第50話 アリシア、素敵なところを発表される

「もちろん、アリシアの素敵なところ言い合いっこ対決です!」


 ラダリィさん……。

 思い切り自分の得意な話術で勝負って。……本気なのね。


「言い合いっこ? それはなんですか?」


 ナタヌが目を白黒させながら、わたしとラダリィのことを交互に見てくる。

 初見のナタヌだけがこの流れに乗れていないよね。無理もないけど。いや、わたしだって乗れているわけじゃないよ。言われる側ってけっこう恥ずかしいんだからね? この間はスレッドリーと交互にお互いの良いところを言う勝負だったけど、今回はわたしが一方的に言われる……んーそれは悪くないかもっ!


「きちんとルールは説明します。そのうえで勝負を受けていただけるのか、お答えをお願いします」


 深々とお辞儀をしてから、ラダリィが微笑んだ。


「い、いいですよ! 聞きましょう!」


 ナタヌさん?

 あなた、相当ビビってますね? わかります。ラダリィが笑顔の時の圧力はとても恐ろしいですからね。でも、ナタヌさん、その……わたしの腕にしがみついて……その、すごく胸が当たっていて……もっとお願いします♡


「まずは先攻後攻を決め、順番にアリシアの素敵なところを発表します」


「素敵なところですね。軽く5兆個はありますけれど」


 そんなに⁉

 わたし、素敵すぎない⁉


「1回に発表して良いのは1つだけです。私とナタヌ様がそれぞれ1つずつ発表したら、アリシアに判定してもらいます。全部で3回勝負です」


「ルールは理解しました。素敵なところを1つ発表して、アリシアさんに選んでもらえたら勝ち、ですね?」


「そうです。2本先取したほうの勝ちです」


 すでに2人の視線が勝負モードに入っている……。バチバチと火花が散って見えるよ。2人の美少女がわたしを取り合って……悪くないっ!


「アリシア。こちらの審査員席へお願いします」


「あ、はい」


 この部屋(吹き抜け状態)に唯一残った家具。それがこのオシャレテーブルとイス4脚だ。あ、テーブル下の足湯の温泉はまだ健在だ! ちゃんと温泉が湧き出てきてるー。入っていてもいいかなー? うひぃー気持ちいい♡


「殿下。解説席にお願いします」


 と、ラダリィがわたしの隣のイスを指さす。


「俺が⁉」


「部外者の殿下に役割を与えて差し上げているのです。喜んで感謝してくださっても良いですよ」


「お、おう……。ありがとう」


 素直か!

 ラダリィはスレッドリーの代理で戦うみたいなものだし、少なくとも部外者ではないでしょ。でもまあ、解説とやらをがんばって! せっかくだから何か気の利いたことを言ってね。


「こうしてお2人が並んで座っていると……」


 何か含みがあるような笑みを浮かべる。


「何よ?」


「とてもお似合いですよ」


「なっ!」


 ちょっとラダリィ! そういうのは言わないで! 急に意識しちゃうでしょ! うわっ、スレッドリーの顔がにやけだしたんですけど! うわー、めっちゃうれしそう……。足をちょんちょん触ってくるな! 切り落とすぞ! はぁ、一気に冷めたわー。でもOK大丈夫。勝負、行きましょ!



「ではどちらが先行にいたしましょうか」


「私はどちらでも。どうせ私が勝つんですから関係ありません」


 ナタヌ、すっごい自信ありそう。

 こうして見ると、最初に孤児院で出会った時の印象とは大違いね。芯の強さは感じていたけれど、もっとおどおどしていて、自分に自信がなさそうで、周りのことばっかり気にしていたのに。ソフィーさんのところで楽しくやれていたってことかな。ホント良かったよ。


「それでは私から行かせていただきます。よろしいですね?」


 ラダリィの宣言に、ナタヌが無言で頷く。

 ラダリィが先行か。どんなのが出てくるのやら……。


「それでは参ります。まずは軽めのところから。アリシアの素敵なところは、真面目なところです」


 真面目。

 ちょっと意外なところを褒められた気がする。


「おう、アリシアはとても真面目だな。わかるぞ。確かに真面目だ」


 スレッドリーが全肯定して何度も頷いている。いや、それ解説じゃなくてただの感想だから……。


「えーと、わたしが進行するのもあれなんだけど、一応理由を聞いてもいい?」


 言ってみて思ったけど、自分で聞くの恥ずっっっ!

 ほしがりさんみたいじゃないの!


「はい。何に対しても手を抜かない真面目さ。それがアリシアの素敵なところです。どんなバカげたことでも、無茶な要求でも、すべて一生懸命取り組みます。女神・スークル様の失敗も、陛下の無茶ぶりも、お嬢様方のわがままも、ゴミ虫のような殿下のことさえも、すべて手を抜かず、一生懸命考え、何とかしようとしてくださるのです」


 ……みんな無言になっちゃったじゃないの。

 何これ、わたし、どう反応したらいいの⁉ 褒められすぎてもうどういう感情でここに座っていればいいのか、わけがわからないよ。これで軽めなの⁉


「あ、あり、がと……」


 何とかお礼をいうのが精いっぱい。

 どうしようこれ。最後まで心臓が持つかわからないよ。解説のヤツは感心しきった感じで頷いているだけだし! 役に立たない!

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