第63話 アリシア、女神の加護について語る

「ブドウ農園体験楽しかったー!」 


 農園のおじさんに別れを告げ、わたしたち一行は歩き出した。

 いざ、ブドウの足踏み体験へ♪


「今さらアリシアが何をしても驚かないつもりでしたが……今回はさすがに驚きました……」


 ラダリィがぼそりと呟く。

 あれ、そんなに驚くことだった?


「アリシア様は底がしれない……」


「先ほどの魔法はどうやってのですか⁉ ぜひ私にも教えてください!」


 興奮した様子のナタヌが腕に絡みついてくる。

 我がコーディネートながら、このワンピース、ナタヌに似合い過ぎている! なんてかわいい美少女なのでしょう♡


「えー、魔法じゃないって。ブドウの木と話をしただけー」


「木と話ですか? そんな魔法が?」


 だから魔法じゃなくて―。


「なんかこう、知性がある生き物の声って、なんかぼんやりと聞こえるよね? こっちもガッと集中すれば、向こうもシャッと受け取ってくれるから、なんとなく会話している感じになるわけー」


「アリシアさん……」


 泣きそうな表情のナタヌ。

 急にどうしたのさ?


「私にはアリシアさんの言葉が高度過ぎて理解できません……。弟子失格かもしれないです……」


「ナタヌ様。今のは全部アリシアが悪いです。具体的な手法について、何の説明もしていませんから、ナタヌ様のせいではありません。もっとわかりやすく説明することを要求します」


 ラダリィが険しい表情で詰め寄ってくる。

 その横には興味深そうに話を聞いているラッシュさん。

 あとは関係ないけど、ブドウの木を覗き込んで……たぶんブドウの実を探しているスレッドリーがあっちのほうに。


「具体的な説明? うーん……」


『交渉』スキルの恩恵、とは言いづらいなあ。なんかアリの女王様と話をしてから、さらにレベルが上がったし、今なら動植物とだいたい話ができる気がする。もしかしたら気合を入れたら、無機物もいけるんじゃないかなって思っているところー。


「女神様とお話していたら自然と、かな? わたしにもよくわかんなーい」


 ということにしておこう。

 あまり深く探られるのは良くないかもしれないし。


「噂に聞く『女神の加護』というものでしょうか」


「たぶんそう……かも?」


「アリシアさ~ん。その『女神の加護』ってなんですかぁ?」


 ナタヌが背中から覆いかぶさるようにして体重を預けてくる。

 今日はずいぶんスキンシップが積極的ね。薄着だからすごく……すごいです♡


「『女神の加護』というのは……ですね……。離れて……」


 ラダリィがわたしからナタヌを引き剥がしにかかる。


「女神様に……ご寵愛を……受けることを言います! ソイヤッ!」


「キャッ!」


 ラダリィさん力強い……。

 ナタヌが吹き飛んでひっくり返……パンツ見えた!


「ひどいです……。そのご寵愛って具体的になんですか?」


「それは……私にはわかりかねます。アリシア、差し支えなければ教えていただいても?」


 ラダリィがこちらに水を向けてくる。


「んー、あんまりよくわかってないかなー。何かこれっていうものはなくて、女神様と離れていてもお話しできたり、ステータスボーナスがあったり、涙くれたり、力が3倍になったり、義妹になったり?」


「アリシアさんすごい……」


「あのバカ力はそういうことですか……」


「アリシア様は底が……」


 なんか感覚麻痺してきてたけど、4女神様の加護を同時に受けているから、チートスキルを置いておいたとしても、周りの人から見たら、わけわからないことになっているのかもね?


「女神様たちってー、わたしのことが好きすぎて取り合ってるみたいなの♡ 困っちゃうよねー♡」


「それはダメだ……。ダメだ!」


 ブドウ探しをしていたスレッドリーが急に真顔でこちらに向かって走ってくる。


「俺はたとえ女神を敵に回してもアリシアを譲るつもりはない!」


「いや、そういうことではなくて……」


 うわー、めんどくさいタイミングでめんどくさいスレッドリーが出てきた!

 なんでこう、急にシリアスな雰囲気を出してくるの? 今そういう流れじゃなかったでしょ? ただの軽い冗談なのに。


「わ、私も負けません! 必要とあらば、この手で女神様を……」


「ナタヌまで何を言っているのよ。女神様は女神様。わたしの義理の家族よ? 敬い奉り崇拝しなさい!」


「ご、ごめんなさい! ミィシェリア様、マーナヒリン様、リンレー様、スークル様。このナタヌ、女神様方のことをアリシアさんだと思い、誠心誠意祈りをささげたいと存じます!」


 極端だなあ。


「……スレッドリーは?」


「俺は……スークル様の信徒だし、祈りは捧げているが?」


「ミィちゃんにもお世話になってるんでしょ?」


「あ、ああ……」


「ほかの女神様にも感謝のお祈りをしてね?」


「……わかった」


 素直で良い子♡


「ではまとまったところで――」


 ブドウジュース作りに行こう!


「お城に帰りましょうか」


 ラダリィが歩き出す。


「え、ブドウの足踏み体験は⁉ フレッシュなブドウジュースは⁉」


 まだメインのお楽しみが!


「先ほど従業員の方にお聞きしたのですが、やはり今はブドウの収穫時期ではないとのことでした。工場に行ってもワイン樽を眺めるくらいしかできないのではないかと。もうお昼の時間もとっくに過ぎていますし、街のほうに戻って食事にしませんか?」


 えー。

 足踏み体験できないの……。


 ねぇ、ブドウの木さんたち!

 わたし、足踏み体験したいんですけど! ブドウの実、なんとかなりませんか⁉


 え、それはさすがに無理?

 ちょっとくらい時季外れで収穫できるブドウがあったりしない……?


 しょんぼり……。

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