第58話 アリシア、食事会に参加する

「天国が……あったわ……」


 天国に一番近い街『ラミスフィア』。


 よし、キャッチコピーはこれで行きましょう!


「アリシア。あれはさすがに……。はしゃぎすぎだと思います」


 ラダリィの冷たい視線が突き刺さる……。


「え、ごめんね? ついテンションが上がっちゃって!」


 みんなで健全な温泉楽しいなー♡


「私やナタヌ様のをどうこうするのはまだギリギリ許されるとしても、お嬢様の胸を揉みしだくのはさすがに自重してください……」


「はい……つい……。でも、メルティお姉様が『あら、私のはどうかしら?』っておっしゃったから!」


 わたしだっていきなりメルティお姉様のお胸を揉んだりするほど非常識じゃないですって! ラダリィだって見ていたでしょ! メルティお姉様が誘ってきたんですよ⁉ 合法!


「そうでした……。ですが、本をただせば、あれはナタヌ様が悪いです……」

 

「そうだそうだー! ナタヌがけしかけてきたのが悪いんだー!」


「わ、私ですか⁉」


 それまでニコニコ話を聞いているだけだったナタヌが、突然話を振られてビクンと反応する。


 矛先が良い感じにナタヌのほうへ行ったね。

 いいぞ、もっとやれ!


「ええそうです。ナタヌ様が『みんなで背中の流しあいをしましょう』などとおっしゃるから……」


「それは……私とアリシアさんで体の洗いっこをしていたら、ラダリィさんとメルティさんがうらやましそうに見つめていたので……」


「じゃあラダリィが悪いってことで!」


 よーし、これで丸く収まったね。


「私はそんな目では見ていませんでした。健全な洗いあいを見て、微笑ましく思っていただけです」


 まあ、実際そんな感じだったよね。

 むしろうらやましそうにしていたのはメルティお姉様のほう。


「でもああいうのも楽しくていいよね。おっきなお風呂にみんなで入ることなんてそうそうないし。王宮だとそんな感じにもならないもんね」


 王宮にずっといたら、ラダリィとお風呂に入る機会は来なかったと思う!


「たしかに楽しくはありました。しかし、羽目は外しすぎないように気をつけてください」


「はーい。ナタヌが暴走しないように監視しておきまーす」


「わ、私ですか⁉」


 ナタヌは暴走キャラだからね。

 しっかり見張ってないと危ない!


「暴走が怖いのはアリシアもです……」


 ラダリィがやれやれといった具合にため息をつく。

 まったくー。わたしの暴走なんてかわいいものですよ? ちゃんと後先考えて行動していますからね? ナタヌみたいに急に世界を滅ぼそうとしたりはしませんよ?


「さあ、お2人とも! 身だしなみを整えたらお食事の席へまいりましょう。お待たせしてはいけませんよ」


「おー! そうだった! ごはんごはん♪」


 人が作ってくれるご飯を食べるのはいいものだよー。

 どんなお食事が出てくるのかな♪



* * *


「おおー! ブドウジュースおいしいです!」


 さっすが特産品のブドウを使ったフレッシュジュース!


「なあ、ブドウジュースおいしいだろう? 俺が言ったとおりだ。ワインなんてかび臭いものは不要なんだよ」


 スレッドリーがうれしそうにグラスの中身を飲み干す。


「それは同意してしまうかも。わざわざ発酵させなくてもこんなにおいしい!」


 摘んできたばかりのブドウを絞っただけのシンプルなジュース。だがそれがいい! むしろそれがいい!


「アリシアさんはワインは飲まれないんですか? この香り、とても……うちのお店でも取り扱いたいくらいです」


 ナタヌがグラスに鼻を近づけて、ワインの香りを堪能してうっとりしている。ラッシュさんとラダリィも同じように香りを楽しんでいるみたい。


「んー、なんとなくまだお酒は早いかなーって。お店で出すお酒は一応テイスティングしているけど、正直そんなにおいしさがわからないし?」


「お酒が飲めないのに、あんなにたくさんの種類の日乃本酒を開発されているんですね……。正直驚きです」


 まあ、あれは前世の知識っていうか、日本酒の酒造はわりと細かくルール化されているから、それに則るだけでもたくさんの味が造り出せるのですよー。


「えっとねー。なんか逆に飲めないほうが良いお酒を造れるって、なんかの文献で読んだよ!」


 下戸のほうが自分の好みとか関係なく味をチェックできるからなのかな? よくわからないけど!


「アリシアはお酒を造っているのね。どんなお酒なのかしら?」


 メルティお姉様がお酒の話題に食いついてくる。

 食事が開始して10分くらいしか経っていないのに、もうワインの樽が……。かなりのお酒好きと見た!


「ちょっと縁あって、酒造を知る機会がありまして、お米のお酒を造ってお店で出しているんですよー」


「お米というのは……?」


「北部地域で細々と生産されているものなので、あまりご存じないですよね。でもほら、この間のパーティーの時にお出しした『ウナ重』のあれがお米を炊いたものですよ」


 あれはインチキして『創作』しまくったご飯なので、まああんまり追及はされたくないけど!


「『ウナ重』はとてもおいしかったわ。そう、あの白いものがお米なのね」


「アリシア。私もあの『ウナ重』は初めて食べましたが、これまで食べたものの中で3本の指には入るおいしさでした。機会があればまた食べたいです」


 メルティお姉様もラダリィも絶賛。

 2人ともウナギの魅力に魅入られてしまいましたね……。


「そんなにおいしかったのですか? アリシアさん、私も『ウナ重』食べてみたいです……」


 唇に指をあてて、上目遣い――ナタヌ、渾身のおねだり!

 あざとかわいい!


 ナタヌは食に対してはかなり貪欲だよね。まあ、でもそれはそうか。あんなにつらい幼少期を過ごして、満足に食べ物もなくて、初めておいしいって思ったのがわたしの出した料理だっていうんだから……うぅ、わたしがいっぱい食べさせてあげるからね! 大丈夫だからね!


「よーし、じゃあウナギを仕入れたら作ってあげよう! ナタヌの出身地『ダーマス』ならウナギが手に入ると思うから楽しみにしていてね」


「アリシアさん♡」


 熱っぽい視線。

 食事の席じゃなかったら抱きついてきそうな……。あとでこっそり抱きついてきてもいいのよ♡


「ところでお米のお酒の話をもう少し聞かせてもらえませんか?」


 ああ、そうだったね。

 ウナギの話題で脱線しちゃった。

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