第9話 アリシア、技術革新をもたらす

「熟成肉を管理するためには、24時間絶えず魔力の供給が必要となります。以前ギルドに打診をした際には、それを引き受けてくれるほどの体制は組めないとのことでした……」


 はいはい、なるほどねー。

 この言葉を聞いて、問題点ははっきりしましたよ。

 やっとケニーさんの考えていることが理解できたのと、微妙にわたしが事態の深刻さを理解できなかった理由もね。


「傭兵のような形で冒険者の方にご依頼しようにも、私にはそういった伝手はありませんし、金銭的にもそこまで余裕はなく……」


 そりゃ、24時間魔力ずっとを送ってくれって話になったら、莫大な資金が必要でしょうよ。ギルドでも受けてくれない話をまともな個人の冒険者が受けてくれるわけもないし、もし受けてくれるなんて人が現れたとしても、おそらく相当ぼったくられるのがオチですよ。


「ほかの方法ならありますよ」


 そう、発想の転換ですよ。

 ケニーさんにはね、魔力を蓄積するという考えが抜けているんだなー。たぶんそんなことができるっていうことも知らないんだと思うけどね。


「魔力って、ある程度の時間なら貯めておけるんですよ。常に送り続けなくても、この設備は稼働させられます」


「なん……ですと……⁉」


 ケニーさん驚きすぎですって。

 そんなに目を見開いたら、目が飛び出て風で乾燥しちゃいますよ?


「これ、わたしの靴ね。実は魔力を貯めておけるんですよ。貯めた魔力を引き出してエネルギーとして利用していまして。その辺の砂利道をこうやって滑ったりできるんです」


 目の前でちょっとだけローラーシューズを起動してみせる。

 埃が舞わないように気をつけないとね。


「同じ仕組みをこの施設にも組み込んで、1週間に1回くらいギルドの魔法使いの人とかに魔力を供給してもらえばケニーさんも楽できますよ」


「まさかそんなことが……」


 もしかして、この国では魔力の蓄積ってあまり知られてなかったりする?

『ガーランド』ではなんとなく受け入れられたから普通のことかと思っていたけど、もしかしてちゃんと明言していなかったから、みんな仕組みを理解していなかっただけ、とか? 技術革新ってこうやってもたらされるのかなー。


「魔力供給口は……ああ、そこから取り込んでいるんですね。これ、わりと常にケニーさんがそばにいないとダメな造りになっているみたいですけど、もしかして普段からずっとお店に住んでいたりします?」


「ええ、だいたいは……。どうしても外出しなければいけない時には、他の従業員に代わってもらったりはしますが、ほぼ毎日店にいますね」


 しれっとヤバい発言だなー。

 それでナルディアさんも納得しているのかな。2人でお出かけとかしたいでしょうに。


「それはつらいでしょう。ちょっとその辺りの装置をいじりますけど良いですか?」


 このままだと熟成肉の奴隷ですよ。

 早く解放してあげたい。


「え、はい。そんな簡単に何かできたりするのですか? 可能ならぜひともお願いしたいですが……」


「すでにわたしの中では確立された技術なのでたいしたことではないですよ。一応企業秘密的なあれなので、ちょっとだけ1人にしてもらえたりしますか?」


「もちろんですとも。何卒よろしくお願いいたします」


 と、ケニーさんに地下室を出てもらったのを確認してから、本格的な『構造把握』に入る。

 うんまあ、設備の造りは想定通りかなー。これなら手持ちの素材でまあまあ簡単に改造できそう!

 

 まずは魔力の自然吸入をストップして、任意吸入方式に変更しましょう。

 あとは魔力蓄積用の回路を『創作』して組み込んで……おっと、その前に設備の使用魔力の効率を上げようかな。こことあっちを繋ぎ変えて、風は四方から同時に当てるようにすれば、もっと弱風でも十分肉は乾かせるよね。あとはフックの回転速度を上げて、湿度管理も可視化しておいて、と。


 おし、これでいいかな。あとはー、最低2週間稼働に必要な魔力量を計算して、その倍は貯められるように魔力蓄積用回路を設置。イスに座って吸入する方式にしようっと。30分も吸えば満タンになる計算かな。だいたいこんなものでいいかー。あとは稼働させてみて調整っと。今はわたしの魔力を充填しておこう。特別回路を使って急速充填! うぉりゃー! 3秒で満タンだ!


 いやー、これだけだと不安……装置が1つしかないのはちょっと危ないよね。一応何かあった時のために、バックアップ用の回路も作っておこうかな。もし故障したりしたら肉が全部ダメになっちゃうもの。こっちは自然吸入方式にしておこう。いや、ちょっと多めに吸入できるようにして、と。お店に来た人の魔力残量をチェックして3割分だけいただくようにも設定しておこうかな。3割までなら体調に問題は出ないだろうし、場所代的なあれってことで♪ どうしても魔力を取られたくない人は店に入る前に申し出てねってことで、表の看板に小さい文字で但し書きを入れるようにしようかなー。オプトアウト方式ってことでね!


 あとは本体のほうの設備も、もうちょっとだけいじっちゃおうかなー。

 怒られるかな?

 ちゃんと説明すればきっと大丈夫だよね?

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