第53話 アリシア、結果を発表する

「それでは最後の勝負、3回戦です」


 もう最後かー。

 褒められ続ける時間って、自己肯定感が高まっていいね! だんだん恥ずかしさが消えてきたので、あと100回戦くらいお願いします♪


「1回戦、2回戦と引き分けでしたから、この3回戦目は引き分けなしということで完全決着をお願いしますね」


「は、はい!」


 先に念を押されてしまった。

 しあわせな時間に延長はなし。ちぇっ、わかりましたよー。


「それでは私からですね」


 ラダリィが深呼吸をしてから、わたしの目をまっすぐ見てくる。


 よし、こい!


「私が思うアリシアの素敵なところ、その3つ目は……かわいいところです」


「ちょー、ラダリィ! それ抽象的だからダメって言ってなかった⁉」


 見た目を褒めるのは当たり前だからダメとも言っていたよね⁉ めちゃくちゃスレッドリーにダメ出ししてたじゃない?


「まあまあ、私の話を最後まで聞いてください」


 ラダリィからすれば、わたしの反応は予想通りだったらしい。微笑みを絶やすことなく、マテのポーズだ。


 そう? じゃあおとなしく聞きましょうか。


「わたしがアリシアのことをかわいいと思うポイントは、とにかく隙だらけでチョロいところです」


 いやそれ悪口!


「殿下と手を繋ぐだけで顔が真っ赤になりますし、『好き』の一言で相手のことを意識しまくってしまいます。こんなにかわいくてチョロい女性が、今まで誰の毒牙にもかかっていなかったというのは奇跡と言えるのではないでしょうか」


 いや……やっぱり褒めてないよね?

 どうせわたしは世間ずれしている精神年齢10歳のおこちゃまですよ……。わたしだってさー、これでも大人な女性を演出しようとがんばっているんだよ? でも、好きって言われたら意識するし、男の子と手を繋ぐのなんて心臓バクバクになっちゃうのは仕方なくない? 慣れてないんだもん。そう簡単には無理だよー。


「アリシアさん、好きです♡」


 ナタヌかわいい……好き♡


「アリシア、好きだ!」


 ドリーちゃん……。うーん、友だちとしては、まあ好きよ。


「アリシア、愛しています」


 ラダリィさん、真顔でそれはやめて。さすがにその手には引っ掛かりませんよ?


「と、このように、アリシアは誰から愛の告白をされても、すぐに断ったり無視したりすることはできないのです」


「うーん、でも好きって言われてるのに無視はさすがにひどくない?」


 ラダリィが冗談で言ってきているとしてもさ。


「私は街で男性に声をかけられても、99%無視します」


 ラダリィさんモテすぎる問題。

 やっぱりそのメイド服は巨乳が強調されるから……。わたしだっていろいろ詰めれば、街で声かけられまくりになるんだからねっ!


「アリシアは、迷子になっている子どもから、荷物が重くて小休止しているご年配の方まで、絶対に無視せずにかかわろうとしますよね」


「え、まあ……。素通りは気持ち悪いっていうか、あとであの時声をかけていればなーって思いたくないっていうか」


「さきほどは迷いアリを助けて、女王アリからお礼をされていたとお聞きしました」


 いや、それ誰から聞いたの⁉

 誰にも見られていないと思ったんだけど⁉


「俺もさっきアリを助けたぞ。蝉の羽根を運んでいて大変そうだったから、巣の近くまで移動させてやったんだ。同じだな」


 得意げな様子で語るスレッドリー。

 い、いいんじゃないかな? アリの国と国交を結ぶ第一歩かもよ?



「はい、そのようなわけで、アリシアの素敵なところは、そのかわいらしさにあると私は考えています。ご清聴ありがとうございました」


 ラダリィの発表が締めくくられた。

 良さげな感じにまとめられたけど、チョロいって短所じゃなくて長所の1つなのかなー。それだけが引っかかる……。



「では私の番ですね!」


 そういって手を上げたのはナタヌ。自信ありげな様子だ。


「私が思うアリシアさんの素敵なところ、その3は……かわいいところです♡」


 かわいい。

 ラダリィと同じだ……。

 今度は何を褒められるんだろ。かわいいところ……かわいい趣味とか? キラキラする鉱石を集めたりするのが好きだし? あと街道に敷き詰められた石から金を抽出したりするのも好き!


「ずばり、かわいらしい顔! つつましやかな体形! 守ってあげたくなるような細さ!」


 あ、うん……。

 ナタヌさん、この5年間で良いものを食べてグンと女らしくなられて……ちょっと調子に乗ってらっしゃいますね? 性格が明るくなったのも、このけしからん体になって自信がついたせいなのか⁉……どれ、体に聞いてみるとするか! うん、どうなんだー⁉ ここか? それともここかな⁉


「やっ♡ アリシアさん♡ 急に何を♡ みんなが♡ 見ていますぅ♡」


 OH……ラダリィにも引けを取らないこの大きさ! そして張りがあって揉みごたえのあるラダリィとは違う、指が沈み込むような柔らかさ……。

 ええい! ローブで隠していると余計にエロいぞ! 何これ……ホント何食べたらあのガリガリ娘がこんな反則ボディに変身するのさ⁉ あー、もうけしからんけしからん! あーけしからん!


「アリシア。それくらいに。殿下には刺激が強すぎます」


 馬乗りになってナタヌの胸を揉みしだいていると、ラダリィがそっと肩を叩いてきた。

 見ればスレッドリーはイスから転げ落ちて、床の上で小さく痙攣していた。殺虫剤をかけられた虫か。


「ごめん、つい夢中に。でもすっごいよ……。ラダリィもちょっと触ってみなよ♡」


 わたしの誘いに乗り、ラダリィが無言でナタヌのローブの下に手を突っ込む。


「あふっ♡」


 ね♡


「ふむ……。まだまだ私には及びませんが、なかなかのものをお持ちのようで……。早速今夜殿下の夜伽をさせましょう」


「ダメダメダメ! ななな何言ってるの⁉」


「もちろん冗談です」


 ラダリィが意地悪そうに笑う。

 あ、また引っかけられた……。焦ったわ……。


「今、アリシアが安心されたのはどちらの意味で、でしょうか?」


「どちらって……?」


「殿下に夜伽の相手がつかないことなのか、それともナタヌ様が夜伽の相手をされないことなのか――」


「え……と……」


 思考がフリーズする。


 確かに安堵はした……。

 でもその理由は……? わたしは今どっちのことを想った? もしかして両方?


 わからない……。

 わたしはどっちのことを大切に想っているのかな……。



「それでは判定をお願いしてもよろしいでしょうか」


 判定ね……。


「今回は……ラダリィの勝ちで」

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