第36話 アリシア、結婚の経験談を聞く

「温泉とっても良かったー♪」


 メルティお姉様、わたし、ラダリィと、3人で仲良く脱衣所のイスに腰かけて、メイドさんたちに髪の毛を乾かしてもらっている。


 ちなみに、わたしの創作した魔道具『羽根のないヘアドライヤー』を進呈したところ、大変喜んでもらえたよ。メルティお姉様が喜びすぎて、メイドさんたちを呼び寄せて、3人とも髪を乾かしてもらっているってわけ。人に髪を乾かしてもらうのって気持ち良すぎる! これが王族の力! 

 


「それにしてもえらい目にあいました……」


 ラダリィがため息をつきながら、自分の胸を押さえている。

 まだちょっと顔が赤いね。


「ごめんてー。ちょっとだけやり過ぎたかなーとは思ってます♡」


 でも反省はしていない!

 隙あらばまた揉んでやるー!


「もしアリシアが望むなら、私のも……良いのですよ」


 ラダリィよりは少し小ぶりながらも、大変美しい形の果実がわたしのほうへと向く。


「さすがにそれは……閣下に怒られてしまいます……」


 人妻ですし。

 ジョークですまなくなる可能性も……。


「あら残念♡」


「メルティ様。アリシアには冗談は通用しませんから、国家問題に発展してしまいます」


 失礼な! わたしだってそれくらいわかりますって! 胸を揉んで国家反逆罪に問われたりしたら、マーちゃん辺りが爆笑して「ひんぬーこそ至高なのじゃ」とか言いながら転げまわるんだから絶対に嫌よ! わたし、ラダリィのでガマンするもん!


「この『ヘアドライヤー』という魔道具はとても素晴らしいですわね。髪がこんなにさらさらになって……。早く閣下に見せたいですわ」


 メルティお姉様は、自身のブロンドの髪に手櫛を入れて触り心地を確かめ、うっとりしていた。温風と冷風のダブル効果で、髪の中に水分を保つんですよ♪


「閣下はいつお戻りのご予定ですか? ご挨拶できるのかな」


「それが……2週間後に戻る予定なの。悲しいけれど、すれ違いになってしまいそうね」


「それは残念……。ちなみに今はどちらに?」


「大きな商談があるらしく、ちょうど王都に出向いてしまっているのです。アリシアたちと入れ違いなのよ」


 メルティお姉様が淋しそうに微笑む。


「またの機会にってことになっちゃいますね……。ところで、メルティお姉様と閣下は結婚して2年くらいですか? 成人するのと同時に結婚って不安とかはなかったんですか?」


 話の端々からずいぶんラブラブそうなのが伺えますね。無理やり結婚させられたわけじゃないのかな?


「最初は不安だらけでしたのよ。閣下とはまったく面識もなかったですし。そもそも私、成人するまでほとんど王宮を出たこともなかったんですよ」


「えー、そういうものなんですか? やっぱり勝手に相手を決められて政略結婚なんだー」


 涎垂らしたオヤジと結婚させられることもあるかもしれないわけで……。王族、貴族の政略結婚って恐ろしい!


「勝手に、というのはその通りですわね。でも、何年も前から候補の方は決まっていて……。単に爵位だけで決まるものでもなく、その方の振る舞いなど、5年ほどかけて候補の中から絞り込んでいくのです。年齢も限りなく私たちと近い年齢の方が候補に挙がるのよ」


「なるほどー。候補の方はたくさんいらっしゃる、と。でも、お姉様たちは五つ子だから、ご結婚相手の調整は大変そう……」


「ええ、それはそれは困難を極めたと聞いています……」


 何かを思い出されたのか、一瞬表情が暗くなる。

 1人でも大変でしょうけど、5人も同時にって、候補の方を見つけるだけでも大変そうですよね……。


「お嬢様方の結婚をサポートする専門の大臣職が新設されていましたね。その時のニュースは私も覚えています。私が王宮で勤め始めたのは、それからずっと後になってからですが」


 ラダリィが補足してくれる。


「私たち5人姉妹の結婚相手を探すのに、大臣が必要だなんてね。五つ子ですから、誕生日も一緒ですし、あの方には本当に苦労を掛けたと思います」


「お姉様たちはそれぞれ違う方に嫁いでいかれたわけですけど、ほかのお姉様のご結婚相手が気になったりとか、そういうことはなかったんですか?」


 五つ子だと好きな人の好みが似ていたりとか、それが原因で取り合いになったりとか! 血で血を洗う戦いになったとか⁉


「まったくありませんでしたわ。お互いに、誰も」


 メルティお姉様は迷うことなく言い切った。


「そういうものなんですか? メルティお姉様は、ご結婚されたラミスフィア侯爵閣下のことが気に入られた、と?」


「そうですね。結果的にそうなのだと思いますわ。最初は戸惑いました。とてもね。男性とお話することすらほとんどありませんでしたから、突然『結婚相手』だと紹介されて、そのままラミスフィア侯爵領に移り住んだのですよ」


「そのまま、ですか。顔合わせとか、お試しで付き合う期間とか……」


「一切ありませんでしたわ。王家のしきたりですから、15歳の誕生日に成人の祝いの席でそれぞれの結婚相手を紹介されて、その日にそれぞれの領地へと」


「スピーディーすぎる! 王家のしきたり怖い……」


「私聞いたことがあります。お嬢様方との相性を重視するために、大臣は魔力の波長のチェックや未来予知の類にまで手を出されていたとか」


 何その大臣……。

 魔力の波長で恋愛的な相性がわかるの? 初耳すぎる。


 いやいや、それよりも――。


「ちょっと待ってよ。未来予知って何⁉」


 そんなスキル持ちがいるっていうの⁉ もしホントならSランクどころの騒ぎじゃないような。


「その大臣はこうおっしゃっていました。『私にはあらゆる願望を叶えることができます。つまり未来予知を行うことすらも不可能ではないということなのです』と」


 その感じ……ちょっと待ってよ……。

 それってまさか……。


「えーと、ラダリィさん。その大臣の名前を聞いても?」


 一応ね。


「大臣のお名前ですか? アノ様です」


 アノ様……。


 おまえぇぇぇぇぇ! 偽名ヘタクソかぁぁぁぁぁぁぁぁ!

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