第7話 アリシア、魔道具作りがバレる
「こちら本日のメイン料理、スノーバッファローのステーキでございます」
おー、スノーバッファロー!
懐かしいね。前『ダーマス』に向けて旅をしている時に、群れを倒したっけ。そういえば柔らかくて脂が乗っていてけっこうおいしかったなー。
「スノーバッファローですか! 最高級肉だと聞いたことがあります!」
「希少性が高いですし、庶民の口にはとてもとても……」
そっか、ナタヌもラダリィも食べたことないんだね。
希少性かー。じゃああの時、群れと遭遇できたのはずいぶんラッキーな偶然なのかな。いっぱい倒したし、旅の間中ソフィーさんたちと食べまくっちゃったよ。
「俺も食べたことはないな。姉上たちが美容にも良いという話をしていたのを聞いたことがある」
「そうですね。こちらのスノーバッファローは肉だけでなく角や皮など、余すことなく様々な用途で使用することができます。とくに最近注目されているのが、スノーバッファローの血を使った美容健康法です」
「血……ですか?」
血も使えたんだ……。
血抜きしないと肉の質が落ちるし、倒してすぐに血管ごと抜きとって捨てちゃったよ……。
「本日のステーキには、スノーバッファローの血を混ぜたソースをかけてお出しします。明日の朝にはその効果を実感いただけると思いますよ」
ほぇー。
美人になれるかな♡ まいったなー♡
「おいしい……」
スノーバッファローのステーキを一口食べて、思わず口から言葉が漏れた。
火加減、肉の柔らかさ、味付けすべてが完璧だった。
適当に石の上で焼いて塩を振っただけのアウトドア料理では勝てるはずもない味。これが鉄板焼き屋さんのオーナーの力!
「ホントにおいしいです! 柔らかくて口の中で溶けちゃう……」
ナタヌのほっぺたも溶けてしまいそうなほど緩んでいた。よく見れば、みんなも同じような顔をしているね。
「バッファローのお肉というのはこんなにも味わい深くジューシーなのですね……」
「うまい! 世の中にはこんなにうまい肉があるんだな!」
「ナルディア。とてもおいしいです。殿下もご満足いただけているようで、本当にありがとうございます」
みんな絶賛だ!
いや、ホントにすごい!
ただ焼いているだけに見えるのに、そこには洗練された技と経験が詰め込まれているのでしょうね。
この味、マネできるかなー。
一応、この肉の構造を確認しておきましょう。
あ、これ――。
「熟成肉……?」
「アリシア様、よく気づかれましたね。その通りです」
口に出てた。
そっかー。肉は熟成したほうがおいしいよね。そんな簡単なことを忘れてたわ。あの時のスノーバッファローは、倒してすぐの状態で時間を止めて保存していたから、まだ荒々しい生の感じが消えなかったってことかな。もしかしてお店で出しているコカトリスも熟成させたほうが良いかなー。たしか牛と鳥では熟成の期間が違ったはず……。色々試行錯誤してみなきゃ。
「このお店って、肉を熟成させる設備が整っているんですか?」
温度管理とか清潔さとか、手作業で実現できるようなものじゃないと思うんだけどな。わたしみたいに魔道具を作れるなら話は変わってくるけど。
「はい。ここにいるケニーが肉の熟成を担当しています。彼の本職は魔道具技師なのです」
「おー、魔道具技師! 温度管理や湿度管理ができるってことですかー」
「みなさまにおいしい肉を食べてもらいたい一心で、いろいろと試行錯誤を繰り返しながらやっております」
ケニーさんが照れ臭そうにしながら後頭部を掻く。
なるほどねー。
ナルディアさんが表に立ち、ケニーさんが裏で支える。
理想的な夫婦経営だわ。
「ケニーは昔から手先が器用でいろいろな発明をしていましたね。私の愛用している刀の柄も、ケニーに作ってもらったものなのですよ」
あー、3人とも幼馴染み的なね。
≪ラッシュさんが軍役に就くまでは、ナルディアさんとお付き合いしていたようですね。そこから少しずつ疎遠になり、自然消滅といったところでしょうか≫
それでもう1人の幼馴染みのケニーさんとくっついた、と。
ナルディアさんって、知的な感じのする美人でモテそうだもんなー。
あ……そういえばラッシュさんって……過去の訓練中に事故で生殖能力を失ってたんだっけ……。もしかして、疎遠になったきっかけってそれだったりするのかな。
≪どうやらナルディアさんはそのことを知らないようですね。ラッシュさんが身を引いた理由はおそらくそれでしょう≫
複雑……。
もう今さらの過去だし、絶対知られないほうが良い話ね。スレッドリーがそのことを口走りそうになったら、全力で寝かせて良いから。お願いね。
≪ついでにいえば、殿下はラッシュさんが玉なしなのをご存じないようです。ラダリィさんもご存じないようですね≫
エヴァちゃんお下品! 言い方気をつけて!
でも知らないなら安全かー。
「なあ、アリシア」
スレッドリーがわたしのほうを見てきた。
「な、何?」
「アリシアも魔道具作りが得意だったよな」
「あーうん、まあ……そうね。わたしは魔道具技師ってわけじゃなくて素人の工作みたいなものだけどねー。お店のものはチョロッと作ったりはしている、かな」
「素人だなんて!『龍神の館』においてある調理用の魔道具もすべてアリシアさんが作られたんですよね⁉ 魔道具のほとんどが全自動で、ナゲットクンが揚がったり、食材が混ざったり、冷やしたり凍らせたり、ホントにすごいです!」
ナタヌ。すっごい褒めてくれるのはうれしいんだけど……それ企業秘密だから、外ではあんまりしゃべっちゃダメよ?
「武器や防具も作れるし、ドライヤーだったか。風で髪を乾かす魔道具もすごいな」
スレッドリーにはちゃんと口止めをしておかないとダメかな。
街で触れ回るのはやめてよ?
「アリシア様は魔道具作りをされているんですね! しかもとても詳しそうだ。もしよろしければ、私の作った熟成肉の魔道具を見ていただくことはできませんか⁉」
ケニーさんの目が輝いている……。
期待されちゃってますね……。
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