第72話 アリシア、『アリシア温泉』に案内する

「とまあ、そんな経緯がありまして……」


 わたしたち温泉掘り当て隊(アリシア、ナタヌ、スレッドリー、エヴァ)は、『ラミスフィア』のお城に戻って、メルティお姉様たちに事の顛末を報告したのだった。


「無事温泉を掘り当てただけでなく、すでに商業施設として営業を始められる状態にあるということなのね?」


「アリシア……またやらかしましたね」


「アリシア様、やはり底がしれない……」


 言いたいことはわかりますけどー。


「わたしがやらかしたんじゃないもん。ちょっとわたしのロボが自我に目覚めて……」


≪私の手柄はアリシアの手柄です。何も恥じることはありませんよ≫


 さっきまで手柄を取られたくないとか言っていたくせに……。

 んー、今回のエヴァちゃんの活躍はすごいんだけど、これはちょっと……だいぶ……めちゃんこやり過ぎてるのよ……。荒野に1日で温泉旅館みたいなのが建ってたら明らかにおかしいでしょ!


≪実際創れたのでおかしくはありませんが?≫


 わたしだって創れるけどさ! 普通の人から見たらおかしいの!


≪アリシアは普通ではありませんからね≫


 だからそういうこと諸々バレたくないんだってば! ミィちゃんにも言われているし、ひっそりと生きたいの!


≪ふっ。とっくの昔に手遅れのようですけど≫


 鼻で笑った……。

 鼻とかないくせに鼻で笑うなー!


「アリシア。早速その温泉施設を見せていただけませんか? 領主代行として、営業許可を出せるかどうか実地調査をさせてくださいな」


 メルティお姉様が合図し、後ろに控えていた執事さんから何やら書類を受け取っている。


「もちろんです。……お姉様? それは何の書類ですか?」


「検査項目一覧です。温泉を伴う施設の営業許可には厳しい検査が必要になっているのですよ。我が領に常駐している専門の大臣を帯同させますので、既定の検査項目に則って確認をさせてくださいね」


「なるほどー。大臣さんが常駐されている! さすが温泉の街『ラミスフィア』ですね。じゃあさっそく見てもらうということで。現地に行きましょう!」


 わたしたち温泉掘り当て隊は、メルティお姉様、温泉検査担当(?)の大臣さん、ラダリィ、ラッシュさんを伴って、ぞろぞろと街の外にある『アリシア温泉』へと向かう。


 いや、冷静に考えると……わたしの名前が付いた温泉って、相当恥ずかしいんですけど⁉


≪私は、このひっくり返すとアリシアが裸になるヌードペンがお土産物屋に売っているほうが恥ずかしいと思いますが≫


 なんてものを創っているのよ⁉

 創っているのも売ってるのもあなたでしょうが!

 そんなの販売中止!


≪モザイクなしで完全再現しているのに……≫


 エヴァ……あなた概念ごと分解されたいの?


≪この遺伝子! 残すまでは死ねない!≫


 いや……あなたに遺伝子とかないからね?

 まったく……なんでこんなに人間臭くなっちゃったんだろ……。



* * *


「あ、メルティお姉様。見えてきましたよ」


 って……。なんだかわたしたちがお城に戻った時よりも巨大な施設になってるじゃないの⁉


≪もっとたくさんのお客様を呼べるようにと、『アリシア・アスレチックパーク』も創っておきました。略してアリシアパークです≫


 ホント何してくれてるの……。


≪アスレチックで適度に汗を掻き、温泉で汗を流す。なんて素敵な場所なのでしょう≫


 コンセプトはすごくいいんだけどね……。2、3時間でポンポン新しい施設を作らないで。


 もう、こういうことは言いたくないんだけど、命令します!

 新施設のアイディアが生まれたら、必ずわたしに建設許可を取ること。現存する設備のメンテナンスと運用以外は独断で何も創っちゃダメです! いい⁉


≪ちっ……わかりました~≫


 態度悪いな⁉

 やらかしておいて不貞腐れるんじゃないの!


≪反省してま~す≫


 まったくもう。


 とまあ、そうこう言っている間に、わたしたち一行は『アリシア温泉』に到着した。



「これはまた……どうやってこんな立派な建物を準備したのかしら?」


 メルティお姉様が驚き……そして疑念の声を上げる。


「えーと……? 女神様の加護、ですかね?」


 まあ、わたしだって驚いているので、普通の人が見たらもっと驚くでしょうね。うーん、女神様の加護だけだと説明が苦しいかな……?


「女神様の加護というのはこんなものまで……」


 ごめんなさい。半分ホントで半分ウソです……。

 女神様の加護が直接こんな施設を建設してくれることはないけど、女神様の加護を受けたわたしが創ったエヴァちゃんが創ったので、間接的には女神様の加護で『アリシア温泉』は生まれました!


「アリシア七不思議の1つですね」


 と、ラダリィ。

 ほかの6個の存在をわたしは知らない……。


「さすがアリシア様。本当に……」


 って、最後まで言わんのかーい!

 ラッシュさん、せっかくだから最後まで言ってよ!


「とてもおいしいです。女神様の加護……まさに奇跡ですね」


 ラダリィがまんじゅう屋の店員(エヴァ108号)から、試食の『アリシアまんじゅう』を受け取っていた。

 勝手に営業開始するんじゃないの! まだ今検査中だからね⁉


 ちなみに、この『アリシア温泉』は、温泉施設の保守メンテナンス、商業施設の運営・管理、そして各店舗経営から接客まで、エヴァちゃんから生まれた子端末のロボ2000体で賄われている……というのを今聞きました!

 わたしの魔力と、温泉から抽出した魔力を動力としているので、わりと永久機関的な感じになっているみたい。


「施設が大きいので、しばらく検査に時間がかかりそうです。その間暇ですわね……」


 メルティお姉様がチラリとわたしのほうを伺ってくる。

 えっと……接待しろってことかな?


「あ、じゃあ、この施設をご案内しますね。もしよければお食事や温泉を試されますか?」


 営業許可前でもよろしければ?


「検査に来たのだけれど、温泉に入ってもいいのかしら?……でもこれも視察よね? そう、視察だからいいのよ!」


 メルティお姉様が勝手に悩んで勝手に大きく頷いた。

 どうやら自己完結したみたい?

 お金を取らなければ営業じゃないから大丈夫じゃないですかねー? わからないですけど。


「じゃあ、ラダリィとラッシュさんも一緒にどうぞー。エヴァちゃん、施設案内よろしく」


 わたしもこの施設のことは知らないし。


≪かしこまりました。……オホン。……オホン。ヤッホー! 良い子のみんな~、今日はアリシア温泉に遊びに来てくれてあっりがっとね~♪ 大きな声で『こんにちは~!』≫


 え、何そのノリ……。

 

「こんにちは~!」


 メルティお姉様がこぶしを突き上げる。信じられないくらいノリノリ……。

 お姉様……もしかして、こういうの好きなんですか?


≪あれあれ~? みんな元気がないぞ~? もう一度お姉さんと一緒に元気よく『こんにちは~!』≫


「「「「「こんにちは~!」」」」」


 全員やけくそになり、大声を上げる。(ノリノリのメルティお姉様を除く)

 大丈夫なの? この『アリシア温泉』とかいう子ども向けアトラクションみたいなノリの施設……。

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