第33話 アリシア、『ラミスフィア』に到着する
「ここが『ラミスフィア』だー! やっと着いたぞー!」
スレッドリーの顔のインクも取ったし、ちゃんと生き返らせたし、もう何も心配ないね!
「なんか……気のせいかもしれないけど気温が高い? 気のせいじゃないよね。すっごく暖かくない? 王都よりもけっこう北のほうにあるのに不思議ねー」
なんかもう真夏が来ているみたいな陽気にさえ感じるよね。
まさかまた時を超えてしまった⁉
「アリシア様。ここ『ラミスフィア』は火山が近くにあり、地熱で一年中平均気温が高めな地域なのです」
ラッシュさんが看板を指さしながら教えてくれる。
『温泉の街・ラミスフィアへようこそ』
なんだってー⁉
地熱かー……って温泉だ⁉
「ここは温泉が有名な街だったんですか⁉」
「まさかアリシアは知らなかったんですか? 知っていて『ラミスフィア』に行きたがっているのかと思っていました」
そんなに有名なの? 名産とか聞いたときに出てこなかったのは、ここが温泉の街だってことが常識の話だったから?
「ぜんぜん知らなかったよー。だってここに寄ることを決めたのはわたしじゃないしー」
「姉上が『ぜひアリシアを連れて来なさい』とおっしゃったんだ。俺はそれをそのまま伝えただけだ」
ナイスお姉様!
ラミスフィア侯爵夫人のおかげで温泉に入れるよー。
前世の記憶にはあるけど、この世界では温泉に入るのは初めてだー! お肌つるつるになりたーい♡
「早く行きましょ! 温泉♪ 温泉♪ ラダリィも早くー♡」
「はしゃいでいるアリシアもかわいいです。殿下、こんなに喜んでもらえて良かったですね」
「おう。姉上に感謝しよう」
何してるのー? みんな置いていくよー?
* * *
「やっぱり先に温泉入っちゃダメ?」
そこの温泉施設にちょっと寄るだけだから、ね? お願い!
「さすがに先にご挨拶に行かないわけには……」
「お招きいただいているわけですからさすがに……」
ラダリィとラッシュさんが顔を見合わせている。
やっぱりダメかー。
まあそうだよね……ちょっと挨拶して「じゃあ温泉行ってきますね」ってわけにいかないだろうなー。「そのままお城に逗留なさい」って言われちゃったら、温泉に行けなくなっちゃうかも……。
「アリシア。大丈夫だぞ」
「ん、何が大丈夫なの?」
「姉上の住まう城にも温泉は引かれているらしい。滞在することになれば、城で温泉入り放題だぞ。たぶんな」
なんだってー!
そんな大事なことをなんで黙ってたの⁉
「すぐいこう! 早く挨拶に行こう! 何してるの⁉ みんな置いていくよ!」
ローラーシューズを起動して猛ダッシュだ!
「アリシア、待ってくれ~!」
遥か後方から情けない叫び声が聞こえてくる。
見ればわたしとスレッドリー&ラッシュさんの間には、すでにかなりの距離があった。2人は足元にたくさんのトランクケースを山積みにして途方に暮れていた。
「ん、何やってんの! 早くローラーシューズで……って、2人には渡してなかったっけ」
ごめんごめん。
ラダリィにしかローラーシューズをあげてなかったわ。
踵を返して2人の元へ。
途中でラダリィとすれ違う。すぐに追いつくからラダリィは先に行っててね。
「忘れてた! ごめんなさい。あー、えっと、スレッドリーはあれだよね。たしかエリオットに手ほどきを受けていたから、ローラーシューズ使えるよね?」
「おう。エリオットさん直伝のマッスルポーズもマスターしたぞ」
「うん……それはいいや」
「なんでだ⁉」
「エリオットのやつで見飽きてるから」
毎日毎日鏡の前で飽きもせずにポージングしている姿を眺め続けたわたしの身にもなって? 最初はちょっと珍しくて興味ある感じに話しかけていたけど、別にすっごい筋肉フェチってわけじゃないの。たっぷりと時間をかけてそれに気づかされたって感じかな。何事もほどほどが良いわー。
「ラッシュさんはローラーシューズ初ですか?」
ラッシュさんの足元にしゃがみ、足のサイズを確認する。まあまあ一般的なサイズだから在庫で賄えそう!
「はい。みなさんが滑っている姿は拝見していましたが、私自身は未経験です」
少し緊張の面持ちでわたしのことを見つめていた。
「あれだけ剣技が使えるんですから、運動神経はいいでしょ。ぜんぜん余裕ですって。はい、これを試しに履いてみてください」
アイテム収納ボックスから大きなサイズのローラーシューズを1足取り出して地面に置く。あ、こっちのトランクケースはわたしがアイテム収納ボックスにしまっておきますね。
「軽い……」
ふふ。
必ず最初はみんな靴の軽さに驚くのね。
スニーカー最高!
「靴に魔力を貯めるイメージを持ってくださいねー。それができればもう滑れたも同然ですから」
「魔力を貯める……」
うんうん、良い感じ。
1回言っただけで普通の人以上にシューズに魔力を貯められている。やっぱり運動神経良さそうで良かった。
「あとは最初の1歩を滑らすようにして足を出したらもうそれでOKですよ。片足を上げて、滑らかな氷の上をずっと向こうまで滑っていくイメージができれば完璧です」
「滑らかな氷の上を……なるほど、こうですね!」
うまいうまい。さすがラッシュさん。
「OKです。あとはスピード出し過ぎて街を歩く人にぶつからないように気をつけてくださいね。動きのイメージができれば、こうやって、直角に曲がったり、急停止したりもできますから、がんばって体で覚えていってください」
「わかりました。ありがとうございます」
よし、じゃあ改めてお姉様の住まうお城に向かって、全速前進ヨーソロー♪
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