第40話 アリシア、童話の世界に迷い込む?
思わず逃げてきてしまったよ……。
「なんかわたしばっかり意識しているみたいでやだな……」
周りに誰もいないのを確認してから、お城の廊下の隅っこにしゃがみ込む。
塵1つ見当たらないふかふかの絨毯をそっと撫でてみる。ラダリィみたいなメイドさんたちが毎日ていねいに掃除しているのかな。あーあ、絨毯になりたい……。そうしたら毎日何も考えなくていいのに。
「あれ?」
絨毯の長い毛に絡まっているアリが1匹いる!
「お前、1匹でこんなところまで冒険に来たの?」
無謀だよー。
アリは仲間と一緒に行動しないと。1匹じゃとっても弱いんだから。
「仲間はどこ? 巣の場所は覚えてるの?」
んー、虫の声はうまく聞きとれないなー。
とりあえず外まで連れていってみよう。そうしたら何かわかるかも。
おとなしくついてきなさいって。逃げ回らないの。わたしが助けてあげたんだよ?
アリを両手で作った檻に閉じ込めて、お城の正面扉から外に出る。
こっちからならスレッドリーたちに会わずに済むし。
「お前の巣はどこ? 痛っ! ちょっといきなり噛まないでよ!」
大きめのアリだから顎も強くてそれなりに痛い。
手を開いてアリの様子を見てみる。
外に出せーって暴れている感じじゃないね。……何かを伝えようとしているのかも?
「あ、そっちに行けってこと?」
アリが顎を向けている方向に歩き出してみると、アリはうれしそうに手の中を歩き回り始めたね。
「痛っ! 今度は何?」
またアリに噛まれて立ち止まる。
あ、ここ? もしかしてこれがお前の仲間の巣?
「お行き」
しゃがんでから、手を地面に接触させてアリが降りられるようにしてみる。アリは待ってましたとばかりに手の平から飛び降りる。うれしそうにわたしの回りをぐるりと一周した後に巣穴に入っていた。おー、ここで合っていたみたい。良かったよ。
「今度ははぐれるなよー。わたしみたいに1人で異世界に迷い込んだらもう仲間のところには帰れないんだからね」
まあ、わたしには前世で仲間なんていませんでしたけどね。今のほうがよっぽど充実している……はず。ママも元気にしてるし、大好きな女神様たちが気にかけてくださるし、仲間や友だちに囲まれていて、工房には第2のお父さんやお母さんまでいて……だからこれ以上望まなくてもいいのかなー。
前世で陰キャ&アンラッキーの極みみたいな人生を送ったわたしが、恋とかハーレムとかを望むのはちょっとハードルが高すぎたのかも。
働きアリにでもなれば恋愛しなくていいのかなー。
わたしのチート能力で劇的に生産効率を上げられるし。みんなキリギリスみたいに遊んで暮らせるかも。
「えっ、何?」
巣穴から一斉にアリが!
めっちゃ怖い。
軍隊アリだったらゾウとかでも余裕で倒せる戦闘力なんだよね。まさかわたしにお礼参りを⁉ でもわたしに無許可で触ったら、いくらちっちゃいアリさんたちでも、呪いが発動してもだえ苦しんで最後は焼け死ぬよ?
「って、女王アリさんですか⁉」
一家総出でそんなごていねいに!
たまたまね、絨毯に引っ掛かっていたのを見つけたので連れてきただけですし。大丈夫ですって。お礼なんてそんな。アリの巣穴にご招待って。見ての通り、わたしは人ですから大きくて入れませんよ。もしかして特別な魔法で体が小さくなって、巣穴にご招待、なんて童話みたいな話は……あ、はい、そういうのはないですよね。じゃあ、お気持ちだけで大丈夫です。
「あ、ちょっと待って。アリさんたちは甘いもの好きでしたよね」
砂糖の粒あげます。
お菓子作りであまったやつだけど。粉末にした砂糖だから、持ち運びも楽でしょう。あ、そこで食べちゃうの? そうですね、味見は大事。純度が高いから、ちびちび食べてね。気に入ったのならまた持ってきます。わたし1週間くらいはこのお城に泊まらせてもらうので。1週間ってわからないか……。ちょっと経ったらまた遠いところに行かないといけないので、まあ、また遊びに来ます。
「女王アリさんも、ほかのみなさんもお元気でー」
周りのアリたちを踏みつぶさないようにそっと立ち上がってから、できるだけ大股でその場を立ち去った。
女王アリともなると、片言だけど意思疎通が取れるんだー。
わたしの『交渉』スキルってレベルが上がるほどチートっぽくなるね。魅力が上がっているせいなのか、異種族間なのに、かなり友好的に話しかけてくれたし。
いいなー。
アリさんたち、大家族って感じで。
やっぱりハーレムで大家族を目指す……?
んー、でも自分で子どもを産むのは怖いから、試験管ベビー……。ミィちゃんにバレないように? 愛の女神様は頭硬いからなー。
『また私の悪口を言っていましたか?』
あ、聞かれてた!
最近ぜんぜんミィちゃんが話しかけてくれなくて淋しかった……。
『アリシアが忙しそうでしたから、静かに見守っていましたよ』
忙しい……。まあ、そうなのかな。
成人なりの振る舞いを求められて疲れちゃったよ。
成人したらみーんな恋して、結婚しないとダメなのかな……。
『それも選択です。ですが、それを選択しないのもまた、個人の選択の自由なのですよ』
んー、つまり、好きにしなさいってこと?
『愛に正直に。それであれば好きなようにしたら良いと思いますよ』
愛にねー。
それがわからないから苦労してるの。
『とても煮詰まっていそうですね』
もう水分が完全に蒸発してぐつぐつ煮詰まってるよー。
『仕方ありませんね。愛の女神・ミィシェリアが特別に手を貸してあげましょう』
ホント⁉
わたし専用のハーレムを?
『それをどうしても望むなら、自分で努力をして作ったら良いでしょう。私が与えるのは、アリシアが動き出すきっかけです』
動き出すきっかけ?
『スレッドリー殿下に本気で愛を囁かれているけれど、どう答えていいかわからない。そういう状態ですね?』
うん……。
悪い気はしないんだけど、このまま進んで良いのかなーって。なんかしっくりこないっていうか、恋人や夫婦になる未来は想像できないっていうか……。
『決断するためのきっかけを与えます』
決断か……。
どんなきっかけ?
『それはもう少ししてからのお楽しみです♪』
えー、今くれるんじゃないの⁉
ケチー!
『ケチとは何ですか! せっかくアリシアのことを想って手助けをしてあげようとしているのに!』
ミィちゃん怒ってるの?
『怒ってません!』
やっぱり怒ってるんだ……。だからすぐにきっかけをくれないのね。
『違います。しばらく準備に時間がかかるのです。必ず届けますから、少し待っていてくださいね』
届ける?
うーん、わかった。
ミィちゃん、わたしを助けてね?
『はい、任せておいてください』
ミィちゃん、愛してるよ♡
『その言葉を、試しにスレッドリー殿下に言ってみてはどうですか?』
やだ。
別に愛してないし。
『本当に?』
……友だちとしては好き。
『からかうのはこれくらいにしておきましょう。あとは任せておいてください』
あー、ひどいんだ!
ミィちゃんなんてキライ!
……ウソ、好き。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます