第41話 アリシア、こっそり料理を作る
「うーん、気まずいよぉ……」
慌てて逃げてきちゃったけど、この後どうやってみんなと顔を合わせたらいいの……。
宿泊用に用意してもらった部屋にも帰れず、なんとなくお城の中をウロウロ……。
「うーん……ちょっと調理場でも借りて、お詫びのお菓子でも作ろうかなー」
調理場はどこだろう。
そういえば『ラミスフィア』の名物料理って何だろ。温泉が有名だから、温泉卵とかかな? でもこの街は硫黄の匂いとかしないし、温泉の成分的には違うっぽいよね。
「あ、ここかな? こんにちはー」
調理場っぽい部屋を見つけて、中に入ってみる。
無人だ。
でも、調理器具がたくさん並んでいるし、ここが調理場で間違いなさそう。夕飯まで時間があるし、料理人さんたちは休憩中かな。勝手に借りたら怒られるかな……。
「すみませーん。誰かいませんかー?」
まあ誰もいないよね。
じゃあ、ちょっとだけ借りちゃおうかな。
食材は自分の手持ちで作るし、さすがにめちゃんこ叱られることはないはず……。
「さて、何を作ろう。今のところノープラン……」
みんなに喜んでもらえそうなものがいいよね。プリン……は、スレッドリーが飽きてたら困るし、なんか違うものがいいな。
「そうだ! シャーベットとか良くないかな! ここってちょっとだけ暑いし。……蒸し暑い?」
温泉が湧いているからだと思うけど、若干湿度も高め。そうなると、さっぱりしたシャーベットなんかは喜ばれると思うのよね。
んー、でもシャーベットだったら、調理場いらなかったかも。
まあせっかくだから、ガーランドレモンをすりつぶすのに道具を借りようかな。
よーし、キミに決めた!
これからわたしが作ろうとしているのは『ガーランドレモンシャーベット』です! 初めて作るけど、冷凍庫さえあれば簡単にできちゃうからねー。
まずはレモンを人数分+1個分用意して皮を剥きます。それから半分に割って種を取りつつみじん切りにしてー、半分はさらにすり鉢で形がなくなるまですりおろししましょう。もう半分は少し原型がある状態ね。
みじん切りにしたレモンとすりおろしたレモンを多めの砂糖水で煮て、レモンシロップを作りまーす。ひと煮立ちさせたら味見をしてー、「甘い!」大丈夫そう! 粗熱を取りましょう。
最後に、残っている1個のレモンを薄く輪切りにしてから、さっき作ったレモンシロップに入れて、わたしの創った魔道具『冷凍庫』に放り込む!
「たまに取り出して混ぜるだけ。あとはシャリシャリになったら器に盛って食べましょう!」
ざっと……4~5時間?
というわけで、4~5時間分冷凍庫に入れた状態のレモンシロップがこちらになりまーす。
冷凍庫内の時間の操作なんて余裕余裕♡
「シャリシャリだー。おいしそう♡ いざ、実食!」
シャーベットにスプーンを突き立てると、新雪というよりはみぞれのような感触が手に伝わってくる。水分を含んだ雪って感じ。シャクシャクだー。
「いただきまーす♪」
ちょっとだけ掬ってー、形の残っているレモンも上に乗せてー、パクッとね!
「至福ー♡ 甘さ完璧♡ 冷たくて溶けて最高!」
また恐ろしい食べ物をこの世界に爆誕させてしまったようね。
かき氷とはまた違うおいしさがある。
お風呂上りにの火照った体に、このさっぱりしたレモンの甘みは中毒性がありそう! 商売にしちゃう?『ラミスフィア』で一儲けしちゃう?
「って違う違う。そうじゃなくてこれを手土産にして、みんなのところに謝りに行かないと……」
気が重いな……。
まずはシミュレーションしましょう。
「さっきは突然いなくなってごめーんね。すっごいおいしいスイーツを思いついちゃって、居ても立っても居られなかったの」
うーん、軽いかな。
「みんなー。さっきアリを助けたら恩返しされてね」
ダメ……変な子だと思われる……。ん、「今さら」って言ったヤツいるな? ちょっと表出てこいっ!
「シャーベットって知ってる?」
うーん、脈絡がなさすぎる。
「オレオマエノタメニツクッタクエ」
……これかな?
「安いよ安いよー。『ガーランドレモン』をふんだんに使用した『ガーランドレモンシャーベット』だよー。甘くて冷たくておいしいよー」
これは温泉前で商売する時のセリフだよね。
「わたし、スレッドリーと一緒に過ごしても嫌って思ったことないよ。ただ、恋人になるっていうのが、まだよくわからないだけ。だから今まで通り普通に仲良くして?」
これかな……。
ストレートに気持ちを伝えたほうが良いよね。
今のホントの気持ち。
でも怖いな……。
ええい、アリシア! しっかりしなさい!
そんなことでビビってどうするの!
「当たって砕けろだ!」
さっそくみんなを探してホントの気持ちを打ち明けよう!
「アリシア、こんなところにいましたの?」
「探したぞ、アリシア」
「アリシア、1人で遊びに行かないでください」
「アリシア様、底がしれませんね」
ななな、なんでみんなここにいるの⁉
心の準備ががががが!
ガーランドレモンシャーベットの容器を取り出して、スレッドリーの胸に押しつける。
「オ、オレオマエノタメニツクッタクエ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます