第65話 アリシア、魔力操作の仕方を講義する

「おーい、2人ともー。早くも魔力探知に反応があったよ。地下10kmくらいのところに温泉があるっぽい!」


 けっこう魔力反応が大きい。

 ちょっと深いから、大きい魔力だなっていうのはわかるけど、実際のサイズとか湯量はわからないなー。


「アリシアさん、どうしますか? 掘りますか⁉」


 ナタヌが目を輝かせて杖を構える。


「いや、さすがに『セイクリッド・フォース』では無理なんじゃない? どっちかというと広範囲攻撃だよね。地中深く掘り進めるのには向いてなさそう」


 この辺一帯を荒れ地にするのには効果的だろうけど……。


「今回、私の出番はないということでしょうか……」


 早くも半泣き状態のナタヌ。


「大丈夫だって。温泉が湧いたらさ、良い感じにくぼみを作ってお湯を貯めないといけないじゃない? その時こそナタヌの出番だ!」


 たくさん広くて浅めの穴を開けて、浴槽の基盤を作るのだ!


「わかりました!」


 うんうん。ナタヌは笑顔のほうがかわいいよ♡


「では俺の出番だな。このスコップに命を賭ける!」


 それは重いよ……。ちょっとしたレジャーなんだから、命は賭けないで。

 でも『剣聖』のスキルって、穴掘りに使えるの?


「ハ~! セイッ!」


 スレッドリーが魔力を貯め、高くジャンプ。スコップを地面に突き立てる。スコップの刃先……から柄の真ん中くらいまで地面に深く突き刺さった。なかなかやるじゃん!

 と思ったけれど、スレッドリーが地面からスコップを引き抜こうとすると、柄の真ん中あたりでポッキリと折れてしまった。


「ああっ! 一撃で折れてしまった!」


「ま、そうなるよね……。普通に考えて、ただのスコップにあれだけ魔力込めて攻撃したらね。そんな耐久性あるわけないもん」


 スレッドリーが普段使っているのは初代国王から譲り受けた愛刀だよ? この国一番の名刀なわけで、そういう業物じゃないと『剣聖』スキルの行使には耐えられないんじゃない?


「打つ手なし、か」


「私たちに穴掘りのスキルはないですし……」


 落ち込むスレッドリーとナタヌ。

 なんかこの2人、ホント似てるね……。

 どっちもかわいいおバカさんなんだなー。


「2人はもうギブアップ?」


「……いや、まだだ。今からスコップを買ってくる! 1本ずつ使い捨てればあるいは!」


「私も手伝います!」


 街へ向かってダッシュをする2人。


「おーい、ちょっとストップ! 地下10kmを掘るのにスコップでは無理だって。何本買う気なのよ」


「それもそうですね」と、2人が足取り重く、ゆっくりと戻ってくる。


「ではどうしたら……」


「やはりアリシアのバカ力で地面に穴を開けるしかないのか?」


「ほー、なるほど? バカ力ね? スレッドリーは普段からわたしのことをそういう目で見ていたのね? なるほどねー。じゃあまず、わたしがどれほどのバカ力なのか、あなたの体に穴を開けて確かめてみましょうか?」


 わたしは、右腕をブンブンと回して魔力を貯めていく。

 乙女をバカ力呼ばわりしたんだから覚悟しろよ?


「違う! 誤解だ! ほかに何も案が浮かばなくて……」


「懺悔はスーちゃんのところでしろよっ!」


 ふんっ!



* * *


 そして10分後。

 さーて、仕切り直ししましょうかね。


「……スークル様、違……はっ! 俺はいったい何を?」


「はい、おかえりー。懺悔は済んだかしら?」


 すっかり体の穴が塞がったスレッドリーが立ち上がる。


「かわいそうなスレッドリー殿下……。おかえりなさい……。うっ」


 ナタヌが口元を押さえて後ろを向く。

 ごめんね、スレッドリーのせいでトラウマを植え付けちゃって……。


「というわけで、わかってもらえたと思うけれど、今の魔力球を応用して掘削を行います!」


「アリシアさんのこぶしから撃ち出した光の球で、スレッドリー殿下の体に大きな穴が……あれはスキルですか? うっ……」


 またさっきの凄惨な光景を思い出してしまったのかな?


「あれね、スキルじゃないんだ。魔力を練って撃ち出しているだけだから、練習して慣れれば誰でも使えると思うよ」


「剣しか使えない俺にもできるようになるか?」


「んーまあ、魔力量に応じた大きさの球なら?」


「どういうふうに魔力を練るのでしょうか⁉」


 ナタヌも興味津々だ。

 まあ、スレッドリーに比べれば、ナタヌのほうが魔力量的に使える可能性はあるよね。


「えっとね、まずは魔力を右手に集中させる。もちろん左手でもいいよ。手は開いていても閉じていても、自分のイメージしやすいようにー。魔力が大きな球になるイメージを強く持って。完全な球状になったら、横回転させる。どんどん速く。見えないくらい高速回転させてー、目標に向かって撃ち出す!」


 真下に向かってー、はい、ドーン!

 うむ。

 だいたい100mくらいは掘れたかな。


「ね? どんなものでも一瞬で穴が開くから便利だよー。魔力を限界まで練ればもっと深くいけるんじゃないかなって」


「すごい……」


「よし、俺も!」


「私もやります!」


 2人が右手に魔力を集中させていく。

 スレッドリーは魔力の扱いがなかなかうまくて、まあまあきれいな球状にはなっている……でも魔力球が親指の先くらいのサイズ……ちっちゃい。

 ナタヌ……それは何の形? アメーバ? 自分の頭よりも大きな魔力を練れるのはすごいけど……扱いが雑だね。


「んー、スレッドリーは込める魔力量が足りなすぎるね。ナタヌはもっと魔力の扱い方を勉強しないとダメかな……」


 2人とも、小玉スイカくらいの魔力球は0.1秒で作れるくらいにはがんばろう? わたしくらいになれば、0.1秒で100発分くらいの魔力球は作れるからね。『ラミスフィア』の街を焼き尽くすほど超巨大なのは……さすがに1分くらいはかかるかな。


「修行します……」


「魔力量を増やすにはどうしたら……」


「限界まで魔力を使って回復を繰り返すしかないよー。わたしはそうして増やしたよ」


 そもそもね、魔力の総量が違うのだよ。キミたちの魔力量を10とするなら、わたしは10000だ!

 まあ、わたしの場合は『創作』スキルでいくらでも魔力を消費しちゃうから、半強制的に増えたって感じだったけどね。


「じゃあ2人はがんばって修行してて。わたしは温泉掘ってるから」


「がんばります……」


「おう、頼んだ」


 というわけで、予定通り掘削を始めるわけだけどー。

 まさかこの魔力球でずっと掘削するわけにもいかないので、この技術を魔道具に活かしまして――『魔力式ロータリーボーリングマシーン』を創作!


 魔力を球にするんじゃなくて、魔力のドリルを高速回転させて地下を掘り進めるよ!

 これなら座ったまま、魔力を魔道具に注ぎ込むだけで掘削が進んでいくからね!


 さて、今まさにアイテム収納ボックスから取り出したように見せかけてーと。


「じゃあ、この魔道具で掘っていきまーす」


 魔道具の設置も置くだけでOKー。

 さっき魔力球で開けた穴にドリル部分を差し込むように設置すれば、はい、掘削スタート!

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