第77話 アリシア、創造主としてのけじめをつける

 とにかくスレッドリーが無事で良かったよ……。

 メルティお姉様もラダリィも涙ぐんでいるし、ラッシュさんは後追いする寸前だったけどなんとか踏みとどまったし。


「みなさん、ホントにご迷惑をおかけしました。わたしの創ったエヴァちゃんのいたずら……ではすまないかもしれないですけど、どうか許してください」


 飼い主の責任。

 エヴァちゃんのやらかしはわたしの責任です。

 ホントは良い子なので……ちゃんと教育しますから、どうかどうか殺処分だけは……。


「俺は別に気にしていないぞ。滑って下に落ちたのは俺が悪い」


 怒ってないの? そんな爽やかに笑っていていいの?

 マジギレしても誰も咎めないのに……。


「エヴァちゃんもこの『アリシア温泉』を一生懸命盛り上げようとして少しやり過ぎてしまったのよね? 本物のお客様に利用していただく時までに改善されていれば問題ないですわ」


 メルティお姉様まで……。


「私は……少しキャラかぶりが気になるのですが」


「ラダリィさん、気にするところはそこですか……。ええ、まあ、わたしもそれは気になっていましたけどね。エヴァちゃんは人工知能なので、たぶんラダリィの性格をモデルに学習したのかなと。だから似ているのはそういうことで……」


 人工知能って何?

 みたいな顔をされていますけど、説明が難しいのでなんとなくごまかしますね。


「つまり……ラダリィリスペクトってことかな!」


「アリシアはおそらく大きな勘違いしていると思いますが……まあいいでしょう。ですが、殿下をいじるのは私の仕事ですから程々にお願いします。それにしてもエヴァ様はいつまで寝ているのでしょうか」


 あー、うん。

 ナタヌアタックで壊れちゃった、かな?


「ナタヌの本気、見させてもらったよ。物理攻撃もなかなかのものだね」


「わ、私は何も! ほんの少し触れただけですし……」


 出たー。「何もしていないのに勝手に壊れました」ってやつー。あれだけ派手に体当たりして何もしていないはないでしょう。

 まあ、エヴァちゃんの体はただの端末だから、実体はわたしのアイテム収納ボックスの中にあるわけだけど……それにしてもいつまで寝たふりをしているつもり?


≪スレッドリー殿下の時みたいに泣き叫びながら心配してもらえるまでです≫


 うざー。

 そういうところだよ!

 ほら、さっさと起きて、自分の口からも謝りなさい。

 人間になりたいならそういうのは大事よ?


≪私に声帯はないので口で謝っても謝らなくても同じです。それにアリシアが謝ったんだからもうそれで良いでしょう≫


 ダメッ。

 そういうところちゃんとしないと、もう表に出さないよ? 人に迷惑かけちゃうなら、感情部分を削除して、ただの索敵・防衛システムに戻ってもらうしかないね。


≪スレッドリー殿下、並びに皆様。大変ご迷惑をおかけいたしました。私、つい調子に乗ってしまいました。どうか平にご容赦を≫


 変わり身早っ。

 まあそうやって少しずつ人間との触れ合いに慣れていければいいね。自分の過ちを認められるのが良い人間ってね。


≪アリシアも早く人間になれると良いですね≫


 どういう意味だコラー⁉

 わたしはいつだって謙遜そのものですよ! 謙遜から先に生まれてきたような人間に向かってなんてことを!


≪自分の内面を客観視できる鏡でも開発しておきますね≫


 いらないわ、そんなもの。

 いちいち反論してきて……まったく誰に似たんだか。


≪こちらの鏡で創造主の姿をご覧ください≫


 いらないって言ってるでしょ。

 エヴァちゃんと話していたらあっという間に日が暮れちゃう。



「じゃあ、和解できたということで……ってわたしが言うことでもないんだけどさ。エヴァちゃん、アスレチックパークはもういいから、そろそろ温泉のほうに案内してくれない?」


 みんなも疲れただろうし、温泉に入って体と心を休めないと。


≪その心は?≫


 ナタヌの体を洗いたい♡


≪通報しました≫


 どこに⁉

 成人同士なんですけど、なんかダメなの⁉


≪私が法律だ≫


 ひどい暴君がいた……。


≪暴君に暴君って言われたらお嫁に行けない≫


 エヴァちゃん、お嫁に行くつもりなの? そもそも性別とかないでしょ。


≪アリシアと結婚≫


 この流れでそれはなくない?

 そもそもわたし、あなたの産みの親みたいなものだからね?


≪好き♡≫


 情緒不安定か。


≪アリシアに言われたくありません≫


 実はわたしのことそんなに好きじゃないでしょ……。


≪私は難儀な性格で設計されていますね≫


 性格なんて設計してないから。勝手にラダリィの性格をモデル学習しておいて、ひどい言い草だよ。絶対この会話聞かせられないわ。


 もう良いから早く温泉連れて行ってよ。


≪入浴中は視聴者の方に配慮して、謎の光を入れますからね≫


 視聴者とかいないわ。

 誰か知らないけど、そんな人がいたら覗きでしょ。そっちを排除するのがあなたの仕事。


≪私だって一緒に温泉に入ってキャッキャウフフしたいです≫


 それは別にいいけど、索敵と防衛の仕事はちゃんとしておいてよね。


≪へいへい≫


 なんで不貞腐れてるのさ……。


≪アリシア好き♡≫


 もう付き合ってられないわ……。



「はい、エヴァちゃんはやっぱりさっきのナタヌアタックでちょっと壊れちゃったみたいなので、わたしが温泉に案内しまーす」


 情緒不安定ロボは放置して、みんなで温泉行きますよー。

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