第57話 アリシア、ナタヌを紹介する
なんとかね、部屋を壊滅させたことが明るみに出ることなく事なきを得たわけで……。
愛想笑いを浮かべながら足湯カフェを脱出したわたしたちは、急いでお城に戻ってメルティお姉様を訪ねていた。
「メルティお姉様! 実はさっき旅の仲間が増えまして、ご挨拶しようかと!」
「お初にお目にかかります。ナタヌと申します」
ナタヌがローブの端っこを広げて、小さく挨拶。礼儀正しくてえらいよー。
「まあまあ! とってもかわいらしいお仲間ね」
メルティお姉様がポンと両手を打ち鳴らす。目がとってもやさしい。歓迎してくれているみたい。
「えーと、ナタヌは縁あって『ガーランド』にある『龍神の館』というお店で働いてもらっているんですけど、わたしの……友だち? でいいのかな?」
わたしとナタヌの関係性ってどういうふうに言い表すと良いんだろうね。実はまだお互いのことをほとんど知らない。いや、まあ、わたしのほうは十分すぎるくらいナタヌの事情を把握しているんだけど……。そういうのではなくて、人となりとか、この5年間どう過ごしてきたかとか、そういう情報はまだ少ないんだよね。
「いいえ、恋人です!」
「ナタヌ⁉」
潔いくらいはっきりと言い切りましたね。それはこの先そういう関係になるのもやぶさかではないのですけど……むしろ大歓迎なんですけど! でもこの方はスレッドリーのお姉様ですからね? 場の空気を読んで⁉
「それはそれは……。アリシアの恋人がはるばる『ガーランド』からやってこられたのね。歓迎しなくてはいけませんね」
え、っと……怒ってらっしゃらないのですか? メルティお姉様はわたしとスレッドリーをくっつけたいんじゃなくて?
「失礼ながら申し上げます」
わたしが言葉に詰まっていると、ラダリィが進み出た。
「ナタヌ様は女神・ミィシェリア様が遣わされた方です。現時点ではアリシアと恋人関係にはありません。つまり殿下のライバルであり、また共闘関係にもあるという微妙な立ち位置です。この旅の間、お2人にはアリシアとの関係性を深めていってもらうことになっております」
「まあまあ! それはとても楽しそうね♪」
メルティお姉様……ホントにそう思ってますー? もしわたしがスレッドリーを選ばなかったら怒るんじゃないですか?
「この旅の間は私が責任をもって殿下とナタヌ様を監視し、良きライバルとして、健全に、そしてフェアに過ごせるように努めてまいります」
ラダリィさん肩に力が入ってらっしゃいますね。だいたいでいいのよ? たまにエッチなイベントが発生するのは歓迎しますよ? あ、ダメですか? そんなににらまないでくださいよ……。
「まあまあ♡ それならお部屋は3人で過ごせるようにしたほうがいいですわね♡」
え、ええ……。
ラダリィと2人きりかなと思っていたんですけど、3人にしますか? でも今お借りしている部屋にはベッドが2つしかないような。
「ぜひそうしましょう」
「私もこちらのお城に滞在させていただけるのですか? ありがとうございます!」
ナタヌはまったく予想していなかったようで、素直に驚きの声を上げた。
じゃあどうするつもりだったの? ああそう、近くの宿屋に寝泊まりをしようとしていたの? 余計にお金かかっちゃうし、せっかくだからメルティお姉様のお言葉に甘えましょう!
「アリシア」
メルティお姉様がニコニコしながらわたしの手を取る。
「な、なんでしょうか⁉」
「ずっと一緒にいて嫌ではないかを確かめるには時間がかかるのよ。ナタヌのことも、ドリーちゃんのこともよ~く見てあげてくださいね」
「はい。わたし、ちゃんと2人のことを考えます!」
その言葉を聞いてはっきりとわかった。
メルティお姉様は最初からわたしとスレッドリーを無理にくっつけるつもりなんてなかったんだ。ちゃんと見て、ちゃんと考えて、それで決めてほしい、と。わたしのこともスレッドリーのことも、そして新しく来たナタヌのこともちゃんと受け止めてくれている。
どこまでも懐が深い方なのね……。
「なぜ3人なんだ。俺だけのけ者か……」
と、スレッドリーが不貞腐れた態度で吐き捨てた。
「殿下。アリシアの部屋は男子禁制です。汚らわしい。アリシアの50m以内に近寄らないでくださいますか?」
ここぞとばかりにラダリィが責め立てていく。
まあ、でもいくらフェアにって言っても、男女が同じ部屋で寝泊まりするわけには、ね。
「困ったわ……。ドリーちゃんには改めて性教育を施したほうが良いかしらね……」
メルティお姉様は深く深くため息をついた。
お姉様って大変なんですね……。
でも性教育って……まさか夜伽の人を⁉
「殿下のことは私が責任をもって……」
ラッシュさんが膝をつく。
「そうね。世話係のあなたに任せます。同部屋で過ごし、少しでも常識というものを叩き込んでちょうだい」
ラッシュさんも大変だ……。もう5年以上もずっとこんなことをやってきたんですね。わたしだったらとっくの昔にキレて殴って世話係を解任されてそうなのに。
「さあ、もう時間も遅いわ。じきにお夕飯の時間になってしまうから、早めに温泉に入りましょう」
メルティお姉様! それはみんなで入る、ということですね⁉
「アリシア……。健全に……。顔がいやらしいですよ」
え、顔に出ちゃってた⁉
やだ恥ずかしい♡
「温泉ですか?」
話についていけないナタヌが1人キョトンとした顔をしていた。
「ナタヌはこの街に来たばっかりだったよね。まあ、わたしもだけど! えーと、ここ『ラミスフィア』は温泉がたくさん湧き出ていることで有名な街なの! それでね、このお城にはとっても大きな温泉施設があってー、昼間も入らせてもらったんだけど、すっごい広いよ! 外に出かけてきて汗もかいたし、食事前にみんなで温泉に入ろうってお誘いを受けたってことー」
「私、温泉というものは初めてです……」
「わたしも今日が初めてー♡ 大きなお風呂でね、お湯がただのお湯じゃなくて、お肌つるつるになったりする効果が付与されてるんだー」
美人の湯でさらに美人になっちゃいましょ♡
「それはとても楽しみです!」
うんうん、ナタヌの体はわたしが洗ってあげるね♡
「みんなで健全な温泉楽しみだなー♡」
心の写真に撮っておいて、楽園の様子をフィギュアにしようかな♡
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます