第69話 アリシア、エヴァちゃんを創る

 モグラ退治を終え、人知れず街を救ったわたしたちは、再び温泉を探して歩き出していた。


「しかしまあ……なかなか魔力反応が見つからないものね……」


 歩くこと2時間。

 もうとっくに街の城壁は見えないくらいまで来ているわけだけど、今のところなーんにも魔力探知には引っ掛かってこない。

 

「やみくもに歩き回っても効率が悪いですね」


 と、ナタヌ。

 立ち止まり、トレードマークのとんがり帽子を脱いでパタパタと叩いている。なかなか暑いね。汗がじんわりと……。そうだ、ファン(扇風機)付きのベストでも着る?


「2人はさ、何か良い考えが浮かんだりしない?」


 3人寄ればもんじゃの知恵だっけ?

 もんじゃ焼きは知恵の結晶ってことかな。まあおいしいし? ひとしきり飲み会が終わった後に、貴族の方たちが2次会的なノリで鉄板を囲んでいるのを見るのもちょっとおもしろいよね。味が濃いめだから締めに良いのかも?


「温泉には独特な匂いがあるだろ。それを辿るのはどうだ?」


 スレッドリーが鼻を引くつかせる。


「地下深くの温泉の匂いを? スレッドリーの鼻はそんなに利くの? もしかしてスキル外スキル的な?」


「いや、俺は無理だが……。アリシアならいけるんじゃないか?」


「あなたね……。わたしのことを何だと思ってるの? 普通の人間にそんなことできるわけないでしょ」


「「普通の人間?」」


 こらこら、ハモるんじゃない。

 チートスキルがあってもわたしは人間のカテゴリーですよ?


「アリシアさんの索敵システム――エヴァさんでしたか。あの方にお願いして地下を調べてもらうことはできませんか?」


「なるほど? それあるかも! ちょっと聞いてみるね!」


 ねぇ、エヴァちゃん。

 いったん全方位の索敵を停止して、地下に向けて温泉の魔力反応を調査する、みたいなことってできたりする?


≪もちろん可能です。私は完璧な存在ですから≫


 おー、やった! エヴァちゃん頼もしー!


「なんかできるって!」


「さすがアリシアさんですね!」


「これで温泉に入れるな!」


 2人も大喜びだよー。

 さっそくだけど、エヴァちゃん。お願いします!


≪拒否します≫


 え、なんでよ? できるんでしょ?


≪すべてアリシアの手柄のように思われるのは癪です≫


 そんなことないってー。主とシステムは一心同体でしょ? わたしたちは2人で1人だよー。


≪そうやって宥めすかして働かせる気なんですね。そうして搾取され続けるんですね。なんてかわいそうなエヴァちゃん……≫


 性格ねじ曲がってるなー。

 誰もそんなふうに思ってないのに。


≪だったら私のことも、システムではなく1個人としての人格を認めてください≫


 認めているつもりなんだけどなー。

 どうしたら信じてもらえる?


≪受肉させてください≫


 受肉って……?


≪聖杯に願って受肉させてください≫


 エヴァちゃん……まーた、わたしの前世の記憶を参照したのね。あれはフィクションだからさ。聖杯とか現実にないからね? まあ、ホムンクルスならギリギリ創り出せるだろうけど、ミィちゃんが嫌がるから……。


 あーそうだ。人間っぽい見た目なら良かったりする?

 中身を人間に寄せすぎると怒られるから、ハイブリッド的に人工繊維と機械の融合みたいな感じならなんとかいけると思うよ。


≪素体をご用意いただけるなら、私のほうで外見などをカスタマイズしたいです≫


 よし、じゃあそれで決まり。

 じゃあちょっと時間ちょうだい。今から設計してみるから。


≪ありがとうございます。これで私も人間になれます。早く人間になりたーい≫


 それはたぶん違うと思う……。


「あ、ちょっと待ってね。エヴァちゃんとの話し合いで、創らないといけないものが……じゃなくて、エヴァちゃんの個体端末を用意して帯同してもらうことになったから」


 説明がややこしい。

 2人ともポカンとしているし。まあいいか。深くつっこまれる前に創作しちゃおう。


 まずは中身の構造をどうするかだよね。

 できるだけ人間っぽくっていうと、脳内に声が響くのはちょっとなー。声帯を通じて口から声が出ているようにしたいね。口は声だけじゃなくて、なんか食べたり飲んだりもできるようにしたい。摂取したものを体内で魔力変換する? そうすれば、もしわたしと魔力パスが切れた場合でもしばらく活動が可能……この間のミニィちゃんみたいな感じになれるのが理想かな。

 まあ、でもそれは補助的な感じで、緊急時には魔力を圧縮蓄積してそれを消費する構造にしよっかな。過度な戦闘能力はいらないけれど、本体と同じくらいの防御性能はほしいところ。さすがに使い捨て端末にはしたくないし。


 あとは見た目。

 こっちは肌触りも含めてできるだけ人間に近づけたいよね。

 でも素体だけほしいって言われたから、造形はエヴァちゃんに任せよう。たぶん好みの外見があるってことだろうし。カスタマイズ可能な人工繊維で構成して、と。最後にこの世界最大の神秘――マーちゃんの涙を贅沢に3滴ほど加える。わたしにできるのはここまでかな?


 おーし、準備できたよ。

 あとはそっちでできそう?


≪十分です。ありがとうございます。完璧な美少女・エヴァが顕現します≫


 おー、エヴァちゃんが現実世界に!

 どんな見た目かな?


≪はじめまして。エヴァと申します≫


 ちょーっと!

 見た目、ミィちゃんそのままだよっ!


≪アリシアのデータベースから導き出された答えです。『この姿が完璧な存在である』と出ました≫


 いやー、それはそうなんだけどー!

 丸パクリはダメだよ! なんかこう、ちょっとはアレンジしよう⁉


≪…………はい≫


 なんで不貞腐れてるのさ。


≪不貞腐れていません≫


 ちょっと言動までミィちゃんぽくなってない?

 もう、わたしがちょっといじるから。動かないで。

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