第47話 アリシア、ミィちゃんを問い詰める

 ミィちゃんのお言葉。

 というか言い訳を聞きましょうかね。


『アリシアが決断するためのきっかけとして、ライバルを送り込もうと思ったのです。スレッドリー殿下と彼女でアリシアを取り合ってもらおうかと……』


 スレッドリーとそこの女の人でわたしを取り合う?


 ……ミィちゃんは何言ってるの?


『ハーレムを望んでいたアリシアのために、アリシアに好意を持っているもう1人の候補にはっぱをかけてみました』


 だからその「はっぱ」って何? なんならこの人、発破を仕掛けてきている危ない人なんですけど……。


『大好きなアリシアが、王子に言い寄られていて困っていますよ。アリシアは押しに弱いので、このままだと近いうち、王子の手籠めにされてしまうでしょうね、と』


 手籠めって! もうっ! 何言ってるの! そんなわけないでしょ!

 何適当なこと言ってるの……。スレッドリーから言い寄られてどうしたらいいか困っているのはホントだけどさー。手籠めにされるわけないじゃない! わたしのほうが強いんだし!


『ですので、戦闘力だけはアリシアと同等か……おそらくアリシアに少し劣る程度と思われる強者を派遣してみたのです』


 うっ……それってわたしが力負けする可能性もある相手ってこと? まあこの威力で部屋を吹き飛ばしたのを見たらちょっとそんな気も……。で、でも防御はわたしのほうが上ってことよね⁉ 不意打ち攻撃にも無傷だったしっ!

 

『彼女も少し感情が高ぶってしまったようですね。命を奪おうという気はないと……思いますよ』


 あ、今ちょっと言い淀んだー!

 いやいや、どう考えても危ない人でしょ! あの威力……防護フィールドの展開が少し遅れてたら、わたしたち2人とも粉々になって消し飛んでたよ⁉


 ねぇ、ミィちゃんー。


『なんでしょうか?』


 それで、あれは誰なの?

 わたしのことが大好きって……。シルバ村の子たちを除いたら、『龍神の館』関係は、周りは男の人ばっかりだったし、わたし、実はそんなに女性と接点ないんだけど? ちゃんと仲が良いのはロイス……と最近ではラダリィくらい? あ、もしかして、どこかの旅先ですれ違って、わたしの魅力にメロメロになっちゃった系の人だったりする? いやーん♡ てことは、わたしのモノにして良いの? 相思相愛ならいいんだよね⁉


『アリシア、落ち着きなさい。あなたはなぜそんなに男性と女性で態度が違うのですか?』


 え……だって……男ってなんか怖いし。


『前世のあなたは男性だったでしょう』 


 でもあれはわたしにとって、ただの記憶だもん。知識っていうか、ホントのわたしじゃないっていうか……。


『アリシアは今、スレッドリー殿下に惹かれつつありますね? 男性に対しても好意を持ちつつある』


 う、うーん。そうなのかなー。嫌いではないけど、好意なのかなー。


『今は、性の違いに怯えているだけです。よくよく殿下の人となりを知り、親交を深めるのが良いでしょう』


 うーん。まあ、それはそうだと思うー。


『そのためにはライバルが必要です』


 いや、その理論がわかりませんっ!


『黙っていると殿下がアリシアにアプローチをかけるだけでこの先何年も、もしかしたら何十年も、何の進展もしないかもしれません』


 さすがにそれは……あるかも。

 このままでいいならこのままがいいなーって。別に今困っていないし、楽しいもん?


『それでは殿下がおかわいそうです。良い答えであれ、望まぬ答えであれ、近い将来答えを出してあげるべきなのですよ』


 それもわかるけどー!

 もうちょっと待ってほしいーみたいなー!


『そこでライバルの登場です』


 うーん、だからライバルがいるとどうなるの? スレッドリーが負けまいとしてがんばる?


『それはもちろんありますね。しかし、1番はアリシアの意識の改革です』


 意識の改革?


『アリシアのことが大好きな2人と接することで、男性の良い面、女性の良い面、男性の悪い面、女性の悪い面、そのすべてを確認することができるのです。そうすれば、アリシアが恋愛感情を抱けるのは、男性なのか、それとも女性なのか、もしくはその両方なのかがわかってくるでしょう』


 なる、ほど……? わかったようなわからないような?


『競い合う2人に挟まれて、プチハーレム状態も楽しめると思いますよ』


 プチハーレム……良い響き♡

 でも今ってさ、ハーレムというより修羅場っぽくなってるのは気のせいですかね?


『それは……私がはっぱをかけすぎてしまったので、殿下に殺意が向けられてしまい……申し訳なく思っています』


 ちょっとー。やっぱり殺意じゃん!

 ミィちゃんの手違いで殺されたらスレッドリーもかわいそうじゃない?


『しょっちゅう「なんとなく」という理由で殿下を殴り、半殺しにしてはスークルのところに送っているあなたが言いますか?』


 ちっ……反省してまーす。


『そういうわけなので、しばらく3人で過ごしてみてください。そのために少しだけ時空を歪めて、急ぎ彼女を送り届けておきましたから』


 あー、反則だ!

 そういうことするんだー。時空を歪めて人を転移させられちゃうなら、何でわたしたちはこうして普通に旅しながら『ダーマス』を目指さないといけないのさー。


『そういうわけなので、しばらく3人で過ごしてみてください。そのために少しだけ時空を歪めて、急ぎ彼女を送り届けておきましたから』


 急にNPCみたいにセリフ繰り返すのやめて?

 もう、わかりましたよ! ちょっと怖いけど、プチハーレムってやつを満喫……って、だからこの人は誰なのってば⁉ それがわからないと動きようがないんですけど⁉


 おーい、ミィちゃん!

 うわ、ダメだ。応答しない!


 直接尋ねるしかないか……。



 ちらり。

 長々とミィちゃんとの会話を終えて、元・廊下に立つローブ姿の女性に視線を送ってみる。


 しばらく待たせたものだから、スレッドリーを睨みつけたままイライラしてるなー。

 まあ、今は防護フィールドの中だから手出しできないんでしょうね。


「あのーそこの人ー。今ね、ミィちゃんからちょっとだけ話は聞いたんですけど……自己紹介とかしてもらってもいい、ですか?」

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