第49話 アリシア、ラダリィに翻弄される

「おいっ! ちょっと待った~~~~~~~~~~~~~!」


 スレッドリーが慌てたようにわたしとナタヌのところに駆け寄ってくる。


 何よ? 今良いところなんだから、モブキャラは邪魔しないでくれない?


「おいっ! なんだその目は!」


「えー? ドリーちゃんってなんか空気読めないし、突然大声出してきてうるさいなーって」


「アリシア……俺は!」


 わたしはナタヌを抱きしめていた手をほどき、スレッドリーほうに向きなおる。

 スレッドリーは怒っているような、それでいて泣きそうな、そんな表情を浮かべたままぼんやりと突っ立っていた。


「アリシア……。さすがにここは殿下のお話も真面目に聞いてあげてくださいませんか」


 ラダリィが懇願してくる。ラダリィまでなんでそんなに悲しそうな目で見つめてくるのかな? 今すっごい良いところなんだから、みんな笑顔で祝福してくれないと!


「俺は! 俺のほうがずっと昔からアリシアのことを愛しているっ!」


 地面に向かって吐き出すような声。

 どこか息苦しそうに。


「うん、はい……それで?」


 それは何度も聞いてるから知ってるけど。ほかに何か新情報が?


「それでとは何だ! 俺のほうがずっと真剣に長い期間――」


「期間なんて関係ありませんんん~。私はアリシアさんにとっくにこの人生を捧げているんです! 王族のお遊びとは違いますぅ~! 絶対負けないんだからねっ!」


 ナタヌが「べぇ~」と舌を出してスレッドリーを威嚇する。

 まあそう。

 ナタヌの人生を変えてしまったのはわたし。だからナタヌをしあわせにする責任はある、よね……。


「俺の愛は遊びなんかじゃない! 俺はアリシアが望むなら、王位継承権を放棄するとすでに伝えている! その言葉に偽りはない!」


「あのね、スレッドリー。ちゃんと言っておくけど、わたしはそんなことは望んでないからね。スレッドリーには、この国の王子としてやるべきことをちゃんとやってほしいの。王族の義務を果たす人のほうが素敵だと思うよ」


「わかった! 俺は兄上を倒して王様になるぞ!」


 だから極端!

 そういうのも望んでないから!

 だいたいスレッドリーが王位についたりしたら、この国傾くでしょ! 身の程をわきまえなさい!


「殿下! 何と素晴らしき決断! そのお言葉、このラダリィがすぐにスミナルド殿下にお伝えしてまいります!」


 またまたー。ラダリィが悪い顔してるわ……。

 

「いや、今のは言葉の綾で……」


「殿下? まさかアリシアの前でウソをつかれたのですか⁉ 愛するアリシアの前で⁉ 誠実だけが取り柄かと思われた殿下がウソを? そうなるともう存在証明できるものが何も……」


「そんなことは……俺は王になる……ぞ……」


 ラダリィさん、もうその辺で許してあげて。引くに引けなくなっちゃってるじゃないの。


「まあまあ、スレッドリー。1人で盛り上がってないで、わたしの話も聞いてよ」


 邪魔だなーとは思ったけど、いなくなってほしいなんて思っているわけじゃないんだからね。「スレッドリーのことをちゃんと考えて悩みます」って言ったのはホント。それは何も変わってないの。


「わたしはね。ナタヌの人生を変えてしまったので、それに対しての責任があるの。だからナタヌのことはとっても大切!」


「アリシアさん♡」


 もう♡ すぐに腕に絡みつかないの♡……あれ? あなたぶかぶかのローブ着ているから気づかなかったけれど、中身はけっこう……かなり……けしからん♡


「その小娘……ナタヌと言うのか。俺のアリシアにベタベタしやがって!」


「おぉ⁉ やりますか⁉ そのちょ~っと顔がかっこいいからって調子に乗ってますね⁉ その顔面をきれいに整地してあげましょうか⁉ おぅおぅ?」


 ナタヌさん……もしかしてちょっと性格変わりました?

 ヤンキーみたいで、少しはしたないですわよ? まったく誰の影響かしら……。


「調子に乗りやがって! 小娘、勝負しろ!」


 スレッドリーがいつもの調子で腰に手を当てるも、今は浴衣姿。自慢の愛刀はロッカールームの中なのでした。


「丸腰で私と戦うんですか? よほど舐められているようですね。この度A級冒険者になられたアークマンさんを師匠に持ち、次期S級冒険者の呼び声も高いアリシアさんを妻に娶る予定のこのナタヌに勝てるとでも⁉」


 えーと。

 わたし、娶られる側だった⁉

 流れ的には逆だと思ってたけど……まあイキっているナタヌもかわいいし、どっちでもいっか♡


「その勝負、お待ちください……」


 とラダリィが進み出てくる。


「ナタヌ様。殿下と戦う前に私と勝負をお願いいたします……」


「ラダリィ⁉ あなた戦闘スキルもないのにいったい何を考えているの?」


 そのきれいな肌に傷がついたりしたら、デュークさんに申し訳が立たないし、危ないから下がっていて?


「私はもちろんかまいませんよ。アリシアさんのためになら誰とでもどんな方法でも戦います。ラダリィさんは何がお得意なんですか? 剣ですか? 魔法ですか?」


「私とナタヌ様は女同士ですし、何も腕力で勝負をしなくてもよろしいでしょう? ねぇ、ナタヌ様?」


「私はプリーストなので腕力で勝負というわけでは……はい……」


 ラダリィの気迫に、若干ナタヌが気圧されている……。


「1つ私の提案を受けていただけないでしょうか? どんな方法でもとおっしゃられたのはウソだったのでしょうか?」


 完全に黙ってしまったナタヌの代わりに、わたしが尋ねてあげましょ。


「それでー? ラダリィはどんな勝負をするつもりなの?」


「もちろん、アリシアの素敵なところ言い合いっこ対決です!」


 えー、またその流れなのー?

 スレッドリーが目を輝かせてめちゃくちゃ頷いてるじゃないの……。今回あなたの出番はないからね?

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