第56話 アリシア、本気で叱られる

 うーん、まだまだMPが回復しきっていないかな。

 こんな時はー、追いMP回復ポーションをグビグビ……シャキーン!


 ファイトーいっぱあぁぁぁつ! アリシアさん復活ですよ!

 これでMP満タン!

 また何でも創れちゃうよ♪


 って、なんで誰も反応してくれないの?


「ちゃんと部屋の修理はできたと思うんだけどー?」


 おーい、おーい。

 ラダリィ? ナタヌ? ラッシュさん?

 あとはそっと壁を撫でているスレッドリー?


 なんでみんな黙ってるんですか?

 変なところがあるなら教えてよー。


「ねぇねぇ? なんで誰も何も答えてくれないの? もしかして時が止まってたりする? 今ならラダリィのおっぱい揉み放題?」


 そっと後ろから鷲掴みに……しようとしたら思いっきりを手を叩き落とされた!

 やっぱりちゃんと動けるじゃーん!


「驚きすぎて……現実として受け入れられていません……」


 ラダリィがぼそりとつぶやく。

 現実じゃないなら夢? 夢なら揉んでも平気?


 痛い。

 そんなに力いっぱい叩かなくても……。


 じゃあナタヌのにしとこー。


「あん♡」


 こっちはまったく抵抗しない……。

 

 ふむ。

 モミ……モミ……。


 なかなか良い……。

 触れているだけで沈み込んでいく……。恐ろしいほどの柔らかさ……。 


 ふむ。

 モミモミ? モミモミモミモミモミ?


「アリシアさん♡」


「はいはい、アリシアさんですよー」


「それくらいにぃ♡」


 ふむふむ。

 お? なんだか先のほうが急に硬く……?


「アリシア……いい加減にしてください」


 痛い。痛い。

 ラダリィに両手を2回も叩かれました……。


「スークル様に言いつけますよ?」


「へーい。反省してまーす」


 また今度ね♡

 ナタヌにアイコンタクトでそう伝えておく。


「想像以上です……。アリシア様に底などあるのでしょうか……。こんなにも完璧に部屋を再現してしまわれるんですね……」


 ラッシュさんがわたしと部屋を交互に眺めている。

 真面目か……。

 場を和ませようとしてみたんですけど、ラッシュさん的にはちょっとしたラブコメはダメでしたか……。


「はい、私も驚きました……。おそらく再現度はとても高そうです。ですが、殿下。部屋の中にいらっしゃったのは殿下だけなのですから、内装の確認をお願いします」


 ラダリィが、さっきから壁を見つめているスレッドリーに水を向ける。

 ホントだよ、ドリーちゃんさー、あなたが確認してくれないと、ほかに誰も正解がわかる人がいないのよねー。

 と、全員の視線がスレッドリーのほうに集まる。


「俺か? そうだな……。食べかけの食事が冷めてしまったな……」


 スレッドリーの発言に、全員がずっこける。

 気にするところはそこじゃないでしょ!


「いやほら、もっとほかに……。ずっと壁を気にしてたけど、どこかおかしかったりした?」


 あとはヤシの木の下にきれいなガラス玉がいっぱいあったと思うけど、こんな感じで良かったかなーとかを細かめに見てほしいんですけどー。


「アリシアが作った壁なんだなと思ったら触ってみたくなっただけだ」


「そ、そうですかー」


 ダメだ……。

 コイツ、やっぱり何の役にも立たない!


「殿下……。本当に仕方のない人ですね……」


 ラダリィさんの今までで1番冷たい視線を見た……。そんな気がするよ。でも今回は全部スレッドリーが悪い!


「じゃあまあ、たぶんこんな感じの内装だったと思うってことで……」


 これ以上確認のしようもないし。


「アリシアさん……。なんて言っていいのか……」


 ナタヌの消え入るような声。

 ずっとモジモジしている。


「なーに? もっかい揉む?」


 ラダリィさんの視線が怖い。冗談ですって……。


「アリシアさんの横に立てるようにがんばってきたつもりなのに、今回も助けてもらっちゃいました……。私、パートナー失格ですね……」


「まあ、カッとなる性格は直したほうが良いかも? わりと頭に血が上りやすいわたしが言うなって話だけどー。でも向き不向きがあるからそれで良いんだと思うよ。ナタヌにはナタヌの良さがある。わたしにはわたしの良さがある。それでいいじゃない」


 わたしには人を癒すプリーストのスキルは使えないけど、壁を直す『創作』スキルがあるってだけだもん。同じことができる人が2人並んでいてもあんまり楽しくないし、やれることが違ったほうが一緒にいて楽しいじゃない? 少なくともわたしはそう思う!


「私の良さ……ですか……」


 おい。今、自分の胸とわたしの胸を比べなかった⁉ そういうのは冗談でも許しませんよ!

 ナタヌさんや、体にわからせてやらないといけないのかな⁉

 本格的にかわいがってやろうか!


「アリシア、そこまでにしないと私も本気で怒りますよ」


 仁王立ちのラダリィさん、マジギレ寸前といったご様子……。魔力の急上昇を確認……。オーラが見え……ヤバい、本気の本気で怒っていらっしゃる……。


「ごめんなさい、もうしません」


 この旅の間はイチャイチャしたりしません。絶対約束しますから怒らないで……。


「なあ、料理がもったいないから食おうぜ」


 スレッドリーの空気の読めない発言。それによって辺りの緊張が一気に解けるのを感じる。


「もういいです。殿下ののん気さに免じて不問とします。それでは私たちは一旦引き上げますので、認識疎外の解放など後始末をお願いします」


 そう言ってラダリィが、ラッシュさんとナタヌを連れて部屋を後にする。


「はーい。じゃああとでまたー。ちょっと冷めた料理でも食べたら外で合流しましょ」


 うん。この料理、冷めてもおいしい♡

 最後だけはスレッドリーの空気読めなさ加減に助けられちゃったね。

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