第6話 アリシア、エヴァシリーズの現状を聞く
個室のドアをノックしてから中に入ってくる従業員――。
「失礼いたします」
それは――。
≪ナルディアさんの配偶者の方ですね≫
ですねー。
さっき『構造把握』した時の映像で見た顔ですね……。
ぬはー、ラッシュさんの表情が……めちゃくちゃ硬い。顔が引きつり過ぎです。ぜんぜん笑えてないんですけど。
「ケニー。おひさしぶりです。元気にしていましたか?」
硬い表情のまま、ラッシュさんが話しかける。
ぎこちないなー。
「ラッシュ! 本当にひさしぶりだ。王都での活躍ぶりは私たちの耳にも入ってきているよ」
返答する男性のほうはというと、爽やかで自然な笑顔。
ラッシュさんとはぜんぜんタイプが違う男性だねー。
小柄でぱっと見、繊細そうな印象を受ける。
「私たちは陛下のご用命で『ダーマス』に向かう途中なのです。レインお嬢様にご挨拶する前に立ち寄ってみました」
「そうだったんだな。こちらの方々は……スレッドリー殿下! ご挨拶が遅れました。当店で店長を務めております、ケニーと申します。本日はお越しいただき誠にありがとうございます」
奥に座るスレッドリーにいち早く気づき、深々と頭を下げて挨拶をしてきた。やっぱりみんなスレッドリーの顔は知っているんだ。写真もビデオもないこの国でどうやってそんなに知れ渡っているんだろうね。
「ケニー、今日はよろしく頼む。1番おいしい肉をアリシアに食わせてやってくれ」
「かしこまりました」
ケニーさんと一瞬だけ目が合う。
軽く会釈をすると、微笑みを返してきた。
さすが商売人。顔には出さないけど、絶対そういう関係だって思われたよね……。否定するのもおかしいし、あー、ムズムズする……。
* * *
「お野菜おいしいです!」
「ホントにおいしい……」
最初に提供されたのは肉ではなくて、小さくカットされたカボチャ、ナス、タマネギにソースで味をつけた焼き野菜だった。
タマネギをじっくり煮込んで作ったソースの香りがとても食欲をそそるし、実際すごくおいしい……。
この店、なかなかできるっ!
「たくさんありますのでお好きなだけお召し上がりください。ですが、お肉のほうがメイン料理ですので、お腹の具合をご調整いただいて……また、お肉と一緒に別のお野菜もお出ししますからね」
ナルディアさんが小さく笑う。
バクバクと焼き野菜を食べ続けるナタヌとラダリィに、やんわりと注意を促してくれたみたい。
「お肉!」
ナタヌの手がピタリと止まる。
「せっかくのお肉が食べられなくなったら困るねー。でも飲み物だって飲み過ぎたら同じだよ?」
スレッドリーの手も止まる。
そのブドウジュース何杯目?
≪私はいくらでも入ります≫
いや、ロボは自重して。
別でエネルギー補給もできるんだからさ。ここのお店、絶対高いよ?
≪アリシア温泉で稼いでいますから問題ないです。初日から黒字黒字で笑いが止まりません≫
それ、わたしの魔力を使った分も計算してる?
ちゃんと原価の計算に入れてよね。
≪問題ないです。エヴァ端末の省魔力化に成功しています。すでに初期個体の1/10の魔力量で活動が行えています≫
それはすごい。
ってあれ? じゃあ何でわたしの魔力は前と同じだけ使われているの?
≪端末個体数を10倍にしたからです≫
最初で500体いたような……今5000体のエヴァちゃんが働いているの? 多くない?
≪新しい温泉の掘削と2号店開業の準備を進めています≫
また勝手に……。
ちゃんとメルティお姉様の許可を取らないといけないんだよ?
≪問題ないです。そちらも手配済みです。すでにラミスフィア城に100体ほどをメイドとして派遣しておりますので、今やズブズブの関係です≫
ズブズブって……。
好き勝手やってるなー。一応ロボだってバレないようにちゃんとしてね?
≪顔パーツはランダム生成し、スキンとしてかぶせていますので、顔のパターンは実質無限です≫
そんなことまで。
それだと、エヴァちゃんの妹たちに街ですれ違ってもわからないかも。
≪体のサイズはみな同じですのですぐにわかるかと。エヴァシリーズぽいなと思った時は、おっぱいを揉んでみるとわかります。アリシアにおっぱいを揉まれて喜ぶのはすべてエヴァシリーズです≫
どんな見分け方なの。
もうちょっと別の方法があるでしょ。
違った場合、わたし、ただのヤバい人じゃないの……。
≪練習してみますか?≫
いや、TPOをわきまえて。
今食事中だし、いきなりエヴァちゃんの胸を揉んでいたらおかしいでしょ。
≪普通の返しでつまらない……≫
普通で悪かったわね!
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