第60話 アリシア、証拠隠滅をする

 日乃本酒での酒盛りが行われた翌朝。

 2日酔いでまったくベッドから起き上がってこないラダリィとナタヌに、解毒ポーションを飲ませる。睡眠効果のないやつね。


 ものの数秒。

 しゃっきりとした顔で起き上がってきたラダリィから――。


「昨晩は大変失礼いたしました」


 ごていねいな謝罪の言葉をいただきまして。


「ぜんぜん? みんな楽しく飲んでたからいいんじゃない?」


「ですが……2杯目辺りから記憶があいまいで……」


 ラダリィはかなり序盤から記憶がないのね。

 ……それはラッキー♪


「わ、私も記憶が!」


 こちらもお酒は抜けたけれど、顔が真っ赤なナタヌが調子を合わせてくる。

 ナタヌさんは……記憶がはっきり残っているタイプですよね。部屋に戻ってから解毒ポーションを渡したら、「まだ飲みません」ってハキハキ答えてましたし? あ、昨日の夜のことは絶対秘密ですよ!

 アイコンタクトで頷きあう。


「アリシアは……お酒を飲まないんでしたね。介抱をしていただいたのでしょうか。ご迷惑をおかけしました」


「いやいや。たいしたことはなにも……してないよ?」


 酔っぱらって妙に距離感が近くて、キス魔になったラダリィさんに便乗して、ちょっとエッチないたずらなんてしてないよ? ね、ナタヌ?


「着替えまで手伝っていただいたようで……」


「ううん? 寝間着を手渡したら自分で着替えていましたよ?」


 メイド服のほうはクリーニングをかけておきました!

 ストリップショーで盛り上がったりとか、脱いだ服や下着をくんかくんかなんてしてないよ? ね、ナタヌ?


「監視役を買って出ておきながら、大切な初日の晩に酔いつぶれてしまうとは何たる失態……」


 めちゃくちゃ反省していらっしゃる……。

 まあね、たしかにエロネタを積極的に提供するのは反省したほうがいいです! ラダリィのせいでけっこう盛り上がっちゃったからね! 最後ナタヌが寝ちゃわなかったら、けっこう危なかったかもしれませんよ⁉ なんてね?


 と、ラダリィがわたしの顔をじっと見つめてくる。

 まさか告白⁉


「アリシアの体は……無事のようですね。安心しました」


 小さく頷いてから視線を外して胸をなでおろした。

 えっ、なんでちょっと見ただけでわかるの⁉

 やっぱりラダリィって『構造把握』が使えたりする⁉


「ナタヌ様……も、ご無事ですね」


 だからなんでわかるの⁉

 ねぇ、何のスキルを使ったの⁉


「もし、お2人に何かあったとしたら、殿下にもスークル様にも顔向けできませんから……」


 だから何もないってー。

 ムラムラしたらラダリィが何とかしてくれるって言ってたしー♡


「その時にはこっそりおっしゃってください」


 ちょっと!

 今わたしの心の声に答えなかった⁉

 ねぇ、だから何のスキルを使ったの⁉


「それでは贅沢に朝風呂にでも参りましょうか」


「いいねいいね♡」


「ぜひ! あ、でもその……」


 ナタヌが突然、挙動不審に。

 ラダリィのほうにチラチラと視線を送りながら、わたしに向かって口パクで何かを訴えかけてくる。


 ははーん。

 アレを気にしてるのね?

 大丈夫だってー。そんなこと、このアリシア様が対策してないとでも思うの? 調子に乗って2人でつけたキスマークは全部消しましたって。ちゃーんと治癒ポーションをかけたから平気ですよー。


「ナタヌ様、どうかされましたか? もしや、昨日のお酒で体調がすぐれないのですか?」


「い、いいえ! 私の気のせいだったみたいです! すぐに温泉に行きましょう!」


 堂々としてなさいって♡

 悪いことなんて何にもしてないんだからねっ♡



* * *


 そろそろ朝食の時間。

 ということで、お風呂上がりのわたしたちは、浴衣のまま食堂へ。

 メルティお姉様がどんよりとした顔で座席に座っていらっしゃった。


「おはようございます。お姉様、顔色が……2日酔い、ですかね?」


「ええ、少し飲みすぎてしまったみたい……」


 ラダリィとナタヌに比べれば大したことはなさそうだけど、まあ、メルティお姉様にも解毒ポーションを飲んでもらいましょう。一瞬で楽になるし。さすがにもうお酒の余韻は抜けても良いですよね?


「ありがとう……。とても楽になりました。これもアリシアの発明品なのかしら?」


「え、ええ。まあそうですね。何本かお渡ししましょうか?」


 その代わり、内密にお願いしますね?

 各種ポーションのことは絶対に触れ回らないでくださいね?



* * *


「うーん、今日は何をしようかなー」


 朝食をいただきながらぼんやりと独り言を呟いてしまった。

 見たいものはいっぱいあるけど、時間は限られているし、どうしたものかなー。


「せっかくだからワイン農家を見ていらっしゃいな。今はブドウの収穫期からは少し外れていますが、農園を見るだけでも楽しめると思いますよ」


 メルティお姉様からの提案。

 とても魅力的ですね!

 時季外れだとブドウ狩りはできないのかなー? 少しくらいは予備があったりする?


「俺も見てみたい! ブドウジュースを自分で作れるかもな!」


「それいいね! ブドウの足踏みやってみたい!」


 じゃあ行き先は決まりかな。

 ほかのみんなは……異論なさそう!


「よーし、朝食の後はブドウ畑を見に行くぞー!」


 いえーい!

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