第2話 アリシア、グレンダンの秘密を知る
「この数年の間に、石炭採掘に代わる一大産業が立ち上がろうとしているらしいのです」
スクープ!『グレンダン』産業革命⁉
今日1番輝いている男、『グレンダン』出身のラッシュさんが語る――。
号外の見出しはこんな感じ?
「もしかして石炭採掘に問題があって、新たな街興しって感じですか?」
燃料枯渇問題はどこの世界でもあるのねぇ。
早く石炭から石油、そしてほかのクリーンな燃料に移行していかないと!
「いいえ。石炭採掘量は安定しているので、なんら問題はないと聞いています」
「ん? じゃあどうして?」
安定しているなら別に何も心配はいらないじゃない?
あえて新しい産業に手を出すリスクを冒すようなことをしなくても。
「それが……」
ラッシュさんは、何やらとても言いにくそうに言葉を選んでいる様子。
あれ、もしかして真っ当じゃない系の産業? なにをやっているのかなー? すごく気になる……。
「ラッシュ様のお立場では言いづらいこともありましょう。こういったことは殿下の口からご説明いただいたほうがよろしいかと……」
ラダリィが助け舟を出す。
そんなに言いにくいことなの? スレッドリーが関係しているってことは、何か政治的なあれこれとか?
「俺か? 例の件のことはあまり詳しくはないんだが……姉上から聞いたことだけしかわからないぞ。なんせ俺はまだ一度も『グレンダン』に行ったことがないからな……」
スレッドリーもなんだかモゴモゴしていて、歯に物が挟まったような物言いだ。
『ラミスフィア』には何度も遊びに行っていそうな感じだったのに、『グレンダン』には一度も行ったことがない? もしかして、長姉のグレンダン公爵夫人と仲が悪いの?
「もったいぶらないでさー、知っている情報だけで良いから教えてよ」
ラッシュさんもラダリィもすごく言いにくそうにしているし、ここは空気の読めないスレッドリーさんの出番ですよ。
「姉上は……容姿端麗なんだ」
「うん? 急に何?」
いきなりシスコン発言?
まあ、否定のしようもないくらいきれいだけどさ。
「アリシアも会ったことがあるからわかるだろう? 姉上たちはとても美しい……ことで有名なんだ」
「そう、だね? 5人ともとってもお美しいよね?」
顔もプロポーションも、そしてきっと性格も。
メルティお姉様と一緒に過ごした1週間で、とっても好きになっちゃった。
でもそれがいったいどうしたの?
「グレンダン公爵閣下も、姉上の容姿に惚れ込んでいるようなんだ」
まあ、それはそうかもね。
ノーアさんの未来予知によると、ご結婚相手との相性は最高なんだし、それってもちろん容姿もタイプってことよね。のろけ? あーうらやましい!
「それでグレンダン公爵閣下は、姉上の美しさ、そして魅力を広く知らしめたいと思われたようでな……」
ふむ? なるほど?
「姉上を『グレンダン』の街のアイドルとして売り出したんだとか……」
え? アイドル⁉
「少しずつ人気が出てきているらしくてな、最近ではわりと大々的にプロモーション活動もしているらしい……。今や『グレンダン』は姉上のグッズで溢れかえっているとかいないとか……」
人妻アイドル!
まさかのアイドル活動ですって⁉
「えー、最高じゃない! グッズはどんなのがあるの? 歌は? ライブあるの? 見たい見たい!」
めっちゃ興味ありまくります!
えー、どんなアイドル活動しているんだろ。かわいいコスチュームで踊ったりするのかな?
「姉上の姿を描き写した絵画が近隣の貴族たちに人気らしい……」
おおー、絵画!
そうよね、この国には写真ないものね。人力で複製してるんだ! すごいすごーい!
「あとは姉上と提携している衣装店のドレスが人気らしい……」
それも定番よね!
アイドルと同じかっこうをしたいもの!
「姉上のつけている香水も人気で、同じものをつけるのがブームになりつつあるとか……」
香水!
匂いも同じになりたいってね。男性が女性に贈るのにも良さそう!
「あとは……」
スレッドリーが言いよどむ。
ラッシュさんとラダリィが「早く言え」と急かしている様子。
「なになに? ほかにはどんな活動をされてるの?」
ここまで引っ張られると気になる……。
「ろ、ローラーシューズショーを……」
「……マジ?」
「ああ、この間アリシアに習ったあれを舞踏会か何かで披露しているらしい……」
レインお姉様! なんてことなの!
「こんなことしている場合じゃないわ! 急いで『グレンダン』に向かわないと!」
全速力でね!
≪前方敵影なし。最大速度いけます≫
「待て待て! アリシア……怒ってるのか?」
「アリシア……どうか寛大な気持ちでお嬢様をお許しください」
「アリシア様のお気持ちはわかりますがどうかご容赦を……」
馬車の連絡窓から覗き込むと、客車の中ではなぜか怯えている3人の姿が。
ラダリィとラッシュさんに至っては、すでに土下座の構えだ。
「なんで? どうしてわたしが怒らないといけないの?」
みんな何に怯えているんだろう?
「だってほら……姉上が勝手にローラーシューズを使って営業活動を……」
「えー、すっごくうれしいよー! レインお姉様がそんなにローラーシューズを気に入ってくださっていたなんて気づかなかったー!」
早く『グレンダン』に行ってこの喜びを伝えなきゃ!
「権利関係など……」
「そんなの気にしないよー! 身内みたいなものだし、どんどん使ってほしいなって思うくらい!」
どうせローラーシューズ自体はわたしにしか作れないからねー。レインお姉様が広く宣伝してくれたら、たくさんの貴族の方々に販売できるのはわたしだけだから別に損はしないし!
「こうしちゃいられないって! レインお姉様にローラーシューズショーのノウハウを指導しなきゃ!」
プロデューサーの血が騒ぐってものよ!
「わわわ私も、ローラーシューズショー出たいです!」
ナタヌが立ち上がり、馬車の連絡用小窓に顔をこすりつけるようにしてアピールしてくる。必死の形相で目も充血している!
「やる気があるのは素敵! ナタヌは『龍神の館』でエリオットたちのショーは見てた?」
「はい! ずっといいなって思ってました!」
すでに目で見て学習は済んでいる、と。
あとは運動神経的なところだけねー。ピチピチのステージ衣装を着せて滑らせてみよー♡
「じゃあ俺も……」
「スレッドリーは筋肉量を倍にしてから出直して」
そんな非力な体じゃローラーシューズショーは務まらないのよ。
「なぜだ……。エデンさんとセイヤーさんは細かったぞ」
「あの2人は……まあいいのよ」
「エデン様! 白薔薇のお兄様!」
ラダリィ、落ち着いて。名前を出しただけだから、エデンはここにはいないからね。
「俺も出たい……」
≪そんなに言うのなら、しかたないですね。私もショーに出て差しあげましょう≫
はいはい、スレッドリーもエヴァちゃんもナタヌに対抗意識を燃やしているのね。
しかたないなー。『グレンダン』に着いたら平等に教えてあげますよ。
楽しみだー!
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