第8話 アリシア、鉄板焼き屋さんをプロデュースする

「アリシア様は魔道具作りをされているんですね! しかもとても詳しそうだ。もしよろしければ、私の作った熟成肉の魔道具を見ていただくことはできませんか⁉」


 ケニーさんが期待に満ちた目でわたしのことを見てくる……。

 これは拒否できない流れ……。


「ええ……そうですね! わたしも熟成肉の作り方には興味がありますし、よろしければ見せていただけないでしょうか。良いアドバイスができるかはわかりませんけれどね」


 一応予防線を張っておく。

 これだけのお肉を仕上げられるんだから、相当なレベルの魔道具だとは思うんだよね。どうかな、わたしにできることなんてあるかな。


「アリシアさんのプロデュースするお店が増えるんですね! 楽しみです!」


「アリシア、がんばってください」


 ナタヌとラダリィの応援があるならがんばれるね! ちょっといってきますよー!


「私からもお願いします。ケニーの相談に乗ってやってください」


 深々と頭を下げてくるラッシュさん。


「ラッシュさんのご友人の頼みとあらばなんなりと、ってね♪」


 任せておいてくださいよ。

 何かしら爪跡を残してきますって。……何かできることを探さないとね。



* * *


 ステーキを堪能したところで、わたしはケニーさんと一緒に個室を後にする。

 みんなはしばしご歓談くださいな。デザートとかは後でもらおうかなー。



「地下が貯蔵庫になっていまして、上階で捌いた肉をここに吊るして保管しています」


 地下室。

 重たそうな鉄扉を開けて中に入る。

 だいたい10m四方くらいの大きさの薄暗い部屋の中に入ると、ひんやりとした空気が出迎えてくれた。

 ちゃんと温度管理ができているね。んー、うん。部屋の上のほうも下のほうもちゃんと温度が一定。これは優秀!


 天井を見上げると、部屋の四隅と真ん中に合計5つのフックが取り付けられている。そのフックに引っ掛けるようにして、皮を剥いで血抜きした巨大なバッファローがそれぞれ1体ずつ、全部で5体吊るされていた。フックがゆっくりと回転し、風が一定のリズムで肉に当たるようになっている仕組みらしい。


「それにしてもずいぶんきれいにされてますねー」


 肉を扱っているとは思えないほど、床や壁はとてもきれいに磨かれていた。管理者の人がよほど几帳面な性格をしているんだろうね。さすがに『龍神の館』の調理場も、ここまできれいに管理はできていなかったよ。


「ええ。長期間、ここで肉を保管しますからね。カビたり痛んだりしないようにしたいので、衛生管理は徹底しています」


 ケニーさんが自慢げに言う。

 アイテム収納ボックスを使えば、無菌状態で管理できます、なんて言ったら倒れてしまいそうだよね……。


「とても良い設備だと思います。温度も一定で適切に管理されていますし」


「ありがとうございます。ここまで来るのにずいぶんかかりました……」


 構造的に見ると、何度も作り直した跡があるし、手作りの魔力回路が組み込まれているみたい。だいぶ複雑な造りになっているなー。試行錯誤の結果だっていうのはよくわかる。ここまで仕上げるのは相当大変だっただろうな。


「これだけ大型の設備を動かすには、魔力の供給も大変でしょう」


 と、もっとも気になった部分に触れてみる。


「ええ、そこが1番のネックでして……。これ以上規模を広げられないのはそのせいでもあります……」


 一瞬にしてケニーさんの表情が暗くなる。

 やはりここが相談の核心かな。


「お店の規模的にバッファローが5体がちょうど良いというわけではないんですね?」


「はい、そういうわけではないのですよ……。おかげさまで、熟成肉を求めて遠方からわざわざきてくださる方も多くいらっしゃるのです。ですが予約のお客様に提供する分でも足りないほどでして……。お店の席数を増やしたいのもそうなのですが、熟成肉自体の販売にも需要がありそうなのでそちらも検討していきたいのです……」


「なるほどー。規模を増やすには設備投資が必要だけど、設備ができたとしても、魔力を供給できなければ意味がない、と」


「お恥ずかしながら、私の魔力量ではこの規模が精いっぱいなのです……」


 ケニーさんが淋しそうに笑う。

 もう少し改良をすれば、今の性能のままで設備に必要な魔力量を減らすことはできるけど、大規模な増設となるとさすがにねー。


「ギルドに魔力提供の依頼を出したらどうですか?」


 魔力をお金で買う。

 わりと普通のことのように思うけど。


「熟成肉の管理のためには24時間魔力の供給が必要となります。以前ギルドに打診をした際には、それを引き受けてくれるほどの体制は組めないとのことでした……」


 苦しそうな表情だ。

 これでケニーさんの悩みがはっきりしましたね。


「ああ、はいはい。そういうことですねー。わかりました、そのことならわたしがなんとかしてあげますよ」


 やっとケニーさんがどんなプランを描いているのかもわかりましたよ。

 そして微妙にわたしが事態の深刻さを理解できなかった理由もね。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る