第52話 アリシア、努力を誉められる

「それでは……両者譲らず、1回戦は引き分けということになりました……」


 ラダリィさん怒ってます?

 ラダリィの言葉もうれしかったよ。わたしって真面目だったんだなーって改めて気づかされたし、それが魅力の1つだって思ってくれているわけでしょ。そういうのってホントうれしいよ。


「2回戦に参ります。先攻後攻を入れ替えまして、ナタヌ様から発表をお願いいたします」


 そういう形式なのね。

 公平を期すためかな?


「わかりました。それでは行きます! アリシアさんの素敵なところは……料理上手なところです!」


 ナタヌがこぶしを握り締めながら大声で宣言した。


 お、それはうれしい!

 小さい頃からの修行の成果というか、チート能力じゃなくて努力してきたことを誉められるのはうれしい!


「アリシアの料理はどれもうまいからな。うん、それは間違いないな」


 スレッドリーも深く頷く。

 なんていうか……やっぱりこの2人って感性が似てるなあ。この先を考えると、どんどん不安になってくる……かもしれない……。


「初めてお会いした時にいただいた『ガーランドレモンスカッシュ』。そして『ももクレープ』。あの感動は生涯忘れることはないでしょう」


「生涯って、それはさすがに大げさー」

 

 自慢の一品ではあるけどね。


「いいえ。生涯です。それらを口にした時、私はこれまで料理というものを食べたことがなかったんだな、と思い知らされたのです。孤児院では、何かを煮たもの、蒸かしたもの、焼いたもの、ただそれだけのものをいただいていました。もちろんそれらによって命を長らえていましたから、孤児院の皆様には感謝をしています。しかし、私はアリシアさんの手によって料理というものを知ってしまった。私に食すことの喜びを与えてくださったのはアリシアさんなのです」


 まさかそこまでの衝撃を与えていたなんてね……。

 あそこにいた小さい子たちに、わたしの作ったものをたらふく食べさせたりしなくてホントに良かった……。


「はい、ナタヌ様。ありがとうございます。そこまでにしておきましょうか。ずっと思い出を語りたい気持ちはわかりますが、このままですと私の番が回ってこないかもしれません」


「す、すみません……。ついうれしくて」


 ナタヌが真っ赤な顔になり縮こまる。

 うん、そんなに喜んでくれてうれしいよ。ちょっとしかないけど、レモンスカッシュ飲む?


 アイテム収納ボックスを探り、ストックが残り少なくなったポットから、レモンスカッシュを注いであげる。また作り置きしておかないと。


「いいよ。飲んで」


「ありがとうございます!」


 ナタヌは一切恐縮することもなく、抱えていた杖を投げ捨てて、レモンスカッシュの入ったコップに飛びついた。よっぽど好きなのねー。


「おいひい……。この味すごく好き♡」


 あーかわいい!

 ストローを使って、口いっぱいにレモンスカッシュを吸い上げている美少女、絵になる! あとで壁画にして飾りましょう。このかわいさを後世に伝えなければ!



「それでは次に後攻の私がアリシアの素敵なところを発表します」


 ラダリィが前に進み出る。

 何が出てくるかなー。ワクワク。


「アリシアの素敵なところ、それは……いつも周りに気を配っているところです」


 お、おお……おおー?

 それは改めて指摘されると、けっこうくすぐったいやーつ!


「気配り?」


 スレッドリーが何のことかわからない、と言った様子で首を傾げている。

 お前はわたしの何を見ているんだ⁉ 気配りの鬼と言われたアリシア様だぞ! そこはわからなくても頷いておけ!


「いつも自分のことは後回しで、周りの誰かが困っていないか、次に何をしてほしそうかに気を配っています。そのアリシアの姿を目で追うのが私のマイブームです」


 えっ、それずっと見られてたの⁉

 それは見ないでほしい……。さすがに恥ずかしいってば!


「な、何言ってんのー。わたしは自分のことしか考えない自己中女ですよ! 本能の赴くままに行動あるのみ! 人のことなんてその辺に転がっている石くらいにしか思ってないよー」


 わたしが楽しければそれでいいんだよー。

 それはホントだよ?


「アリシアさんは、『自分のため』と言いながら、周りに気を配っているんですね。やっぱり好き♡」


 はっ! またナタヌの好感度を上げてしまった!

 いや、これはもう何を言っても好感度上がるパターンに突入しているのでは⁉ 攻略ルートに入りまくっているのでは⁉


「アリシアは気配り屋だったんだな。初めて知ったよ」


「スレッドリー……あなた、わたしのことなんだと思ってるの? わたしのことホントに好きなの?」


「ああ、もちろん好きさ。アリシアが俺のすべてだし、アリシアと一生一緒に――」


 あれ? 急にスレッドリーが……寝た?


「これでよし、と」


「ナタヌ?……今もしかして、なんかした?」


 微量の魔力放出は見えたけど、何かのスキルを使ったようには見えなかった……。


「ええ。孤児院で生活している時のライフハックを少々」


 ナタヌがものすごく得意げな顔で胸を反らしている。


「……一応聞いてもいい?」


「泣き叫んだり暴れたりしている子を、ただちに静かにさせるライフハックです。首の太い血管の上を魔力で一瞬圧迫してやると、脳に血液が回らない状態になり、ただちに気絶して静かになるのですよ」


 あ、これダメなやつだ……。


「ねえ……そんなことをして問題になったことは一度もないの?」


「私には『ハイヒール』がありますから♪」


 あー、ホントにダメなやつだわ……。


「もうそれ使うのやめようね……」



 2回戦の判定。


 引き分け。



 いや……だからごめんって……次こそは勝敗決めるから!

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