第34話 アリシア、簡易更衣室を貸す

「よし、1番に到着っと! おー、ここがラミスフィア城なのねー。ピカピカ新築♪」


 なんだか完成したばかりのお城って感じ! お城のタイルも城門も光り輝いて見えるもの。あ、お城が新築されているってことは、中の温泉施設も新しくなっているってことでは⁉ これは期待できちゃうかもしれない⁉


「やっと追いついた……。アリシア、少しスピード出し過ぎですよ」


 2番に到着したのはラダリィだった。

 メイド服をパタパタ叩いてスカートの中に風を入れている。その冬用っぽいメイド服は、この陽気だときついのでは? もうちょっと薄着をしたほうが良いと思うよー。たとえば水着とか! ラダリィさんの水着が見たいです!


「……アリシアが何を考えているのか視線で丸わかりです」


 ラダリィがため息をついて、胸を隠すように背中を向けてしまった。チラ見しただけなのにするどい……。


「大変お待たせしました」


 3番はラッシュさん。

 さっき初滑りをしたばかりとは思えない身のこなしね。チームドラゴンにほしい逸材だわ。かっこいいし、ショーに映えそう。新メンバーがどんな人なのか会えていないけれど、やっぱりそろそろ顔ぶれを変えたり人数を増やしたりする必要はあるでしょうからね。スカウトも真剣に検討しないと。



「んー、それにしても遅い……」


 スレッドリーはどうした?

 待てど暮らせどやってくる気配すらない。


「もしかして、途中で死んだかな?」


 でもなー、スレッドリーがいないとお城に挨拶に行けないし……困ったなー。温泉……。


「私少し見てまいります」


 ラダリィがもと来た道を引き返していく。


「私も見てきます!」


 ラッシュさんも後に続く。


 んー、わたしはここで待機していようかな……。

 だってわたしまで行くと、もし別ルートでスレッドリーがここに着いたら迷子になっちゃうから仕方なくだよ? 面倒だから行かないわけじゃないんだからね!


「こんな時に魔力探知がうまく使えればなー。もうちょっと精度を上げたい……」


 殺意のある魔物の魔力はちゃんと探知できるんだけど、人の魔力は微弱だから探知しづらい。そういうのがうまくできるようになったら、迷子になったスレッドリーを見つけるのも簡単になるのになー。あと、隠れてこっそり部屋に入ってくるラダリィにびっくりしないですむし。


 魔力ってどうやって扱いを学べばいいんだろうなー。

 魔道具にドカッと流すエネルギーとしての使い道以外はいまいちよくわからないのよね……。


 やっぱり魔法使い的な人に基礎を習わないとダメかもしれない……。

 でも身近に魔法使いって言ってパッと思い浮かぶのって……ハインライトさんくらい? そう言えば、結婚するって話だったけど、ロイスの件でうやむやになって、式の招待状とか受け取ってなかった……。ちょっと会いたいかもなー。なにがどうしてエミリーさんと結婚することになったのかも聞かないといけないし!

『ガーランド』のギルドに行けば、きっとエブリンさんを通じて連絡が取れるよね。この旅が終わったらみんなに会いに行こう!

 

「アリシア~。殿下を見つけましたよ~」

 

「遅くなりまして申し訳ございませんでした……」


 2人に引きずられるようにしてスレッドリーが姿を現す。

 ずいぶんとボロボロだけどどうしたの?


「どうやら街の子どもたちにローラーシューズショーを見せていたようで……」


「おう。あいつらが見たいっていうものだから、エリオットさん直伝のマッスルポーズでショーを見せてやっていたんだ」


 スレッドリーがボロボロになった服をはだけながら、マッスルポーズを披露してくる。いや、子どもたちと遊んでいただけで何でそんなにボロボロに?


「あいつらがさ、『筋肉マッチョは力を入れたら服がやぶれるもんだ!』とか言い出しやがって。俺も大人げないとは思ったんだが、ちょっと本気を出して服をな……」


「自分で破いた、と?」


 まったく……。

 筋肉で服を破る時は、小さいサイズの薄くてぼろいシャツを着るんだよ。ピチピチになっているから、とくに触らなくてももう破れる寸前なんだよね。まあ、手品みたいなもの。普通にジャストサイズの服を破るほどの筋肉とか、戦いの女神のスーちゃんくらいしか無理だって。

 

 これからお姉様にご挨拶に行くのにどうするのさ?

 それ、安い服じゃないでしょう。


「殿下、お召し替えをお願いします。アリシア様、お手数ですがお預けした荷物の中から、殿下のお召し物を取り出させてください」


「ああ、はいはい。たくさんの荷物には着替えも含まれていますよね。これかな?」


 アイテム収納ボックスから黒っぽい皮のカバンを取り出す。角ばっていて頑丈そうだし、きっとこれにいれて型崩れしないようにしているのでしょうね。


「そちらのカバンではなく……赤いほうをお願いします」


「ああ、これじゃなかったんだ。こっちの一回り小さいカバンですか?」


 チラリと頭だけ覗かせて見せる。


「そうです、それです」


 ほい、と。

 もう1つの角ばった赤いカバンを取り出す。

 あとはもう布製の袋が10個くらいだけど、そっちはいらないかな? 大丈夫そう。


「早く着替えて温泉……じゃなくて、お姉様に挨拶しに行こうよー」


「俺はどこで着替えれば?」


 スレッドリーが着替えの服を抱えたまま、辺りをキョロキョロしている。


「男なんだから、その辺の隅っこで着替えたら?」


 別に誰も見ないでしょう。


「アリシア様。さすがにそれは……馬車の客車を出していただくわけにはいきませんか?」


「えっ、こんな街中でですか⁉」


 さすがにそれは警備の兵隊さんに怒られちゃいそう。

 うーん。じゃあ仕方ないなー。


「簡易更衣室を貸してあげるよ。ホントは女性専用なんだよ?」


 ドカンと2mほどの縦長の箱を取り出す。

 水着とかに着替える時用に作っておいたのですよ。あ、もしかしたら更衣室のない秘湯にも使えそうかも! この地域が火山帯なら、どこかに秘湯が湧いているかもしれないし!


「ありがとうございます! 殿下、さあこちらの箱の中へ」


 早くしてねー。

 あ、臭いとかつけないでよ? 出る時にはファブっといてよね。

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