第64話 アリシア、温泉を掘りに行く

『ラミスフィア』に滞在して5日目の朝。


「今日は温泉を探しに行こうかな!」


 いよいよ、街の中で見るものもなくなってきたからね。そろそろ冒険に出かけようと思います!


「城の外にもいろいろ温泉施設はあるのよ。ぜひ楽しんできてくださいね」


 メルティお姉様が微笑みながら、お茶のカップに口をつける。


「違うんですよー。街の外に、新しい温泉を掘りに行こうかと思いまして!」


「アリシア⁉ また無茶なことを言い出さないでください!」


 ラダリィがテーブルに荒々しく手をついて立ち上がる。

 ラダリィさん、お茶の席でそのような振る舞いは、はしたないですわよ?


「新しい温泉を掘るんですか? とてもおもしろそう。私にも詳しく聞かせてくださいな」


 メルティお姉様は興味津々のご様子。

 まあ、とりあえずわたしの話を聞いてってば。


「温泉を掘るアリシアさん、素敵です♡」


「温泉は入るものではなくて、掘るものだったのか……」


「力には自信がございます。いよいよ私の出番ですね。聖騎士・ラッシュ、必ずやご期待に応えてみせます!」


 いやいやみんな、そんなに気合を入れなくても大丈夫だって。

 わたしに良い考えがあるんですよー。


「勝算はあるの。何も適当に力任せ運任せで穴を掘って回ろうって話じゃないんだよー」


 それではさっそく、わたしの「びっくりドッキリプラン」を説明しちゃいましょう!


「えっとですね。『ラミスフィア』にある温泉っていくつか種類があるじゃないですかー」


「ええ、そうね。大きく分けて3種類かしら」


「そう、3種類! このお城に引いているのが『美容の湯』。ちょっと西のほうが酸性の強い『健康の湯』。そして南のほうにちょっとだけあるのが、『魔力回復の湯』ですね?」


 成分が違うからどれも捨てがたい。

 でもね、3種類のお湯を『構造把握』してわかったことがあるんですよ。


「『魔力回復の湯』には、微弱な魔力反応があるってね!」


 あれ? ノーリアクション?

 世紀の大発見だよ⁉


「『魔力回復の湯』には、微弱な魔力反応があるってね!」


「アリシア、聞こえなかったわけではないです」


 あ、そうなの?

 聞こえてなかったのかと思って2回言っちゃったよ。


「アリシアさん、微弱な魔力反応があると何か良いことがあるんですか?」


 ナタヌが不思議そうに小首を傾げる。


「良いことあるよー。魔力反応があるってことは、魔力探知にひっかかるってこと!」


「魔力探知できると……良いことが……?」


 ナタヌがさらに首を傾げる。それ以上曲げると折れるよ!


「外を歩き回りながら、魔力探知して、地下に反応があったら……?」


「なるほど! そこに温泉があるってことですね!」


 そうだよー!

 ナタヌ賢い! かわいい! こっちおいでー♡


 わしゃわしゃ♪


「つまり街の外で魔力探知をしながら歩き回ろう、と。そういうことですか?」


「はい、ラダリィさんも大正解! こっちおいでー♡」


「私はけっこうです」


 ちぇっ、釣れないのー。


「地下に魔力反応があったら、温泉か魔物がいるということか!」


 と、スレッドリー。


「まあそうね。魔物の可能性もあるけど、まあ地下深かったら普通に温泉でしょ!……ん、何?」


「『こっちおいで』とは言わないのか?」


「いやなんで?」


「なんでもない……」


 なんなの?

 まさかスレッドリーの頭を撫でるわけないでしょ!

 なんでいちいちナタヌに対抗意識燃やすかなー。


「とてもおもしろそうなプランね。アリシア、楽しんでいらっしゃい。温泉掘りはとても楽しそうですし、私もついていきたいところですけれど、残念ながら今日は公務があるのよ……」


 メルティお姉様の眉間にしわが寄る。

 それに気づいてご自身で一生懸命眉間のしわを指で伸ばし始める。


「それは残念ですね。でも、わたしたち良い報告ができるようにがんばってきますね! 新しい温泉が湧いたら、ぜひ一緒に入りましょう!」


「ええ、楽しみにしているわね。ドリーちゃん、ラッシュ、しっかり力仕事するのですよ。……いえ、やはり今日は、ラッシュとラダリィは私の仕事を手伝ってちょうだい。温泉掘りはアリシア、ドリーちゃん、ナタヌの3人で行ってきなさいな」


 メルティお姉様が思案顔でそう呟く。


「3人でですか?……大丈夫かな」


 スレッドリーとナタヌのお守り役がいない……。


「私は監視役として……いいえ、わかりました。アリシア、しっかりとお願いしますね」


 ラダリィさん、今何かを言いかけたような?


「アリシア、がんばって温泉を掘り当ててください」


「え、あ、うん……」


 ちょっと不安。


「俺がアリシアのために温泉を掘る!」


「アリシアさん、私こそがアリシアさんの役に立つというところを見ていてください!」


 2人はやる気十分だ!

 頼もしい……でも不安……。


「俺の『剣聖』スキルで一気に温泉を掘り当てる!」


「いいえ、わたしが『セイクリッド・フォース』で温泉を掘り当てます」


 ちょっと、なんで2人は対抗意識を燃やすの⁉

 今日は3人なんだから仲良くしてよ……あ、でも2人だけで仲良くはしないで? わたしも仲間に入れてね?


「じゃあさっそく温泉探検隊出発するよー!」


 メルティお姉様、ラダリィ、そしてラッシュさんに見送られて、わたしたち3人は街の外に向けて出発した。



* * *


 まずは南のほうから攻めようかなー。

『魔力回復の湯』が湧いているところもあるし、近くに似たような水源があってもおかしくないと思う!


 魔力探知をしながら街を出ましょう。地上で微弱な魔力反応があるのは、その辺を歩いている人の魔力だからー。

 あー、温泉って地下何mくらいのところから湧くんだろうね。あんまりよくわかってないかなー。わたしの魔力探知だと地下20kmが限度かなー。


「この中だとー、ナタヌは魔力探知できる?」


「はい! 半径100mは魔力探知できます!」


 自信満々のナタヌ。

 100mって……。もしかして普通はそんなもんなのかな?


「じゃ、じゃあ2人でがんばろう?」


「はい! お役に立ててうれしいです!」


 だからナタヌ……。後ろのスレッドリーに向かってドヤ顔しないの。なんでずっとお互いにライバル視してるのよ。


「あ、あれ? もう魔力探知に引っ掛かった……」


 まだ城壁からそれこそ100mも離れていないですよ。ナタヌの魔力探知がギリギリ届いちゃいそうな距離なのに。


「しかもわりとデカい魔力だよ。地下10km付近」


 これは決まりかな?

 こんなにあっさり温泉みつけちゃっていいの⁉

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