第38話 アリシア、好みの分析をされる

「庇護の対象だからといって、恋をしてはいけないという法律はありませんよ♡」


 メルティお姉様がいたずらっぽく笑った。


「えー。だってさっきは、対等じゃないと恋の対象にならないって!」


 どっちなんですかー⁉

 からかわないで教えてくださいよ!


「好みは人それぞれですから♡」


 ええー。それ言っちゃったら何でもよくなっちゃう!

 

「私は対等か少しリードしてほしいと思ってしまいますわね」


 メルティお姉様が頬を赤らめながら告白する。

 な、なるほど。パッキリ分かれるわけじゃなくて、グラデーションというか、そういう考え方もあるんですね。


「私は圧倒的にリードしてほしいです!」


 と、ラダリィさん。


「えーそうなの? ちょっと意外だわー。スレッドリーへの接し方なんかを見てたら、あれこれ指図したり言うことを聞かせたりするのが好きなのかと思ってた」


「それは誤解です。臣下として、ただ殿下の行く末を思えばこその行動です。わたしはあんな頼りない男は好みではありません」


「そ、そうですか……」


 バッサリいったな……。

 ラダリィはスレッドリーのことをちょっと好きなのかもって思ってたんだよね。たまにどんな顔したらいいかわからずに困っていたんだけど、思っていたよりも純粋に仕事でやってたのね……。そっか。そっか……。


「私が思うに、アリシアには、殿下のような頼りなくかまってあげたくなるような相手が合っていると思います」


「そう、なのかな……」


 わたしは、メルティお姉様とも、ラダリィとも違う好みってこと?


「そうですわね。私もラダリィの意見に賛成します」


 メルティお姉様まで?

 根拠を教えてよー。


「私がそのように思った事の発端は、5年前に『ガーランド』で2人が出会った時のことですわね」


 え、そこまで遡る話なんですか?


「世間知らずで調子に乗っていたドリーちゃんに、アリシアがガツンとかまして世界の広さを見せつけてくれました」


「世界の広さ⁉ そんな大層な話ではなかったような……」


「王宮に住まう誰が言っても聞く耳を持たなかったドリーちゃんが、その日1日で大きく変化したのです。これは大事件でした」


 そんな……。

 わたし、大層なことをやらかしていたのね……。


「すぐにアリシアの素性は調査されました。もしかしたら、国家に対して謀反を起こそうと画策するいずれかの貴族の仕業である可能性も踏まえて」


「ぜんぜん気づきませんでしたよ……。わたし、国家反逆罪的な疑いをかけられていたんですね……」


 やっぱり魔力感知の精度を上げないと気づけないことが多すぎる!

 人の敵は人だってことよね。ここはやっぱりハインライトさん辺りに教えを乞うか……。


「ですが、すぐに疑いは晴れましたよ」


「それは良かったです! わたし、清廉潔白ですからね!」


「ええ。女神・ミィシェリア様が保証してくださったので何の問題もありませんでした」


「あー、そういうこと! ミィちゃんありがと♡」


「そして逆にミィシェリア様から、『アリシアのことを無理に王宮に招へいしたりしないように』と、釘を刺されてしまいましたので、ドリーちゃんにも内緒で、そっと2人の行く末を見守ることになりました」


 ミィちゃん大活躍!

 でも、そっと見守るって?


「そんな事情があったのですね。私、スレッドリー殿下に『アリシアのことを探してもらうように陛下に頼んでみたらどうですか?』とことあるごとに言ってしまっていました」


 ラダリィの顔が青ざめる。


「大丈夫ですよ。ドリーちゃんには『総力を挙げて探しているけれど、一平民のアリシアを探すのは難しい。もしかしたら遠方に移住してしまったのではないか』ということになっていましたから」


「それなら良かった、のかな?」


「でもドリーちゃんは諦めず、アリシアのようになりたいと、毎日努力をしていましたから、みんなで見守っていたのですよ」


「スレッドリーは愛されていますね」


「放っておけないドリーちゃんのことがみんな好きなのです。アリシアもそうでしょう?」


 大家族に囲まれて、みんなから愛されて。だからあんなに正直にまっすぐ育って……なんか悪くないなって思っちゃう。あれ? これってもしかして丸め込まれてる?


「ううーん。スレッドリーのことは別に嫌いではないです。まあ、好きなのかなとも思いますけど……異性としての好きなのかはわからないです……」


 友だち、なんだよね。

 それ以上の関係ってまだよくわからない……。


「そこで最初の話に戻るのですよ」


「最初の話ですか?」


 どの話だろう。


「私が相手に求めているのは、対等か、少しリードしてほしいということですわね」


「私は相手にずっとエスコートしてほしいです」

 

 ああ、その話に戻るのね。


「それでー、わたしは……放っておけない相手をかまいたい、と思っているはずだって?」


「そうですわ」


「間違いないと思います」


 2人が即答する。


 うーん、そうなのかな……。

 でもなんかそんな気もしてきたような……。なんか手伝いたくなってしまうのはホントそう。でも、それって恋なの? 友情とどう違うの? 


「まだ半信半疑のようですね。でもそれで良いのだと思いますよ」


「それで良い、のですか?」


「恋かそうではないかなど、その時は私にだってわかりませんでしたわ。あとになって振り返れば、『ああ、この方に恋していたんだわ』とわかるだけのものなのです」


「深い話……ですね」


 じゃあわからない今はどうすればいいんだろう。

 

「『今はどうすれば?』という顔をしていますね。それは簡単なことですよ」


 メルティお姉様が勢いよく立ち上がる。


「さあ行きましょう。ずっと一緒にいて嫌ではないか、それを確かめるしかないのです」


 な、なるほど⁉

 つまりどういうこと⁉

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