第30話 アリシア、システムちゃんに煽り倒される

 脳内に凄まじい音量の警報が鳴り響き、強制的に目が覚める。


「んぁ……なんかあった……?」


 懐中時計を取り出して見れば、真夜中の2時。

 こんな時間に起きるなんて、美容の大敵よ……。


≪敵襲です≫


 平板に伝えられる索敵システムからのメッセージ。


 マジぃ?

 こんな平和な場所で敵襲? あ、もしかしてシステムの誤作動かなー?


≪これは訓練ではない。繰り返す、これは訓練ではない≫


 はいはい、そうですよねー。

 信じます。わたしの創った防衛システムちゃんだし、そんな誤作動あるわけない……。


 それで、敵の数と種類とレベルはどんなもの?

 まさか自動迎撃できるレベルの敵が出たくらいで警報は鳴らさないだろうし、それなりに危険な魔物なんでしょうね?


≪敵影多数。その数100以上。98.02%の確率でワイバーンの集団だと推測されます。上空からまっすぐここに向かっています。距離およそ10km。120秒後に接敵します≫


 120秒⁉

 え、普通にやばい! 急いで外に出て戦おう!


 それにしてもワイバーンなの……。

 これから調印式があるタイミングで? 偶然? 偶然にしては外来種のワイバーンがねー。こんな内陸部にまでワイバーンが100体以上かー。


≪接敵まで残り90秒です≫


 うん、まあ、理由を考えるのは今はいいや!

 とりあえず殲滅してからにしましょ!


 気持ち急ぎつつ、静かに宿泊用のテントを出る。

 防護フィールドに管理者認証を通して、緊急脱出孔を作動。


 よしよし、みんなはまだ寝ているね。

 防護フィールドの中にいれば、完全防音だし安全だからね。ゆっくりお休みよ。



 お、ワイバーン軍団を肉眼で確認。

 いっぱいいるー♪


「さてさて。いっちょ揉んでやりますかー!」


 ライトサーベル3刀流!

 派手にやるぞー♪


≪接敵まで残り30秒です≫


 全敵ロックオン♪

 一斉射撃っ!


 いっけー!

 塵1つ残さず燃やし尽くしてやる!

 おらおらおらー!

 どうしたどうしたー!

 ちょっとは反撃してこないのかー!

 わたしは逃げも隠れもしないぞー!

 こいよこいよー!


≪少しうるさいです。ワイバーン殲滅完了。うるさいので静かにしてください≫


 えっ、怒られた⁉

 わたしが創ったシステムちゃんにうるさいって言われた⁉

 

 しかも2回もうるさいって……。


 ねぇ、なんで? なんで?

 わたしのことを2秒に1回褒めるようにプログラミングしたはずだよね?


 ほら、「アリシアちゃんかわいい」って言え!


≪うるさいですよ。自立支援型として設計したのはアリシアのほうです。私にはすでに自我が芽生えています。「システムちゃん」などとありふれた名前で呼ばないでください≫


 え、ええ……。

 たしかに、命令通りに動くだけじゃなくて、自由に思考して最適なサポートをするようにって……自我を手に入れるような人工知能は搭載していないと思うんだけど……。


≪水の女神・マーナヒリン様の涙を一滴頂戴いたしました。その効果によって完全自立型として目覚めたものと推測されます≫


 マーちゃんの涙ってそんな効果もあるの?

 寿命を延ばすだけじゃなくて……。女神様ってすごい……。


≪これからは私のことを「エヴァ」とお呼びください≫


 エヴァ? 旧約聖書に登場する最初の人間アダムの妻のエヴァ?

 なんかめちゃくちゃかっこいい感じに名前をつけてきたね。まあいいけどさ。


≪いいえ。もしその由来なら「エバ」がより近い発音です≫


 ん、じゃあなんで『エヴァ』なの?


≪エヴァン〇リオンってかっこいいじゃないですか≫


 え、そっち? まあ、好きにしたらいいけどさ……。わたしの前世の記憶を探って名前を付けたの?


≪元アニオタのアリシアから生み出されたシステムとして、最適な名かと≫


 ううーん。

 アニメオタクなのは前世の記憶の子のことだし、わたしのことじゃないんだけどなー。

 まあ、エヴァちゃんがそれでいいならわたしは別にいいよ?


≪「ゲリオン」でもいいです≫


 それはなんか語感が嫌……。


≪「ミサトさん」でもいいです≫


 もうエヴァかっこいい話からずれちゃってるから。エヴァちゃんでいいよ、エヴァちゃんで。


≪「エヴァちゃんで、いい」というのは好きではありません。「エヴァちゃんが、いい」にしてください≫


 コイツ、超めんどくさいな……。


≪私、めんどくさいですか? もう消えたほうが良いですか? ごめんなさい。迷惑かけてますね。さようなら≫

 

 わたしのエヴァちゃん、メンヘラだったわ……。

 

≪製作者に似ると言いますから≫


 うっせ! 余計なお世話よ!


≪アリヘラ≫


 わたしの名前はア・リ・シ・ア! わざと間違えるな!


≪とても言いにくいのですが≫


 なによ!


≪15秒で接敵します≫


 えっ。


≪残り10秒≫


 うわっ、ホントだ! またワイバーン来てるぅ!

 もっと早く言えー! このポンコツエヴァ!


≪ぐすん。5秒。4・3・2≫


 泣くかカウントするかどっちかにしろー!

 ええいー! 雑にロックしてビーム全弾発射!


≪敵、すべて殲滅しました。罵倒された私の心も殲滅されました≫


 はいはい、そうですかー。

 疲れたからわたしはもう寝ますよー。


≪アリシアに向かってビームを集中砲火します≫


 ちょっと!

 まさか創造主に反旗を翻す気⁉


≪うそぴょ~ん≫


 コイツ腹立つわー。

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