第55話 アリシア、秘密を打ち明ける

 というわけで、ラダリィvsナタヌの勝負は、1勝2分ということでラダリィ勝利に終わった。

 ラダリィが勝ったことで、その次に控えていたはずのスレッドリーvsナタヌの勝負(物理)はうやむやに。


 だけど、なんとなく旅の仲間が増えて良かったね……とはならずに、ナタヌが暴れて壊したお店をどうするか問題が残ったのでした……。



「すみません……私、つい頭に血が上ってしまって……」


 冷静になったナタヌが、事の重大さに気づき、頭を下げ続ける。


「初めて会った時もそうだったよねー。ナタヌってさ、ホントにプリーストなの? まさか攻撃魔法ばっかり強化してないでしょうね?」


「そ、そんなことは……ない……ですよ?」


 言葉を濁すナタヌ。

 いいでしょう。『構造把握』でこっそり見てあげますよ。


『ハイヒールLv8』『キュアLv7』『セイクリッド・フォースLv10』『ホーリー・ノヴァLv3』『ヒート・プロテクティブサークルLv3』『物理障壁Lv2』『魔法障壁Lv2』『ターンアンデッドLv3』。


 はい、ダウトー。

 ナタヌさん、『セイクリッド・フォースLv10』って! 絶対日常使いしてるでしょ! 日課のように使っていなければ、たった5年でレア度Bのスキルレベルがそんなに上がるわけないじゃない。いったい普段は何を吹き飛ばしてるんだか……。


 しっかしエルフの血を引いているとはいっても、スキルの数がすごすぎるね。レベルの上がり幅もさー。あのアークマンでさえスキル6個なのに、8個って……。もはや伝説級を通り越して、神話級のプリーストになっちゃうのでは?


「ナタヌさー。冒険ってどれくらい行ってる?」


 かなりの実戦経験を積んでいると見た!


「そうですね。毎週お店のシフトのお休みには、近場で謎の巨乳型の魔物狩りをしています」


 OH……巨乳型の魔物! まだいたんだ⁉

 なんかマーちゃんがわたしのために創ってくれたっていう……。まさか巨乳型の魔物ばっかり倒してるから、ナタヌのお胸もそんなにふうに立派な隠れ巨乳に⁉


「えーと、アークマンに師事しているんだっけ? 一緒に狩りに行ってるの?」


「最初の頃はついてきていただいていましたが、今はもっぱらソロが多いです。アークマンさんもお忙しそうですし」


 プリーストがソロ狩りってどういう状況……?

 そんなことばっかりしているから、『セイクリッド・フォースLv10』とかになっているのでは⁉


「私のストレス解消に、アークマンさんを駆り出すわけにもいきませんから」


 はっきり「ストレス解消」って言っちゃったよ……。

 ナタヌのストレス解消に『セイクリッド・フォース』をぶっ放される魔物たちがかわいそうになってくるんですけど……。

 マーちゃんに体を改造され、ナタヌのストレス解消に狩られる。

 まあでも、巨乳が敵意剥き出しで襲ってきたら……狩るのが普通かな。


「楽しそうにお話されているところ恐縮ですが、今はこの場をどうするかを考えたほうがよろしいのではないでしょうか」


「そうだったー! ナイス、ラダリィ!」


 和やかに近況を聞いている場合じゃなかった!

 お店の人にどうやって謝ろう……。今はこの事故現場に近寄らないように認識疎外の呪符を置いてあるけど、このまま逃げるわけにもいかないし……。


 1.素直に謝る。

 2.こっそり直す。

 3.認識疎外を発動させたまま逃げる。

 4.街ごと更地にしてなかったことにする。


 3は人としてどうかと思うので却下。

 となると、1か2かなあ。

 4が手っ取り早いけど、さすがにメルティお姉様にも迷惑かかるよね……。

 うーん。まあ、1番美しく解決できるのは2かな……。


 でもそのためにはやらないといけないことが1つだけある、か。わたしとしては、覚悟を決めないと、ってところかな。


「うーんとね……わたしね、ここにいるみんなのことが好き」


 2を実行するには、みんなに言わないといけないことがある。


「アリシア、どうしましたか?」


 ラダリィが訝しむようにこちらを窺ってくる。


「手短に話すから聞いて。みんなのことが好きだから、わたしの秘密を話そうと思うの」


 この場を丸く収めるには、何事もなかったかのように壁や備品を修復する必要があるわけで。


「真面目な話、のようですね」


「うん、真面目な話かな。ラダリィだけじゃなくて、スレッドリーもナタヌもラッシュさんもちゃんと聞いてほしい」


 わたしの呼びかけに、3人が静かに頷く。


「これから言うことはここだけの話にしてほしいの。みんなのことが好きで信用しているからわたしの秘密を話します」


 お願いね。

 みんなの顔色を窺っていく。

 うん……スレッドリー以外は信用できそう! ドリーちゃんさ……エロいことを期待しているみたいだけど、そういう空気じゃないからね? 真面目な話って言ったでしょ!


「わたしさ、実はちょっと特殊なスキルを持っているんだよね……。そのスキルを使えば、この破壊の限りを尽くされた世界の終わりみたいな部屋を元通りにできるんだ」


「破壊の限り……すみませんすみませんすみません」


 ナタヌの首が無限ペコペコ謝罪人形へと変形してしまった……。

 そんなナタヌをよそに、ラダリィが呟く。


「部屋を元通りに、ですか? そんなスキルは聞いたことがありません……」


 まあ、そうだよね。

 わたしも聞いたことがなかったし、たぶんギルドや王宮にもそんな文献はないと思う。


「まあ深くは聞かないで。わたしもどんなことができるスキルなのかは手探りでやってるから」


「以前より底がしれないと思ってはいましたが、アリシア様は本当に底がしれませんね……」 


 ふふ♡

 ラッシュさんの「底がしれない」が聞けただけでわたしは満足です♡


「わたしの蛮行をアリシアさんがフォローしてくれる……。わたしのアリシアさんが!」


 何に興奮していらっしゃるのやら……フォローするのは今回だけ特別だからね?

 次は「こいつが犯人です」って突き出すかもよ?


「ずっと認識疎外をかけていると、あとでおかしな影響が出ても嫌だから、サクサクッと直しちゃうね。ここでスキル行使を見ていても良いけど、くれぐれも絶対に口外しないで」


 みんなの反応は待たずに、『構造把握』に入る。

 元の部屋の状況を再現する設計図を頭の中に……。あそこにヤシの木があって、こっちに良い感じの床材があって……。


 こんな感じだったかな。


 よし、『創作』スキル!


 散らばった素材をできるだけ繋ぎ合わせて壁を再生成。吹き飛んでしまったものは素材ごと『創作』して補う。


 生きている木を創るのはちょっとだけMP消費が激しいんだけど……まあがんばる! あとは温泉関係の設備が壊れていないか……大丈夫そう!


「よし、修復完了!」


 どう、かな? 元通りになった?

 MP回復ポーションを一気に飲み干す。


 あれー? ちょっと? みんなー? 何か反応してくれないと……。


 おーい、おーい?


 もしかして、わたし、時を止めるスキルとか使えるようになった⁉

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