第31話 アリシア、狂化する
朝日が昇り切った頃。
わたしたちは野営地を後にし、『ラミスフィア』に向かって移動を開始。移動中の車内で、みんなには朝食を取ってもらいつつ、ワイバーン軍団襲撃の件を報告していた。
「とまあそんなわけで、今朝方は大変だったよー。ナハハハハ」
「笑い事ではありませんよ! そういう時は私たちも起こしてくださらないと困ります!」
ラダリィが御者席と客車との連絡窓を強めにコンコンと叩いてきた。抗議的な? 何をそんなに怒っているのさー。結局わたしが倒すなら、事後報告でも良いのかなって思うんですよね。
「ヘンに不安を煽ってもあれかなーと。みんなぐっすり寝てるみたいだったし?」
「私も聖騎士として皆様をお守りする責務がございますので」
「お、俺もアリシアを守って戦うぞ!」
ラッシュさんとスレッドリーも名乗りを上げる。
まあみんな気合十分なのは良いことだけどね。
「はーい。じゃあ次からは全員起こしますからね。わたしとラダリィは守られる側ということで、おやつでも食べながら見学させてもらおうかなー♪」
「おう、任せておけ!」
まー、気合だけは一人前なんだけどな。どうなることやら……。
* * *
とまあそんなわけで深夜。
今日もワイバーン軍団による襲撃を受けてしまったのですよ。お客様、そんなに熱心に通われても困ります……。
こんなことなら野営せずに夜通し走れば良かったかな……。
「アリシア! こいつらけっこう強いぞ!」
「おー、がんばってー!」
王子さまー、気合を入れて戦えー!
というわけで、今日は約束通りスレッドリーとラッシュさんが迎撃担当でーす。
2人とも遠距離攻撃がないから、防戦一方で苦戦中。ポテトチップスむしゃむしゃ。
「あと165体だよー。早く倒さないと朝になっちゃうよー」
「わかってる! 1体1体は大したことないのに……まとめてかかってこい!」
「殿下。無用な挑発はおやめください。爪による強襲に気をつけてください!」
ラッシュさんも大変ですね。
そう、そこ!
迫ってきた爪を絡めるように! いいよー! 残り164体! あ、増援だ。残り289体に増えましたー。
「アリシア……」
「そんな顔して、どしたの?」
ラダリィが不安そうな目でこちらを見ている。
「この防護フィールドの中にいればワイバーンは入ってこれないよ。安心してね」
「そうではなく……。心配しているのは外の2人のことです」
「あー。まあ、今のところ深手も負ってないし大丈夫じゃないかな?」
ノーマルなワイバーンなら爪の攻撃しかないだろうし、一斉攻撃されてもたかが知れているというか。まさかと思うけど、ドラゴンみたいに火を吐くやつとかがこなければ。
≪ファイヤーワイバーンとライトニングワイバーンが現れました≫
はいはい。お約束お約束。
「えーと、新手の敵が迫っているらしいから、ちょっと選手交代しようかな」
「俺はまだやれる!」
「わかりました。アリシア様、あとはお願いいたします」
「ラッシュ、なぜだ! 俺は負けていないぞ!」
聞き分けの良いラッシュさんに比べて、スレッドリーは状況把握が甘いね。そこら辺、経験不足だなー。
「負けていないのはえらいよ。でもね、負けていないのと勝てるのは別だからね? 戦力分析はしっかりして、勝てる敵なのか見極めることができるようにならないと、この先戦い続けるのは難しいよ」
「そ、そうか……。俺は勝てないのか……」
「うん、まあ、単純な戦闘能力の差ってわけじゃないから仕方ないよ。今回のワイバーンとは相性が良くないよね。向こうは飛行できるのに、スレッドリーは剣の長さ分しか攻撃範囲がないからね」
「長い剣を使えるようになれば……」
「そう単純なものでもないんだけどな。あ、でも、今回わたしと交代しないといけない理由はそこじゃないよ。新手がね、魔法使ってきそうだからね。魔法防御、低いでしょ?」
「あ、ああ……。すまない」
スレッドリーが苦い顔をする。
「だからー、責めてるわけじゃないって。パーティー戦なんだから、向き不向きがあっていいの。戦士の魔法防御なんて、魔法使いがバフかけてなんぼだし、そこは気にするところじゃないよ。よくやった。今はスイッチしようってだけ」
「……わかった。あとは任せた」
「OK! じゃあ2人は防護フィールドの中に入っててー」
緊急脱出孔を通って、わたしとスレッドリー、ラッシュ組は入れ替わる。
さて、一気に片づけますかねー。
≪ファイヤーワイバーンとライトニングワイバーン到着まで残り20秒≫
ほいほい、それまでにノーマルさんたちには退場願おうかな。
ライトサーベル3刀流。
全敵ロックオン。
289体に向けて、全魔力の内3割を使用して、追尾式レーザービームを照射だ!
いっけー!
派手に爆散しろー!
レーザー攻撃を避けようと、蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑うワイバーンたち。
でも無駄だよ♡
キミたちが死ぬ前ストーキングしてあ・げ・る♡
何度も何度も。
翼に穴が開いて飛行能力がなくなっても、爪がはがれて攻撃手段がなくなってもね。
跡形もなく燃えて焦げて、この世界から存在が消えるまで追いかけ続けるからね♡
≪アリシアが狂化しました≫
し、してないわ!
≪失礼しました。もともとでした。されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし≫
バーサーカーを召喚しようとするな!
まったく。
≪敵影なし。ファイヤーワイバーンとライトニングワイバーンも爆発に巻き込まれて消滅しました≫
え、そんなあっさり?
これから見せ場だと思ったのに……。
≪燃やされたワイバーンが狂ったように飛び回った際に巻き込まれたようです≫
まあいいや。
ファイヤーとかライトニングなんて大層な名前がついていても所詮はワイバーン。ドラゴンにもなれない小者ってことよね。
≪ワイバーンとドラゴンの違いについては諸説あります≫
長くなりそうだからその解説はまた今度お願いします。
「はーい。敵は殲滅できたので今夜は解散でーす」
わたしも防護フィールドの中に戻る。
「お、おみごと……。さすがアリシア様、底がしれませんね……」
「そのレーザービームというものは強いな。俺も使いたいぞ」
「アリシアの攻撃はとても派手できれいですね」
ラッシュさんは若干恐怖したような表情を見せ、スレッドリーは目を輝かせ、ラダリィはうっとりとしていた。それぞれ反応が違っておもしろいね。
「ま、夜も遅いからそれぞれの寝床へ戻りましょう。明日のお昼には『ラミスフィア』に到着予定ですよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます