


≪ヘタレ≫


 グサッグサッ。


≪おっぱい≫


 グサッグサッグサッ。


「ちょっともうやめて! わたしのHPはゼロよ!」


≪だけどまじめで、温かくて、やさしくて、情に厚くて、他人のことばっかり心配して……ひたすらにお人よしの平和脳でどうしようもない人です≫


「エヴァちゃん……」


 それ、絶対外で言わないでよ?

 わたし、これでも『暴君幼女』ってことで恐れられている存在だから、それはキャラクター的に幻滅されちゃうかもしれない!


≪アリシア、そういうところですよ?≫


「どういうこと……?」


≪気にしすぎです。『暴君幼女』だからといって、いつでも暴力を振るっていないといけないわけではないですし≫


 でもみんなの期待にも応えたいっていうか……。


≪心配しなくても大丈夫です。アリシアは素で『暴君幼女』ですから≫


 どういう意味よ⁉


≪普通の人は、想い人に『キャッチ・ネット』を使用し、魔力を吸い尽くして殺そうとしたりはしません。まさに暴君の所業です≫


「いや、こんなことになるとは……」


 スレッドリーは地面に変な体勢で寝っ転がったまま。まだ当分意識が戻りそうにないね。


≪暴君アリシアの暴君っぷりに期待しています。私を楽しませてください≫


 エヴァちゃんを楽しませるためにやっているわけじゃ……。


≪アリシアの魔力を味わいながら、アリシアの暴力行為を眺める。これこそ至福のひと時……≫


 コイツ歪んでやがる……。


 はいはい、人から魔力を吸ったり吸われたりすると、いろいろ面倒だってことがわかりましたよ! 新スキル『キャッチ・ネット』を使うのは、魔物相手だけにしておきます……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る