第3話 アリシア、グレンダンに到着する
≪推奨速度を大きく超えて、最大速度記録を更新しました≫
うんうん、わたしの馬車もまだまだいけるね♪
馬車ちゃんありがとね。がんばってくれたご褒美に、あとでちゃんとメンテナンスしてあげますからねー。
「よぉし! 最速レコードで『グレンダン』に到着だー!」
ほほー。ここが石炭とアイドルの街『グレンダン』なのねー。
街の入り口は……わりと普通ね?
なんかこう、ライティングがすごくて、レインお姉様のアイドルソングがバンバンに流れている感じを想像していたけど……普通の街の入り口……。すごく静か。
「しょんぼり。入り口で何ももらえなかった……」
「アリシアはいったい何を期待していたのですか?」
若干落ち込み気味のわたしを気遣ってか、ラダリィが心配そうに話しかけてくる。
「入り口でレインお姉様の販促グッズとかもらえると思ってたのに……」
「販促グッズ、とはなんですか?」
ちっちゃなうちわとか、ペンライトとか。
これであなたも街のアイドルを応援してねーみたいな?
≪しかたありませんね。『アリシア温泉』で配布している販促グッズをどうぞ≫
いや、わたしがわたしの顔写真入りのうちわをもらってどうしたらいいのよ?
そこでめっちゃほしそうにナタヌにでもあげて……。
「んー、レインお姉様がいいよって言ったら、街の入り口で配布用のグッズを作ろうかなー」
「アリシアさん! 販促グッズというのはこんなにも尊くすばらしいものなのですね! 私も一緒に販促グッズを作りたいです!」
ナタヌがわたしの顔写真入りうちわを大切そうに抱きしめている。
「お、俺もグッズを作るぞ!」
遅れてスレッドリーも参戦を表明する。そんなにものほしそうに見つめても、うちわはあげないよ?
それにしても2人とも、わたしの好感度を稼ぎたくて必死なのがかわいいね。
でもなー、どっちも手先は不器用そうだから……。
≪脳筋のお2人は引っ込んでいてください。アリシア、細かい作業ならこの完璧なる私にお任せください。私が1人で全部作ります≫
まあエヴァちゃんがいればわたしも楽できるってもんだわ。
「ああ、この『グレンダン』の空気。何もかも皆懐かしい……」
ラッシュさん、それ死ぬ時のやつです。
故郷に帰ってきた時に言ったら1番危ないやつなので……息を吐くように死亡フラグを立てないように。
「うーん、それにしても落ち着いた普通の街ですね。良い街なんだけど……アイドルっぽい感じが一切ない……」
門の前だけじゃなくて街の中に入っても景色は変わらず。古い街並みだけど、隅々まで手入れはされていて、裕福な街なんだなってことはわかる。
歩いている人たちもわりと普通。炭鉱夫のグループもいれば、商売人もいる。だけど変なゴロツキみたいな人たちは見当たらないし、街の治安はすごく良さそう。
んー、総じて普通……。
『ラミスフィア』と比べると、「温泉」みたいなわかりやすい観光スポットがないせいか、かなり地味目に落ち着いて見えるね。
「なんか拍子抜けしちゃった……。とりあえずどこかで食事してからグレンダン城に向かおうか?」
一応みんなに確認してみるも、反対する人はいなかった。
何を食べようかねー。
「それでラッシュさん。この街でおすすめの食べ物はなんですか?」
地元民がおすすめする食堂とかでも良いですよー。
「よくぞ聞いてくださいました!『グレンダン』で特徴的なことはと問えば、まずは食事が挙げられるほどなのです。炭鉱で働く者たちは、非常にたくさんの量の食事を必要とするため、安価でボリュームのある食事を出す店が好まれます。目印は……あれです。黄色い看板が掲げられている店は食事の量が非常に多いので気をつけてください」
「ほほー。そう言われて見てみると、ちらほら黄色い看板のお店がありますね。多いってどれくらいなんですか?」
朝食はすごく軽めに済ませたし、けっこうお腹減ってますからね。少しくらい量が多いほうがみんなもうれしいのでは?
「1人前を注文すると……通常の店との比較で言えば……軽く10人前が出てきます」
「何それ怖い……」
大盛りとかいうレベルをはるかに超えているんですけど。
「もちろん出されたものを残すなんてもってのほかですが、食べる速度も重要になります。カウンターに着き、順番に注文をします。すると同時に数人に対して料理が提供されるのですが、その全員で食べ終わる速度を合わせなければいけません」
「え、何でですか?」
「お店の回転率を落とす行為は『ロット乱し』と言って、大変なマナー違反になります。決しておしゃべりなどせず、食べることに集中して、一気に平らげないといけません。もし残したりロットを乱したりしたら、たちまち『ギルティ』の烙印を押されてしまい、以後ジロー協会に属するすべての店で出禁になりますのでご注意を。初心者が気軽に立ち入ってはいけないのです」
「危ない……黄色い看板のお店に入るのはやめましょう……」
ちょっと頭のおかしいお店には、なんかその辺を歩いている大食い自慢のドワーフたちにでも任せます。
「わたしたちは楽しく優雅に食事のできるところに行きましょうね」
みんなの心は1つ。まるでシンクロするかのように全員が一斉に無言で頷いた。
「それでは少しお値段は張りますが、おすすめの店があります。貴族向けの高級料理店に属しますが、私の古い馴染みが経営していますし、一般客お断りというわけではないのでご安心ください」
「おお! それは期待できそうですね! ラッシュさんのお友だちのお店! 楽しみ!」
何が食べられるんだろうなー。
高級料理店♪ 高級料理店♪
「お食事を楽しみにしている時のアリシアさんはとってもかわいいです」
いいじゃないのー。
誰かに食事を作ってもらうのってしあわせー♪
って、どこかの街でこんなこと言っていたら、とんでもなくまずい料理が出てきたような……これってもしかしてフラグ⁉
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