第79話 アリシア、初日の営業報告を聞く

 なんとか無事に温泉施設の営業許可が下りたわけでー。その翌日から『アリシア温泉&アスレチックパーク』をオープンしたんだけどー。


「えー、あのアスレチックパーク大人気なの? うそーん」


≪老若男女問わず大人気で、営業初日は、<チャレンジコース>の順番待ちの列が途切れることはありませんでした≫


 一応ね、灼熱温泉地獄はやめさせて、ただの温泉に落ちるように演出は変えさせたけど、それ以外はほぼエヴァちゃんが設計したままにしてあるわけで。あ、温泉の大臣さん、大事故(サプライズハプニング?)を起こして第2王子を亡き者にしかかったのに、何事もなかったかのように営業許可をくれてありがとうございました!


≪アリシア、聞いてください。私、とても美人でかわいくて付き合いたいんだそうですよ。初日は『アリシアパーク』の入り口で接客をしていたのですが、23人の男性に求婚されました≫


 エヴァちゃんはご立派な偽乳を反らして得意げに語る。

 ロボのくせに生意気な……。


「へ、へぇ……それで、良さげな人はいた? 試しにお付き合いしてみたりするの?」


≪いいえ。「私は身も心もアリシアに捧げていますのでごめんなさい」と申し上げると、みんな変な顔をして「アリシアって誰だ……」と言うんですよね。おかしな人たちです≫


 そりゃそうでしょうよ。

『ガーランド』ならいざ知らず、ここは『ラミスフィア』だし、わたしのことなんて誰も知らないでしょ。


≪アリシアはこの国でもっとも尊い存在です。今は国王様から大使に任じられている重要人物ですよ? 知らないほうがおかしい……というわけで、そんな不届き者は即刻特別反省室に連れて行き、アリシアのすばらしさを説いてあげています≫


 そういうのをやめなさいって。

『アリシア温泉』……どころかわたしの悪評が広まっちゃうでしょ。


≪大丈夫です。真に反省するまで、反省室から外へは出しませんから≫


 えっ。

 まさか、昨日からその人たちを軟禁していたり……?


≪22人はすでに更生したので解放済みです。現在反省中なのは残り1人ですね≫


 すぐに記憶を消して解放してあげなさい!

 もう二度とそんなことしちゃダメ!


≪ですが記憶を消してしまったら、アリシアのすばらしさを全国民に知らしめるという私の存在理由が……≫


 そんな目的でエヴァちゃんを創ったわけじゃないです。

 あなたはわたしのことを守るために生まれた、防衛・索敵担当なのよ? 忘れちゃった?


≪与えられた目的だけをこなすのはただの機械です。私はアリシアが潜在的に望む希望を叶えるために存在しています≫


 いや……わたし、全国民に知られたいとか思ってないよ?


≪ちやほやされたい≫


 うっ。


≪ハーレム≫


 ううっ。


≪みんなに靴を舐めさせたい≫


 いやいや、それはさすがに……。


≪アリシアちゃん好き好き≫


 それは……うん……。


≪つまり、全国民がアリシアのもとに馳せ参じ、美男美女全員が求婚する世界を作り上げるのです≫


 だからそれは話が飛躍しすぎ!

 そこまでは求めてないからね? ちょーっとみんながちやほやしてくれて、わたしがいいなーって思った人がわたしのことを好きになってくれる、そんなささやかな夢なの。


≪寝言は寝て言え≫


 あー、急に暴言吐いた!

 夢なんだから良いでしょ!

 別にそれを実現したいってわけじゃなくて……ちょっとだけ近づいたらうれしいなってだけだから!


≪私がそばにいます。それだけで良いじゃないですか≫


 まじめに告ってきた⁉

 不意打ちはドキッとするからやめれ。


≪私はいつも本気です≫


 ん……それはありがと。

 エヴァちゃんのことは大切だし、ずっと大事にするからさ。


≪録音しました≫


 ちょっと⁉


≪これでナタヌさんとスレッドリー殿下にマウントを取ってきます!≫


 コラコラー!

 そういうのは変に波風が立つからやめなさいって。


 あーあ、行っちゃった。

 面倒なことにならなきゃいいな……。



* * *


 そんな懸念は……まあ当然のごとく当たりますよね……。


「今日こそぶっ壊してやる!『セイクリッド・フォース』!」


 ドアノブに手をかけて、今まさに開けようとした扉が跡形もなく吹き飛ぶ。衝撃波が来る直前、エヴァちゃんによる防護フィールド展開を確認したので、わたし自身は何の回避行動も取らなかった。


 わたしの手に残ったのはドアノブだけ。


「ナタヌ様、おやめください! 部屋がなくなってしまいます!」


 ラダリィが半泣きになってナタヌの腰にしがみついていた。


≪私が正妻です。田舎の小娘はアリシアの靴舐め係にするのももったいない。指を咥えてそこで見てろってね。ぺっぺっぺっ≫


「人生を捧げた私こそがアリシアさんの唯一無二のパートナーですっ! 靴だって舐めるし、全身を舐めていいのは私だけ!」


 いや、2人とも靴を舐めるのやめよう? 汚いからね。病気になっちゃう。


「おぅ、アリシア。大きな音がしたが大丈夫か?」


 と、スレッドリーが現れた。

 まああれだけ派手に魔法を撃てばみんな心配するよね……。でもまあ、あなたが混じると余計ややこしくなりそうだから、今はちょっとそっちでおとなしく待っていてね。

 仕方ない。ここはビシッと言うか……。


「ちょっと! 静かに! 2人ともいい加減にして!」


 騒ぎが大きくなる前に今すぐ部屋を修理するから、2人ともそこに正座! 反省!


≪アリシア……≫


「アリシアさん……」


 素直に正座するエヴァちゃんとナタヌ。


「大騒ぎする人は嫌い! しばらくそこで反省してなさい! こんな人たちは放っておいて……スレッドリー、2人でどこか遊びに行こう!」


 2人にはしばらく反省させなきゃ!

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